2026年6月30日、MIXIは映像生成AIで世界的に注目されるRunway(Runway AI, Inc.)とのエンタープライズパートナーシップ締結を発表した。
モンスターストライクの映像制作は約21日から約3日へ、外部委託なしの内製に。全社員の約99%が生成AIを使い、年間約10億円規模の利益貢献を生み出してきた同社のAI活用は、いよいよクリエイティブの本丸へ踏み込む。その旗振り役が、取締役 上級執行役員の村瀨龍馬氏だ。
ゲームクリエイターを夢見た少年は、なぜMIXIに入り、いまRunwayに“ラブレター”を書いたのか。効率化の数字のその先を聞いた。
村瀨 龍馬(むらせ・たつま)
株式会社MIXI取締役上級執行役員。1985年、神奈川県生まれ。2005年に株式会社イー・マーキュリー(現・株式会社MIXI)に入社し、SNS「mixi」の開発に携わる。2009年に退職後、ゲーム会社などを経て2013年に株式会社ミクシィ(現・株式会社MIXI)に再入社。「モンスターストライク」の開発に従事し、2016年にXFLAGスタジオ ゲーム開発室長、2018年に執行役員CTO。取締役CTOなどを経て、2023年4月より取締役 上級執行役員(現任)。全社横断の「AI推進委員会」を主管し、MIXIの生成AI活用を牽引する。
小学校の文集に「ゲームクリエイターになる」と書いた
――今日はRunwayとの提携を中心に伺いますが、その前に村瀨さんは子どもの頃からゲームを作りたかったそうですね。
村瀨:おお、そこからですね(笑)。まっすぐだったかというと、情報も機会もなかったので、漠然とした「なりたい」だけで将来が来ちゃったのが正直なところです。小学校の文集に「ゲームクリエイターになる」と書いた記憶がありますね。両親が一緒にファミコンをやっている背中を見て育って、年末年始は桃鉄をやる、という家庭でした。
ただ一方で、途中で家庭がちょっと壊れまして・・・どうこう言っている場合ではない状況だったんですが、高校生のときにたまたまMMORPG内で出会った人に「ゲームクリエイターになりたいなら、プログラマー、デザイナー、プロデューサーとかいろいろあるけど、どれ?」と聞かれて、「調べたことがないです」と。そこで初めて「プログラマーなら僕が行っていた専門学校がいいよ。ドット絵くらい描けたほうがいい」と教わって、ドット絵を描きながら動かして、初めてゲーム業界に向き合いました。
――そこからSNSのmixiへ、というのは意外な経路です。
村瀨:専門学校に入っても独学のほうが早かったせいで、年間百何十万円払っている割には「遅いな」となってしまって。いい学校だったんですけどね。ただ、私は次の学費が払えるか分からなかったので就職しようと。たまたま拾ってもらったのが、笠原健治のもと、ゲーム業界でも何でもないMIXIでした。とにかく稼がなきゃいけなかったんです。
でも、mixiも「人と人をつなげる」という意味では、私にとってすごく重要で両親をつないでくれたゲームみたいなものなんですよ。しかもユーザーとのインタラクションが速い。当時のゲーム業界は5、6年かけて1本作っていたのに、こちらは1時間、2時間のスピードでアップデートできるので楽しかったですね。日夜仕事をしながら、GDC(ゲーム開発者会議)などにも自腹で行って、ゲーム業界も知っておこうと。
――その後、一度ゲーム業界へ。
村瀨:5年ほどMIXIで頑張った後、「これからUnityが来るかも」という時期に、フロムソフトウェアの元ゲーム開発部長・大前広樹さんの独立に合わせて、一緒にゲームエンジンをもとにゲームを作りました。ただ、“音楽性の違い”のような理由で別れまして(笑)。大前さんはUnityの日本法人へ、私は「スターフォックス」などで知られる京都のキューゲームスへ。外国人社長のもと、サーバーをやりながらゲーム作りを学び、それで戻ってきて、モンストです。
――ずっとゲーム開発に携わってきて、「昔の自分にAIが使えたら」と思うことはありますか。
村瀨:いっぱいあります。ただ、ゼロから100まで全部AIで作ろうとは、多分思わないんです。たとえば「ここは流体力学を使って、水の表現をちゃんとやりたい」となったとき、数学を学ぶ必要がある。AIがあれば、自分なりの解釈を入れつつプログラムまで落とす作業がある程度楽になって、学びもできるし、やりたい表現もできる。クリエイターがクリエイターらしく、「ここはこだわりたい」というところに集中できるんです。
