2026年8月11日に発売された1枚のCDシングルが、初週で105.3万枚を売り上げました。オリコンの週間シングルランキングで1位を獲得し、今年度のシングルとしては最高の数字を記録。初週ミリオン達成も、今年度初の快挙となります。
その作品が、EBiDAN(恵比寿学園男子部)の15周年記念シングル「Yes! 東京」です。
EBiDANは、スターダストプロモーションに所属する男性グループが集まったプロジェクトです。今作の「Yes! 東京」には、超特急、M!LK、SUPER★DRAGON、Sakurashimeji、ONE N’ ONLY、原因は自分にある。、BUDDiiS、ICEx、Lienelという全9グループ・総勢60名が参加しています。
では、なぜ「Yes! 東京」は初週105.3万枚という異例のメガヒットを生み出すことができたのでしょうか。
その要因について、私は以下の「3つの段階」に分けて考察しています。
・第1段階:内側を深めること ファン一人あたりの熱量と支出を最大化するCDの設計
・第2段階:外に広げること その熱量を、まだEBiDANを知らない人の目に触れさせる話題化の施策
・第3段階:配り直すこと 集まった注目を、9つの各グループへと伝播・還元させる動き
前回の記事(コラムvol.6)では、内側を深めるCDの設計と、それを外側へと広げていく話題化という「第1段階」と「第2段階」について触れました。
サブスクで「体験入学」させるEBiDANの発明【望月優夢のアイビズスコープ #06】
そして今回お話しするのが、いよいよ「第3段階」についてです。
全体で大きく集めた注目を、今度は9つあるそれぞれのグループへどう配り直していくのか。
私自身、一連の施策のなかで最も学びが多く、非常に興味深いと感じたのが、実はこの「配り直す」というプロセスでした。今回はこの第3段階のメカニズムについて深掘りしていきます。
1. 【落とし穴】合同企画は、終わったあとに何も残らない
大人数の合同企画には、終わったあとに何も残らないという落とし穴があります。
お祭りとしては盛り上がる。でも、参加した個々のグループの動員もフォロワーも変わらない。そういう結果になりやすいと感じています。
理由ははっきりしていて、注目が集合体の名前に集まってしまうからです。
ファンにとっては「あの企画すごかったね」になる。でもファン以外にとっては、「あのグループが気になる」まで行かない。
ただ、今回の「Yes!東京」の動きを見ていると、うちに閉じた企画にはならないように設計しているように見えてきました。
8月に入ってからの動きから、注目を配り直す施策を3つ挙げます。
①ひとつめ、9グループへ配る。ライブ冒頭2曲を、12か所のタイムラインで同時に無料公開した
②ふたつめ、60人の個人へ配る。名前が出るミュージックビデオと、相性診断
③みっつめ、1人ずつ順番に配る。「THE FIRST TAKE」の企画「HIGHLIGHT」とのコラボ
順に見ていきます。
2. 【配り直し① 9グループへ】同じ映像を、12のタイムラインに流す
① ライブ冒頭2曲を、無料で生配信した
ひとつめは、9グループのタイムラインへ配る動きです。ライブ冒頭2曲を、無料で生配信しました。
8月13日から16日にかけて、国立代々木競技場第一体育館で「EBiDAN THE LIVE 2026 15th Anniversary」が4公演開催されました。ライブは、動画配信サービスU-NEXTでの独占生配信です。
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「#EBiDAN THE LIVE 2026 15th Anniversary」
U-NEXTにて独占ライブ配信決定📢
\8/13(木)〜8/16(日)までの4日間にわたり開催される「EBiDAN THE LIVE 2026 15th Anniversary」の全4公演をU-NEXTにて生配信することが決定‼️
U-NEXT月額会員の方なら追加料金なくお楽しみいただけます📺… pic.twitter.com/M4i4Vcnooz
