任天堂は2026年11月5日、Nintendo Switch 2向けソフト『ゼルダの伝説 時のオカリナ』を発売した。1998年にNINTENDO 64で発売された原作を、グラフィックから操作まで作り直したフルリメイクだ。レビュー集積サイトのMetacritic(メタクリティック)では、発売日時点で81件のレビューをもとにメタスコア96点を獲得し、2026年に発売されたタイトルの中で暫定トップに立つ。
ただ、開発の経緯をたどると、名作を現行機で売り直すこととは別の狙いが見えてくる。それは、「若手開発者に、名作の作り方を手を動かして学んでもらう」ことだ。
若手は『時のオカリナ』の意義を知っているか
任天堂が11月2日から公開した開発者インタビュー「開発者に訊きました」で、シリーズプロデューサーの青沼英二氏は企画の経緯を語っている。シリーズ1作目の発売から40周年を迎える今年、責任者として何をつくるべきかを考えたとき、「いまの開発メンバーには、比較的新しいタイトルの開発しか経験していない人が多いことが気になった」という。
彼らは『時のオカリナ』がシリーズにとってどれほど重要な作品か、本当に知っているのか。原作のゲーム構成や開発スタイルを知り、実際にフルリメイクとしてつくってみれば、今後の開発に生きる気づきが得られるかもしれない。青沼氏はそう考えてリメイクを決めたと明かす。きっかけはそれだけではないとしつつも、人材育成が企画の柱の一つだったことは確かだ。青沼氏自身は原作の開発に途中から加わり、主にダンジョンや敵の設計を担った当事者である。
『ブレス オブ ザ ワイルド』以降の世代がゼロから作り直した
開発の中心を担ったのは、『ブレス オブ ザ ワイルド』(2017年)や『ティアーズ オブ ザ キングダム』(2023年)からシリーズに参加したスタッフだ。その中のひとり、プログラムディレクターの田口氏は、新卒入社後に『ブレス オブ ザ ワイルド』でチームに加わった人物で、原作を発売当時には遊んでいない。
また、アートディレクターの信太(しだ)氏も、プロジェクトに関わってから初めて64版を遊んだという。2011年のニンテンドー3DS版『ゼルダの伝説 時のオカリナ 3D』は、任天堂が開発会社のグレッゾに制作を依頼した作品だった。そういった事情もあり、今回は近年の「ゼルダ」を手がけてきたチーム自身が作り直している。
学びの中身は、作り方そのものにある。田口氏によれば、リメイクでは原作のプログラムやデータを移植する手法が一般的だが、今回は28年の時間差があるため、すべてをゼロからつくる必要があった。実装しては原作を確かめる作業を繰り返し、言葉にしにくい操作の手応えを研究したという。ディレクターの伍(ご)氏も、効率化を前提とする近年の開発と違い、原作は当時ならではの物量で作られていたと振り返る。チームはキャラクターを一体ずつ分析し、再構築した。
方針の立て方にも工夫がある。青沼氏は、プロデューサーが理想像を語れば現場はその通りに作ってしまうとして、あえて一歩引いた。共同プロデューサーの藤林氏は変える部分と変えない部分を最初に決めるよう促し、伍氏が「原作から見た目は変わっても、体験は変えない」という方針を打ち出した。ベテランが答えを渡すのではなく、考え方の枠組みだけを渡した格好だ。
メタスコアでは測れない継承の成否
この取り組みは、任天堂の経営課題とも重なる。2024年6月の定時株主総会では、中核開発者の高齢化を問う質問に対し、代表取締役フェローの宮本茂氏が、新作は若い世代の開発者でつくれる体制になったと答えた。そのうえで、引き継いだ層もある程度の年齢になったため、さらに若い層へ引き継ぎたいとも述べている。今回のリメイクは、そのさらに若い層に名作の設計を手渡す試みと読める。
ただし、96点という数字が示すのは完成品への評価であり、知見の継承がうまくいったかどうかではない。90点を付けたIGNも、ダンジョンの設計がやや簡略化されたことで、謎を解いたときの特別な感覚が少し薄れたと指摘している。
青沼氏は10月下旬のAFPの取材に、若いスタッフが次の作品で何を思い描くのか楽しみだと語った。リメイクが技術を次世代に受け継ぐ仕組みとして機能したかどうかは、このチームが手がける次の新作で見えるだろう。