すごく細かい話だと、“ババババッ”と撃つときに画面をちょっと揺らしたい、とか。ああいう表現は、GPUやダブルバッファとか、いろんなことを知らないとできなかった。基礎は絶対知っているべきですが、ゲームの体験を何にも悩まずに、学びながら作れるという意味では──今のLLMがあったら、最高のゲーム作り人生になったなと(笑)。今回のRunwayにも、同じことが言えると思っています。
Runwayとの締結「私のラブレターが届いたんですかね」
――今回、単なるツール利用契約ではなく「エンタープライズパートナーシップ」という形にした理由は。

村瀨:Runwayが日本に来ると発表したとき、いろんな伝手で「お話をさせてほしい」と動いたのが正直なところです。一番やりたかったのは、もう制作の中核に入っているツールであるRunwayに、「こうなったらいいのに」を直接伝えること。それがRunwayのやりたいことと合致しているなら、共同で良くしていけばいい。「ここが良くなったということは、こっちに集中できるよね」という会話を、直接やりたかったんです。
他のLLM企業との提携も全部そうなんですが、基本は「AIが成長すると、我々がめちゃくちゃ成長する」ようにワークフローや機能を組むこと。映像生成AIも同じで、Runwayが成長すると、我々のワークフローが自動でどんどん縮まっていく状況を作り出す。「ここはRunwayでやっているから、この部分がもっと良くなるといいよね」というところまで設計して、一緒に組めませんか、という話をしてきました。もともと私自身、Gen-3のころからずっとRunwayを使い続けていたので。
――数あるツールの中でMIXIがRunwayを選んだ一方で、RunwayもMIXIを選んだわけですよね。
村瀨:嬉しいですね。私のラブレターが届いたんですかね。すごいラブレター、書きましたよ(笑)。会社の紹介もしたんですが、なぜRunwayに惹かれたかというと、共同創業者のクリス(クリストバル・バレンズエラCEO)がずっとエッセイを書いていて。制作のコストがどんどん安くなる時代には、それ以上にストーリーが希少になる。作る人が増えれば増えるほど、体験や価値のほうにみんなの比重が移っていく──というようなことを書いていて、すごく共感したんです。
ソースコードの世界も同じなんですよ。コーディングがエージェントでどんどん楽になってきたとき、僕たちエンジニアはどこで価値を出すのか。何を作っているか、誰のために作っているかにしっかり向き合って、その人たちが喜ぶものに設計を集中させる。もともとウェブサイトもゲームも「この人を助けたい」から始まっていたのに、iOSだAndroidだ、サーバーだCIだの、この10年〜20年でいろんな領域に細分化されて、縦割りになってしまった。ここでまた改めて、全員が同じ方向を向くチャンスだと思っていて。みんなが「このストーリーを届けたい」に集中するための取り組みとしてAIがある、というところに行きたいんです。
――「ストーリー」というのは、ゲームの物語だけの話ではないんですね。
村瀨:我々が「ユーザーサプライズファースト」と言っている所以かもしれません。エンターテインメントは、やればやるほどみんな慣れて、ハードルが上がっていく。ドッキリの仕掛け人みたいに、「この設計でこう動いたら、ここで穴に落ちるよね」を、本当に全員が落ちるように設計できているか。ここで緊張、ここで緩和、ここで落として、みんながドキドキ、ワクワク、ワイワイするところに持っていけるか。その感情の設計こそが、ストーリーとして重要なんです。
「ないない」がひとつ消えると、やるしかなくなる
――提携発表の前から、MIXIは「AI利用率99%」の成果で知られていました。外から見ると「すごく効率化したんだろうな」という文脈です。あえて聞きますが、Runwayとの提携で大事なのは効率化ですか、価値創造ですか。