— EBiDAN OFFICIAL (@EBiDAN_official) June 18, 2026
そのうえで、Xでも各公演の冒頭2曲のパフォーマンスを、無料で生配信しました。
【🔴LIVE】
━━━━━━━━━━
EBiDAN THE LIVE 2026
15th Anniversary
━━━━━━━━━━ただいまオリジナル番組配信中‼️
この後18:00頃より、エビライ本編冒頭2曲を無料生配信⭐️https://t.co/a6EgLRv84i— EBiDAN OFFICIAL (@EBiDAN_official) August 13, 2026
なんと、公開先は12か所。
EBiDAN公式X、9グループそれぞれの公式X、EBiDAN公式YouTube、U-NEXT公式TikTokです。
同じライブ映像を12か所すべてで無料で流すというのが、この設計の要です。
② なぜ1か所に集約しないのか
合同企画の配信は、普通なら本体のアカウント1つに集約します。
そのほうが視聴数もいいね数も一点に集まるからです。数字が分散しない。
しかしEBiDANは、12か所に同じものを流しました。
ここには2つの狙いがあると思っています。
ひとつは、9グループそれぞれのファンに、自分の場所で受け取ってもらうこと。
超特急のファンは超特急のタイムラインで、Lienelのファンは自分がフォローしているLienelのタイムラインで、それを目にします。
わざわざ別のアカウントを見に行かなくていい。自分の一番追っているアカウントで起きたことになるので、反応もコメントもしやすくなる。
12か所に分けたのは、数字の大きさより、9つのファンダムそれぞれの当事者意識を取りにいった判断だと思います。
③ 動線をひとつも踏ませない
もうひとつが、EBiDANを知らない人に、何も踏ませずに届けること。
Xのタイムラインを眺めているだけで、ライブが見られてしまう。リンクを踏む必要も、別のアプリを開く必要も、会員登録をする必要もない。
普通、ライブ映像を見てもらうには、告知を見る、リンクを踏む、サービスに登録する、という段階を越えてもらう必要があります。
そしてそれは、1段階ごとに人は減っていく。EBiDANはその段階を全部飛ばして、パフォーマンスそのものをタイムラインに置きました。それを12箇所でトライしたということです。
加えて、開演の約55分前からオリジナル番組が配信されました。
【🔴LIVE】
━━━━━━━━━━
EBiDAN THE LIVE 2026
15th Anniversary
━━━━━━━━━━
8/13(木)〜8/16(日)全4公演を U-NEXTにて生配信📣Xライブで冒頭2曲を特別配信🎉
さらに開演前には、ここでしか見られないオリジナル番組の配信も決定!エビライ2026の開幕の瞬間をお見逃しなく!!…
— EBiDAN OFFICIAL (@EBiDAN_official) August 12, 2026
昨年のライブから厳選したパフォーマンスや、「Yes! 東京」の未公開メイキング映像です。
無料公開が始まる前から人を集めておく。集まった人に冒頭2曲を見せる。続きが見たければU-NEXTに入ってもらう。この順番が、丁寧に組まれています。
3. 【配り直し② 60人へ】名前が出るMVと、相性診断
① 「名前が分からない」で離脱する問題
ふたつめは、60人の個人へ配る動きです。鍵になるのは、入口の設計です。
大人数グループを見たときに起きることって、だいたい決まっています。「かっこいい人がいた。でも名前が分からない」。そこから調べる工程が発生して、面倒になって、その途中で離脱する。
EBiDANはこの入口を、2つ用意しました。
② 60人の名前が出るミュージックビデオ
ひとつが、「Yes! 東京」のミュージックビデオの「おのおののネームver.」です。
このバージョンでは、60人全員の名前がテロップで表示されます。教室で全員が踊っている絵の上に、一人ひとりの名前が乗っている。
これは、名前を調べる工程を丸ごと消しています。見ている最中に、気になった人の名前がその場で分かる。そしてすぐ検索できる。
