スパイダー・ノワール
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あのニコラス・ケイジが、いよいよドラマシリーズ初主演に挑んだ。

Prime Video「スパイダー・ノワール」は、マーベルの人気ヒーロー・スパイダーマンに基づく新たな実写作品。これまで映画の世界で親しまれてきた『スパイダーマン』の世界とは異なるアプローチで、懐かしくも見たことのない世界を提示する意欲作だ。モノクロ版とカラー版の同時配信で、それぞれ違った楽しみ方ができるのも新しい。

アメコミ原作/スーパーヒーロー作品には、まだまだ新しい可能性がある――。ほんの数話を見ただけで、そう直感できる一本を今回はご紹介しよう。


私立探偵×スパイダーマン

舞台は1930年代、禁酒法時代のニューヨーク。私立探偵ベン・ライリーは、秘書のジャネットとともに探偵事務所を切り盛りしていた。以前は「スパイダー」として街の平和を守るため戦っていたが、最愛の恋人ルビーが命を落としたことをきっかけにヒーローを引退したのだ。

スパイダーの引退後、ニューヨークは犯罪組織のボス・シルバーメインが事実上支配しており、街は荒廃状態となっていた。それでもライリーは、仕事に恵まれず、また裕福でもないなか、ヒーローに復帰することを拒んでいる。

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ある日、ある男の浮気調査を引き受けたライリーは、若妻キャット・ハーディが思わぬ人物と面会している現場をつかむ。ナイトクラブの歌手であるハーディに接近したライリーは、現場写真を突きつけてハーディをゆすろうとするが……。

主人公は『スパイダーマン』シリーズでおなじみの学生ピーター・パーカー(映画ではトビー・マグワイアやアンドリュー・ガーフィールド、トム・ホランドが演じてきた)ではなく、世の中に疲れ、くたびれた様子の中年探偵。彼は引き受けた依頼を調査するなか、思わぬ罠と陰謀に巻き込まれ、自らがスーパーヒーローだった過去と向き合うことになる。

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独立した世界観、フィルム・ノワールへのオマージュ

シリーズの原作は2008年からアメリカで刊行されたコミック「スパイダーマン・ノワール」。このキャラクターは、アニメーション映画『スパイダーマン:スパイダーバース』シリーズにも登場しており、そちらでもニコラス・ケイジが声優を担当した。

しかしながら本作は――第1話の冒頭で、ライリーが「ここは俺の知る唯一の宇宙だ」と説明している通り――『スパイダーバース』の続編ではない。主人公も別人の設定で、物語や世界観もつながっていないのだ。もちろん、ディズニー/マーベル・スタジオが展開するマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)とも関係のない独立したシリーズである。

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ハードボイルドな主人公、大都市と暗い路地、犯罪、魔性の女(ファム・ファタール)、そして恐ろしい陰謀。1930~40年代の犯罪映画“フィルム・ノワール”と『スパイダーマン』の世界を融合させることに、主演のニコラス・ケイジは強くひかれたという。

もともとコミックの大ファンとして知られるケイジは、ティム・バートン監督の映画『スーパーマン・ライヴス(原題)』でスーパーマン役を演じる予定だったが、残念ながら企画もろとも頓挫。サム・ライミ監督『スパイダーマン』(2002年)では悪役グリーン・ゴブリンを演じる可能性があったものの、別の作品に出演するためオファーを断っている。

その後、『ゴーストライダー』シリーズや『キック・アス』(2010年)を経て、近年は『スパイダーバース』シリーズのほか、『ザ・フラッシュ』(2023年)で幻のスーパーマン役を思わせるカメオ出演を果たしたケイジ。すなわち彼は、コミック原作との不思議な縁を保ってきた役者なのだ。

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ニコラス・ケイジ、キャリアの新たな絶頂期

そのケイジが、「自分のビジョンが望み通りの形でようやく実現した」と語るのが、本作「スパイダー・ノワール」だ。

フィルム・ノワールで活躍した往年の名優たちのエッセンスやユーモアを再現し、愛するジャンルへのオマージュを捧げながら、『スパイダーマン』を映像化。モノクロ版とカラー版の2バージョン配信も、ケイジが強く望んだものだった(ケイジ自身はモノクロ版での鑑賞を強く薦めている)。

実際に作品を観ると、渋いストーリーテリングに硬質の映像、さらに『スパイダーマン』シリーズの人気キャラクターやお約束――名ゼリフ「大いなる力には大いなる責任が伴う」など――を巧みに取り入れた翻案に舌を巻く。残酷描写なども含めて大人向け、いかにもフィルム・ノワールらしいトーンでありつつ、スーパーヒーロー作品らしい軽快さもあるバランス感覚が絶妙だ。

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『PIG/ピッグ』(2021年)や『ドリーム・シナリオ』(2023年)、『ロングレッグス』(2024年)などで、キャリアの新たな絶頂期、そして円熟期のさなかにあるケイジは、本作でも軽重巧みな演技に加え、アクションやユーモアも自在にこなす。「ブレイキング・バッド」(2008年~2013年)を鑑賞し、長時間ならではの人物造形と物語に感嘆したことがドラマ出演のきっかけだったというだけあって、世界観と人物を丹念に掘り下げる大人のシリーズに仕上がった。

「大人向けスーパーヒーロー」の現在地

製作総指揮は『スパイダーバース』シリーズを手がけ、『プロジェクト・ヘイル・メアリー』(2026年)の監督としても知られるフィル・ロード&クリストファー・ミラーほか。そして、脚本・製作の中心には「Marvel パニッシャー」(2017年~2019年)のスティーヴ・ライトフットも携わっている……と記せば、何か気づくことはないだろうか。

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本連載では、第6回でMCUの単独ドラマ「パニッシャー:ワン・ラスト・キル」(ディズニープラス)を紹介したばかり。MCUは「パニッシャー」で、スパイダーマンは「スパイダー・ノワール」で、それぞれ配信プラットフォームにて大人向けのドラマを作っているところに、新しい可能性を模索しつづけるスーパーヒーロー・ジャンルの今が見える。

もとよりスーパーヒーローものは、ただ“スーパーヒーロー”なる存在を描く以上に、既存のジャンルとの化学反応を繰り返しながら発展を続けてきたジャンルだ。ニコラス・ケイジという長年のキャリアと知見、こだわりを持つ才能を得て、ここがその最先端である。

『スパイダー・ノワール』2026 年5月27日(水)よりPrime Videoにて独占配信開始