村瀨:結果、両方なんですけど(笑)、効率化すると価値のほうに集中できる、ということなので。映像生成AIは付加価値を作るためのワークフローの一つだと思うので、価値創造なのかなと思っています。「この表現は、今までだったらお金が高くてできなかったけど、できます」となったら、それは付加価値創造ですよね。
クリエイターがやりたいことの阻害要因は、時間がかかる、お金がかかる、スキルが要る。この3つです。どれか一つでも解消できたとき、付加価値は生みやすくなる。この3つをどうにかして削ることを、AI推進でずっとやってきたし、これからも多分やり続けます。よく言う“ないない系”──お金がない、時間がない、スキルがないって、みんなの「やらない理由」としてあるじゃないですか。あれが一つでもなくなると、「やるしかなくなる」んですよ。
――RunwayのバレンズエラCEOは、AIを「新しいカメラ」と表現しています。いまのお話がまさに、という感じでしょうか。
村瀨:そうですね。別の役割に解放するための置き換えというより、今まで作れなかった人たちが作れるようになって、語られなかった物語が出てくる。新しい表現形式の一つとして「カメラ」と言っているのかなと思います。ただ、いま盛んに言われる「楽になった」「制作が安くなった」という“実行の民主化”は、それ自体が新しい制作の文化ではないと思っていて。いろんなストーリーが溢れてくる社会になったときに、初めて新しい文化ができあがる。まだ序盤ですが、新しい表現形式が生まれれば、新しい文化も生まれるよね、と思っています。
もちろん、権利と敬意は超重要です。作り手や声優さんなど、いろんな意思を無視して走らせない。丁寧にやる会社が信頼されるはずで、うちにはすごくいいクリエイターがいるので、そのクリエイターたちがちゃんと満足できるものを作っていくことが重要だと思います。
――IPを扱う会社は、生成AIとなると権利面でブレーキが働きがちです。
村瀨:会社の判断によると思いますが、少なくとも弊社は、モンストに関わってくれたアーティストさんの意見を無下にはできない。自社IPでも気を使うべきルールは多々あります。とはいえ、「モンスターストライク」というIPがAIでどんどん良くなっていくのだとしたら、それは使っていくべきだと思っています。もちろん他社さんのIPは使わない。権利者の同意と適切な条件設計のもとで、案件ごとに判断しています。
ただ、個人的な想いを言うと動画生成AIがいろいろ出てきたとき、「モンスト」と打っても、モンストのキャラクターが出てこなかったんですよ。「もうちょっとAIに認知されてもええんちゃうかな」という想いはあるわけです(笑)。パートナーシップを組めたからこそ、自分たちのIPを守ってもらいながら、実証実験としてコントロールされた形で独自にファインチューニングしてもらう可能性も出てくる。おそらくライオンズゲート(アメリカの大手映画・テレビ制作会社)さんなども、こういう形なんだと思います。
21日が3日になった現場で「余った時間で何するの」論
――モンストの映像制作が21日から3日になり、外注なしの内製で完結するようになった。働き方は、どう変わりましたか。

村瀨:「余った時間で何するの」論だと思っていて。早く終わればいいというものではないので、クリエイター自身に「この部分だけはすごくこだわりたい」があるなら、そこに時間を割いていい。3日かかっていたものが大体半日で終わるなら、「1日くらい、こだわる時間をください」と言われて、「いいよいいよ」と言えるわけです。
うちのクリエイターは、出てきたものに大体納得しないんですよ(笑)。「ここはこうあるべき」と突き詰めていくので、“追求”というコンテンツ制作がむしろ増えている。内製化すると、外注の納品を待つことも、出てきたものに指摘することも、全部自分に返ってくる。コントローラブルになったおかげで、仕事が増えているとも言えます。ただ、見積もり自体は確実に短くなっているので、余裕と遊びが生まれて、もっとこだわれる。手段の多様化はいいことだと思っています。
個人的なことで言うと、自分たちで映像制作ができるということは、自分たちの“作品”が作れるということなので、「うちの会社で独自にアニメを作りました」「オラゴンを使ってこんな映像を作りました」という提案が来たら、大拍手です。そういうところに時間を割いてほしい。MIXIらしい時間の割き方はいっぱいあるよね、と思います。たとえばロサンゼルスに生成AIミュージアムができたので、デザイナーが余った時間で「渋谷オフィスの36階も一部、生成AIミュージアムにしましょう」ということをやってもいい。そういうプラスアルファができるようになっているのが、今の現状かなと。