画面はかなりの情報量でカオスな状態になりますが、大人数グループの入口としては理にかなった作りだと思います。
③ 相性のいいメンバーを提示する診断
もうひとつが、「EBTi診断」です。公式が公開している診断コンテンツで、答えていくと自分と相性のいいメンバーが提示される仕組みになっています。
60人という数は、興味を持った人にとっては多すぎます。この診断は、その壁を壊す装置です。全体への興味を、個人への興味に変換してくれる。結果をSNSに投稿したくなるので、投稿がまた別の人の入口になります。



ミュージックビデオは「映像を見ながら1人を見つける」入口。診断は「答えながら1人に出会う」入口。
入口の作り方が、ひとつではなく複数ある。
大人数グループの新規獲得で最大の課題は、この入口です。全体を見せるだけでは、誰も個人にたどり着けない。EBiDANは、そこに2つの別々の経路を用意しました。
4. 【配り直し③ 1人ずつ】なぜHIGHLIGHTはONE N’ ONLYから始まったのか
① 「THE FIRST TAKE」の企画とのコラボ
みっつめは、1人ずつ順番に配る動きです。一発撮りの音楽動画で知られる「THE FIRST TAKE」の企画「HIGHLIGHT」とのコラボです。
HIGHLIGHTは、ダンスや楽器演奏などにフォーカスして、本編では伝えきれないアーティストの魅力や、グループのなかのひとりが放つ輝きにスポットを当てる企画です。
この企画の趣旨が、EBiDANの課題と噛み合っています。60人を1人ずつ見せたいEBiDANと、グループのなかのひとりを見せたいHIGHLIGHT。組む相手として、これ以上ないと思います。
内容は、選ばれたメンバーが「Yes! 東京」をHIGHLIGHT用にリミックスした音源で、一発撮りのソロダンスを披露するというもの。順次登場していく形式とのことです。
そして第1弾が、ライブ最終日の8月16日22時に公開されました。登場したのは、ONE N’ ONLYのHAYATOさんです。
② テレビの知名度と、SNSの拡散力は別の軸
ここが個人的にいちばん面白かったところで、国内での知名度でいえば、去年の紅白に出たM!LKや、11月に東京ドーム公演を控える超特急のほうが上です。初速の数字を取るなら、そこから始めるのが自然に思えます。
ただ、ONE N’ ONLYには別の強さがあります。
このグループ、TikTokのフォロワー数が日本人男性アーティストで1位なんです。
@onenonly_tokyo baile sexy🫣 #Shakira#KarolG#ONENONLY#ONO#ワンエン#REI#KENSHIN#NAOYA#EIKU#HAYATO#TETTA#fyp#foryou @Shakira@Karol G
2026年8月現在で560万人を超えていて、総再生回数も5億回を超えています。
アジア・中南米・欧州を中心に海外のファンが多く、ラテンアメリカツアーも行っている。J-POPでもK-POPでもない「JK-POP」を掲げているグループです。
つまり、国内のテレビでの知名度と、SNSでの拡散力は、別の軸なんですね。
さらにHAYATOさんは「Yes! 東京」の中で「Do you feel “WABI SABI”?」というラップパートを担当していて、歌詞の面白さとラップの存在感が相まって「わびさびニキ」として話題になっていました。
Youtubeは、SNSで拡散されてこそ意味があります。
だとすれば1本目に置くべきは、テレビでいちばん知られているグループではなく、SNSでいちばん強いグループです。
楽曲の中で生まれた話題と、すでにSNSでの拡散力を持つグループ。この2つが重なったのが、ONE N’ ONLYだったのかなと思います。
5. 【3つの共通点】集めた注目を、個に配り直す
これら3つに共通しているのは、「Yes! 東京」で集めた注目を、EBiDANという集合体に留めていないことです。
12か所への同時公開は、9グループのタイムラインに配る動き。ネームバージョンのミュージックビデオと診断は、60人の個人に配る動き。HIGHLIGHTは、1人ずつ順番に配っていく動き。
集合体で注目を集めて、それを個に配り直す。ここまでやって初めて、合同企画は各グループの資産になります。
報道でも、先輩グループを応援していたファンがこの曲をきっかけに新たな推しに出会う「箱推し」現象が増えている、と伝えられていました。設計した通りのことが起きている、ということだと思います。
6. 【基準は3つ】紅白の選考基準で、現在地を分解する
① NHKが公表している3つの基準
ここから、年末の話をします。いよいよ2026年も下半期に入って気になる話題になってきたのが紅白歌合戦の出場者。
NHKは2025年11月14日の第76回出場歌手発表会見で、選考基準を説明しています。
報じられている内容によると、基準は3つでした。「今年の活躍」「世論の支持」「番組の企画・演出」です。
この3つを中心に、各種データを参考資料として検討のうえ総合的に判断した、という説明でした。
この3つの観点で今のEBiDAN分解すると、現在地がきれいに整理できます。
② 「今年の活躍」は文句のつけようがない
オリコン週間シングルランキング1位、初週105.3万枚で今年度最高。Billboard JAPANのシングル・セールス・チャートでは初週131.3万枚で首位、2021年以降で初週売上が最も多いシングルになりました。
そして私がいちばん大きいと思っているのが、Billboard JAPANの総合ソング・チャート「JAPAN Hot 100」でも首位を獲得したことです。
Hot 100は、CDの売上だけで決まるチャートではありません。ストリーミング、ダウンロード、動画再生、ラジオ、カラオケなど複数の指標を合成して順位が決まります。CDを大量に売っただけでは、ここは取れない。
実際、「Yes! 東京」はオリコンの週間ストリーミングランキングでも、2026年7月20日付から8月17日付まで5週連続で1位を獲得していました。登場2週目に週間1636.0万回でEBiDAN初の1位、翌週も1565.2万回。大ヒットの目安とされるのが週間1000万回と言われるなかで、その1.5倍の水準を続けていたことになります。
さらに8月31日付では、M!LKが歌唱した「体験入学」版が1位に浮上し、オリジナル版が3位。EBiDAN関連の楽曲がトップ3に2曲入る状態になりました。
CDで枚数を積む導線と、ストリーミングで再生数を積む導線が、別々に用意されていて、両方が機能している。その両方が合わさった結果が、総合首位です。
③ 「番組の企画・演出」も強い
60人が一度にステージに立つ絵は、それだけで年に一度の特番の目玉になります。しかも曲名が「Yes! 東京」です。渋谷のNHKホールで披露するには、もってこいの曲名だと思います。
楽曲のテーマも夢や多様性を全肯定するもので、紅白の企画趣旨と相性が良い。9グループが順番に出てきて最後に全員で歌う、という構成もそのまま作れます。
④ 問題は「世論の支持」
105.3万枚という数字は、たしかにとんでもない数字です。ただこの数字は、105万人がEBiDANを知っているという意味ではありません。
前回分解した通り、これは「15形態 × 60人分のファンダム × 4ヶ月の予約期間 × 3弾のシリアル施策」の掛け算の結果です。1人が5枚、10枚、15枚と買える構造になっている。
ファンの熱量の数字であって、世論の支持の数字ではないんですね。
そして「世論の支持」という基準について、NHKは世論調査を参考資料としていると説明しています。
報じられている内容によれば、全国の7歳以上を対象にした電話調査とウェブアンケートで「紅白に出場してほしい歌手」を聞いた結果が使われているとのことです。
CDを何枚買ったかではなく、テレビの前の人が名前を挙げてくれるかどうか。ここはファンの熱量だけでは通りにくい基準です。
3つの基準のうち2つはすでにクリアしていて、残る1つだけが未知数。EBiDANの紅白は、そういう状態にあると私は見ています。
7. 【ルートは3つ】EBiDANとして、超特急として、M!LKとして
① M!LKはすでに1度通っている