――現場の雰囲気は変わりましたか。
村瀨:だいぶ変わりました。「やれる」ってみんなが思ってくれているなと。CEO(木村弘毅)は「不安と自信が両立している」というようなことを言っていた記憶がありますが、不安もあるんだろうなとは思います。自分の仕事はどうなっちゃうんだろう、と。でも、できることはまだまだいっぱいありますし、グローバルに出せるというのも大きいです。
――先日は、モンストのキャラクター「オラゴン」の生成AI動画も話題になりました。
村瀨:クリエイティブチームが出してくれたやつですね。いまの生成AIって、「パッと作れば、ガチャが当たってすぐ映像ができる」と思われがちですが、結構泥臭いことをいっぱいやっています。最初から絵コンテをがっつり描いて、静止画も全部作って、3D素材にも落として、最終的にRunwayで動かす。それで、結果的に16日分のコスト削減ができました。

参照:【モンストの裏側】クリエイティブチームが生成AIで135秒のオラゴン3D動画を作った話
「ここでRunwayを使うんだ」というのをどんどんアウトプットして、世の中に還元していく。「ここまでやれば、ちゃんとプロダクションレディなものができる」という現実的な解を出していきます。
権利侵害がどうという話ではなくて、妥当なAIの使い方を、我々が先に進んでいるからこそ示せる。だからRunwayさんも付き合ってくれていて、「群衆のようにキャラクターがいっぱい出てくる中で、一貫性を保つには?」といったチャレンジを、我々からいっぱい提示させてもらっている。良くなったら、またアウトプットする。消費者に届ける実装の部分は我々がユースケースを作っていくから、一緒に進化していきませんか?というパートナーシップなんです。
コミュニケーションの領域はさらに面白くなる
――生成AIは、グローバル展開にも効いてきそうです。
村瀨:AIでしかできないことの代表が、リップシンクだと思います。翻訳の精度が高まれば、英語と映像のリップシンクを合わせて届けて、インドでもイギリスでもフランスでも、違和感のない状態まで滑らかにできる。今までの翻訳は“トランスレーターを通した感”が強かったのが、LLMを組むと、ちゃんとしたものが出てくるようになってきています。
さらに、反応がそれ以上に返ってくる。反応を収集するAIが、「どの国でどういう反応か、好意的か、文化的に問題がないか」までデータを集めて分析すると、今度はカルチャライズに進めるんです。禁忌に触れる炎上は事前に防げるとして、「この国に出すなら、こちらの方が受けがいいので映像を少し変えよう」という余地が生まれる。フルAIでやっていくと、カルチャライズを含めたグローバル対応ができるんじゃないかなと。
――生成AI以降は、コミュニケーションの領域がさらに面白くなりそうです。

村瀨:うちがAIを使う理由として、一番よく言っているのがそこです。個人へのパーソナライゼーションは今までもできた。でも、団体へのパーソナライゼーションはできなかったんです。我々がよく言う「ミータイムとウィータイム」で、個人向けには、好きなニュースも情報も全部パーソナライズできる。でも、友達と遊んでいるときに見る情報はグループごとに全部違って、そこを個人に寄せると誰かの独りよがりになってしまう。全員の情報をギュッと集めて、「あなたたちに必要な情報は何ですか」を判断する。パーソナライゼーションというより、ソーシャライゼーションと言うのか、それをAIが独自にリアルタイムで判断できるのが、今の時代かもしれません。3人のグループの購買データの分類なんて、人には絶対無理で、AIじゃないとできない気がしています。
――スポーツの領域でも、AIを活用されています。