2025年12月31日放送の第76回NHK紅白歌合戦で、M!LKが初出場しています。「EBiDANから紅白」というルートは、すでに開かれているんですね。
ですので、今年のEBiDANにとっての大きな問いは「紅白に出られるか」ではなく、「EBiDANという集合体として出られるか」になります。
M!LKは2025年に「イイじゃん」がSNSを中心にバイラルヒットし、そこから紅白初出場に到達しました。紅白で終わらなかったのが大きくて、2025年10月に配信された「好きすぎて滅!」は、SNS総再生数30億回、ストリーミング累計再生数1億回を突破。2026年上半期のJAPAN Hot 100ではトップ10に2曲が入っています。9月26日からは、約16万人動員規模のアリーナツアーも始まります。
紅白に出た年の翌年、勢いが落ちるグループは正直たくさんあります。
ただM!LKはむしろ加速していて、連続してヒットを出している。
一発当たった人たちではなく、当て続けている人たちとして認識される状態。間違いなく今年も出られると思っています。
② 超特急には、単独で出る道もある
そして超特急です。
超特急は、2026年11月25日と26日に東京ドーム公演を行います。5月10日に一般発売された初日が翌日には完売し、5月11日の生配信で追加公演が発表されました。そしてその2日目も、すでに完売しています。
東京ドーム2days、いずれも完売済み。
ここで先に書いておきたいのですが、超特急には超特急として紅白に出る可能性もあります。東京ドーム2daysを完売させたグループが、その年の紅白の候補に入らないほうが不自然です。「今年の活躍」という基準に、これ以上わかりやすい実績はありません。
しかも超特急は今年で結成15年目。EBiDANという枠組みそのものが、2011年の超特急の結成から始まっています。番組として物語を作るなら、これも強い素材です。
弱点あえて挙げるなら、M!LKの「イイじゃん」のように世間の側から広がった単独曲が、今年の超特急にはまだ見えていないことです。
超特急の強さは動員に出ていて、それは数字としては確かなのですが、テレビの前の人が曲名を挙げられるかというと、また別の話になる。
ただ、その役割を担いうる曲はあります。「ガチ夢中!」です。
動員ではすでに実績が出ているグループなので、ここに1000万回再生を超え始めて、1曲が流れに乗ったときにどう跳ねるかは、個人的にかなり楽しみにしています。
③ 3つのルートは、排他ではない
そう考えると、年末に起こりうる形は3つあります。
ひとつが、EBiDANとして60人で出る形。
ふたつめが、超特急が単独で初出場する形。
みっつめが、M!LKが2年連続で出る形です。
そしてこの3つは、どれかひとつしか起きないという関係ではありません。M!LKが2年連続で出て、そこに超特急が加わることもありうる。あるいは、EBiDANという集合体で1枠を取って、その中に超特急もM!LKも含まれる形もありうる。
あとはEBiDANメドレーという形も大いにあり得る。
私が面白いと思っているのは、どのルートで通っても、EBiDANという枠組み全体に返ってくる構造になっていることです。
超特急が単独で出れば、超特急を知った人がEBiDANにたどり着く。M!LKが2年連続で出れば、去年からの継続として認識される。EBiDANとして出れば、9グループがまとめて画面に映る。
去年M!LKが紅白に出たことで、EBiDANという名前を初めて知った人がいるはずです。それと同じことが、今年も別の入口から起きる。
だから私は、「EBiDANが出られるか」という問い方より、「今年、EBiDANのどこかが紅白に立つか」という視点のほうが、実態に近いと思っています。
8. 【顔と名前】チャートの1位と、名前を書いてもらうことは別
① 自由回答では、名前が書けないと票にならない
そのうえで、課題はまだ残っていると思っています。
チャートで1位を取ることと、テレビの前の人が名前を挙げてくれることは、イコールではありません。
先ほど触れた通り、紅白の「世論の支持」は世論調査をもとにしていると説明されています。「紅白に出場してほしい歌手」を挙げてもらう形式です。ここで重要なのは、自由に答える形式だということ。つまり、名前が書けなければ1票にならない。
いまEBiDANに起きているのは、顔の認知は積み上がっているけれど、それが「EBiDAN」という名前の認知に変換されているかが、絶妙に読みにくい状態だと私は見ています。
そしてこの変換をやる装置は、すでに走っています。60人の名前がテロップで出るミュージックビデオは、顔と名前を同時に見せる装置です。診断は、メンバーの名前を認識させる装置。HIGHLIGHTは、名前を出して1人ずつ見せる装置。
ここまで見てきた施策が、全部この方向を向いています。
9. 【ドラマ枠】1か月で15作品という露出量
① 音楽番組でもバラエティでもない経路
では、その「顔の認知」はどこで作られているのか。
ここが今回いちばん可能性を感じている部分なのですが、ドラマです。
普通のアイドル事務所がテレビ露出を取ろうとすると、音楽番組かバラエティになります。枠が限られていて、競争も激しい。
でもスターダストは、俳優としてドラマに人を送り込めます。しかもドラマは1クール10話前後あるので、1本の出演が10回分の露出になる。音楽番組に1回出るのとは、露出の総量がまったく違います。
2026年8月のスケジュールをまとめただけで、ドラマと映画が15作品ありました。

超特急のタクヤさんがフジテレビ木曜劇場「ラストノート」、M!LKの佐野勇斗さんがTBS系火曜ドラマ「君の好きは無敵」、ICExの志賀李玖さんが大河ドラマ「豊臣兄弟!」。BLドラマも6作品あります。
数えると、9グループ中7グループから、14人が出ていました。
これは、事務所が俳優マネジメントを本業として持っているからできることだと思います。
K-POPの事務所にも、音楽専業の事務所にもない構造です。アイドルが演技もやる、というより、俳優事務所がアイドルもやっている、と捉えたほうが実態に近いのかもしれません。
② 出演者も主題歌もEBiDAN
ひとつ、面白い例があります。
原因は自分にある。の桜木雅哉さんがW主演の「ちょっと待とうよ、春虎くん」は、オープニング主題歌をEBiDANのグループ「Lienel」が担当しています。Lienelは今シーズン、メンバーのドラマ出演はありません。でも主題歌という別の形で、同じ作品に入っている。
出演者も主題歌もEBiDAN、という状態です。1本のドラマから、顔の露出と楽曲の露出を同時に取っている。キャストと音源の両方を社内で供給できるからできることで、俳優事務所がアイドルもやっているという構造がいちばん分かりやすく出ている例だと思います。
③ BLという、別のファンダムへの接続点
一覧を見ていて目を引いたのが、BLドラマの多さです。
BL作品は、原作の漫画や小説にすでにファンダムが存在していること、そしてそもそもジャンルへのファンが多い。つまり、ゼロから集客する必要がありません。もともと別の場所にいた人たちが、その作品を目当てに見に来る。
そしてBLは、日本のドラマが海外に届きやすい数少ないジャンルでもあります。わかりやすいのが2020年のテレビ東京「チェリまほ」で、台湾の配信サービスKKTVで6週連続チャンネル内1位、現地のトレンド分析サイトの日本ドラマ部門では『半沢直樹』や『逃げ恥』を超えて1位になりました。その後、タイでリメイクもされています。
日本の連ドラが、海外の指標で代表作を上回る。しかも現地で作り直されるところまで行く。他のジャンルではなかなか起きないことだと思います。
もちろん、いま挙げた作品が全て海外でそうなっているという話ではありません。ジャンルとしてそういう回路が開いている、ということです。アイドルのファンでも音楽ファンでもない層に届く道が、ここにある。
④ 顔の認知が、名前の認知に変わる瞬間
では、その「顔の認知」が「名前の認知」に変わるのは、どういうときなのか。すでに起きている例が2つあります。