村瀨:MIXIではサッカーのコーチ向けAI、フィギュアスケートの選手向けAI、ビーチバレーのARなども作っています。スケートは、カメラと位置情報を使った自動追尾システムで、練習風景をAIで画像解析して、選手がどんな間隔とスピードでどの位置へ動いたか、最終的にスコアとしてどうか、まで全て測定する。カメラも自動追尾です。Xで「究極の推し活のためのカメラだ」と言われていましたね(笑)。音楽業界には“推しカメラ”があるのに、スポーツ界にはまだない。音楽で適用されていることがスポーツではまだ適用されていない傾向はあるので、横展開できるかもね、という話は面白かったです。
ビーチバレーでは、オリンピックの水泳で選手情報が水面に映るような形で、点数や選手情報、AIでトラッキングしたボールの軌跡、スポーツウォッチの心拍数まで配信に載せています。残念ながらレジェンド選手は心拍が一切ブレないので、グラフとして面白くない。「なんで緊張しねえんだよ」って(笑)。それが強さなんでしょうね。データって、改めて面白いですよ。
――7月のDREAMDAZEでは、プレイヤー自身がコンテンツになる「自分がモンストのキャラクター(ボール)になる」AI体験も予定されています。
村瀨:モンストは「ボールで、丸くて、4人集まって引っ張る」という抽象度の高いキーワードがみんなの頭の中にあるので、「ボールになるんだ」というだけで通じてしまう。いいことだなと思います。自分のキャラクターで、4人でモンストができたら盛り上がる気がしますよね。映像生成AIがもっとリッチに使えるなら、3人でボスを倒しに行って、最後のボスフェーズでカットインが入り、自分たちのキャラがボスと対峙している映像が出てくる。そんな没入感が出せたら、すごくワクワクしませんか。今まで自動生成できなかった領域までできるようになるのは、AI時代ならではです。そのワクワクを、いろんなパートナーシップを組んでやる。それが今回のRunwayなんです。
利用率99%の裏側「他社さんは苦笑いして帰っていく」
――全社のAI活用は2023年ごろから。でも最初は、社員のみなさんに任せていてもそんなに進まなかったそうですね。
村瀨:進まなかったですね。AIの恩恵をすごく受けている人にとっては便利なものなんですが、その便利さを横に伝える言語化ができる人がいないという問題です。「何が便利なの?」と聞かれて、「壁打ちにちゃんと答えてくれる」「経営陣に出す資料に網羅性が必要だから」「そうか、じゃあ僕には関係ないか」となってしまう。人生相談をするとすごくいいアドバイスをくれるんですけど、相談したいことがないんですよね(笑)。
あとは、気にせず突っ込む人と、尻込みしてしまう人がいる。「このデータは入れていいんだっけ」「どこを濁せば入れていいデータになるんだっけ」が整っていないと、迷って止まってしまう。それを聞かない人も多かったので、整えてあげる必要がありました。
――そこから経営合宿を経て、トップダウンで一気に進めた。他社の方々も、その進め方が気になっていると思います。
村瀨:先日も他社さんからヒアリングがあって、やってきたことをお話ししたんですが、みんな苦笑いして帰っていきましたね。「僕たちはここまでできるかな・・・」と言って(笑)。多分、他社さんから見ると、かなり強制力の働いている施策なんだと思います。現在は「Time to Market」といって、アイデアが起票されてから世の中に出るまで、もしくは途中で棄却されて消える瞬間まで、全部計測して見える状態にしてもらっています。アイデアの量も、リリースの速度も、その成果も、全部データで分かる。つまり「あなたのやっている仕事は全て教えてね」という状況で、これを最初にやれと言ったら、現場からものすごいハレーションが来ますよね。
MIXIでこれができたのは、その前の1年でみんながAIの恩恵を受けて、「なんとなくできるかも」という前提があったから。1年前にいきなり言われていたら、「じゃあ2カ月くらい施策を止めてもいいってことですか」となっていたはずで、やっぱり準備が必要なんです。
――社員のみなさんがそれに乗れたのは、なぜだと思いますか。
村瀨:この1年で一番多かったのは、「自分たちはAIでこんなに変えた」と堂々と言える人が増えたことです。AIを使ったことがない人は、まず「触ってみる」から始めて、「10時間が1時間になりました」と。それが3、4カ月経つと、「ここにAIを入れられたら、数千万円削減できそうじゃない?」「コンサルじゃなくて、自分たちでやってみようよ」と、可能性を信じ始める。全員がAIの可能性を感じられた状態だったから、私たちから少し難しいお題を投げても、「なんとなくできそうだね」というところまで来てくれた。