ひとつが、M!LKの佐野勇斗さんです。佐野さんは、オリコンの「2025年ブレイク俳優ランキング(男性編)」で1位になっています。そして同じ2025年に、M!LKが紅白に初出場した。俳優としていちばん認知された年と、グループが紅白に届いた年が、重なっているんですね。佐野さんはどこの現場に行っても「M!LKの佐野勇斗です」という紹介をすることで、多くの人が聞いたことのあるグループになっていった、という話もあります。
もうひとつが、今年4月の朝日放送テレビ「相席食堂」です。
M!LKの塩﨑太智さんが京都府宇治市を訪れた回で、退店するときに水の入ったバケツへ頭から突っ込み、逆立ち状態になりました。SNSでも話題になったのですが、私が注目したのはスタジオの反応のほうです。
千鳥のノブさんが「素晴らしい滅です!」とツッコんでいる。M!LKの『好きすぎて滅!』にかけた言葉です。
バラエティのその場のリアクションに、曲名がそのまま使われている。これは、その曲がすでに共通言語になっているということだと思います。台本で用意した紹介ではなく、反射的に出てくる言葉として楽曲が機能している。
そしてこのバズをきっかけに「相席食堂」には次々にEBiDANメンバーが出ているのも良い流れだと感じています。
顔の認知が名前の認知に変わるのは、たぶんこういう瞬間の積み重ねなんだと思います。
こういった瞬間を下半期にどれだけ積み重ねられるのか。ここが肝になってくる気がしています。
10. おわりに
前回と今回を通じて見てきたのは、3つの段階でした。内側を深めるCDの設計。外に広げる話題化。そして集めた注目を9グループに配り直す動き。
合同企画を1回きりのお祭りで終わらせず、各グループの資産に変えるところまでが設計に入っている。これが今回いちばんの学びでした。
紅白の選考基準3つのうち、「今年の活躍」と「番組の企画・演出」はすでにクリアしています。オリコンとBillboardの両方でシングル1位、しかもBillboardは総合チャートでも首位。残るは「世論の支持」だけです。
そしてその1つは、EBiDANとして出るルートでも、超特急が単独で出るルートでも、M!LKが連続で出るルートでも、同じように問われます。数字はある、絵も作れる、あとはテレビの前の人が名前を挙げてくれるかどうか。
私の見立てとしては、可能性はかなり高いと思っています。
ただそれは、CDの枚数が決めるのではなく、これから年末までの4ヶ月半で、EBiDANという名前と60人の顔がどこまで外側に届くかが決めることになるはずです。
この連載では、11月中旬の出場歌手発表まで定点観測していきます。
それでは、また次回。
引用文献
チャート(後編で追加のもの)
M!LK版「体験入学」が8/31付ストリーミング1位に浮上(週間709.2万回・累積1422.3万回)/オリジナル版は3位 ORICON NEWS 2026年8月26日発表
同上(オリジナル版が8/17付まで5週連続1位だった旨を含む) THE FIRST TIMES
グループ別「体験入学」版のストリーミング初登場(8/24付、M!LK ver.2位/原因は自分にある。38位/超特急50位/ONE N’ ONLY 69位) ORICON NEWS/同(別記事)
Billboard JAPAN Hot 100 首位(集計期間8/10〜8/16) Billboard JAPAN 2026年8月19日
グループ関連
超特急 東京ドーム公演 初日完売 超特急 OFFICIAL SITE
超特急 東京ドーム 追加公演決定(5月11日の生配信で発表) 音楽ナタリー 2026年5月11日
超特急 東京ドーム 追加公演も完売 EBiDAN OFFICIAL SITE
M!LK「好きすぎて滅!」実績(SNS総再生30億回・ストリーミング1億回突破) 音楽ナタリー インタビュー
佐野勇斗「2025年ブレイク俳優ランキング(男性編)」1位 スターダストプロモーション 公式プロフィール
塩﨑太智「相席食堂」出演回(2026年4月7日放送、千鳥・ノブの「素晴らしい滅です」) モデルプレス 2026年4月8日
BLドラマ
「チェリまほ」台湾KKTV 6週連続チャンネル内1位/網路温度計 日本ドラマ部門1位/赤楚衛二 Weibo話題俳優賞 マイナビニュース 2020年12月21日