みんな素直なんです。うちの「発明・夢中・誠実」というバリューの誠実性って、こういうことなのかな、と。こんなに信じてまずはやってみてくれる人たち、あんまりいないと思いますよ(笑)。
「完成から逆算する学び」作家になるために学び方を学ぶ
――最後に、二つメッセージをいただきたいと思います。まず、エンタメとテクノロジーの領域で働くクリエイターやエンジニアのみなさんへ。

村瀨:2点あります。1点目は、AIを使うことが割と普通になっていく時代になるのは間違いないので、自分たちがプライドを持って出すアウトプットの「どこが楽になるか」を見極めて適用してほしい、ということ。楽するために作るというよりは、「全然楽にならなかったな」ということも含めて、一緒に学んでいけたらいいなと。「使わない」という手にしてしまうと、多分一生進化しないんです。使う前提で枠に当てはめておけば、AIが進化すれば、その部分がどんどん楽になって余裕が出てくる。そこを一緒に見極めていければと思います。
もう1点は、私はずっと“クリエイター村の村長”の話しかしていないんですけど(笑)、やりたかったことを自由にやれる、いい時代だと思うんです。改めてやりたかったことに向き合って、「余裕を持った自分がいたら、どこに力を割くんだろう」と考えてもらえたほうが、私が見たいいろんなクリエイターのアウトプットが世の中に増える。単純にハッピーなんですよ。なので、臆せず使いましょう。ただし、権利には気をつけましょうね(笑)。
――これからゲームを作りたい子どもたちは“AIネイティブ”になっていきますが、AIの時代は逆に「何を勉強すればいいのか」が分からなくなっているし、大人も伝えられないのではないかと思います。アドバイスをいただけますか。
村瀨:僕が小さい頃にAIがあったら嬉しかった、という話につながってくるんですけど、ゲームの作り方って、ものすごく量が多いんです。カメラワークも、効果音やBGMも、3Dなら音の配置も。その中でやるべきことは、1日1個でいいから、そこを勉強できるくらいのチャレンジをすること。「今日は音にこだわったゲームを作ってみよう」と決めたら、AIを入れればスタートダッシュは速い。世の中の音のテクニックはウェブにいっぱい転がっていて、AIにディープリサーチしてもらえば出てきます。それをもとに自分で作りながら完成形を見て、「なんでこうなっているんだろう」を学ぶ。数学があったり、波形の調整があったり、「なんでループしないんだろう」からループポイントを学んだり。完成から逆算する学びを1日1個ずつやっていけば、表現力が膨らんでいくと思うんですよ。
ゼロから100までAI任せでやっていくと、AIが速くなったとしても、クオリティが全然上がらないまま作り続けることになる。世の中にあるゲームテクニックの全体はAIに知っておいてもらって、そこから自分が学ぶべきことを細分化して、自分で学ぶ。
そうすると、「このときはスクリーンを揺らしたほうが感動できるかもね」「このときにこの音を出したほうがいいよね」と言える“作家”になれる。作家になるために、学び方を学ぶ。AIによっての学び方を、今だからこそ学ぶべきだと思います。いまは、NotebookLMのように、ポッドキャストやスライドの形で、文字を読むのがつらい人にも優しく教えてくれるAIがいっぱいいますから。
多分このままだと、みんな言語化ができなくなると思うんですよ。「草原で寝転がっているシーンを作りたい」でも、草木はどの方向から風が吹いていると気持ちいいのか。木陰はあったほうがいいのか。太陽はどの方向か。遠くには何が見えて、空はどんな色か。全部指示しないと、ゲームやエンターテインメントは作れない。なんとなく一発で作っていたら、それが分からないままになる。こだわりたいところを見つけたとき、そこにあるテクニックを言語化できるくらい自分で学ばないと、次のシーンで「この砂漠で、この太陽で」と言えなくなってしまう。学ぶためのAIの使い方を、今だから学ぶべきだと思っています。














