『ひつじ探偵団』Prime Videoにて独占配信中 © Amazon Content Services LLC

群雄割拠のストリーミング業界において、今もっとも「映画館」に力を入れているのがAmazonだ。ハリウッドの大手スタジオ・MGMを2022年に買収して以来、オリジナル映画の劇場公開にも注力してきた。

この夏、Amazon Prime Videoには2本の話題作が揃った。『ひつじ探偵団』と『プロジェクト・ヘイル・メアリー』だ。どちらも家族で楽しめるエンターテインメントだが、この2本を通してみると、Amazon MGM Studiosが考える映画ビジネスの今が見えてくる。

今回は配信オリジナル作品ではなく、劇場公開作品を通して、長編映画の配信について考えてみたい。

笑って泣ける『ひつじ探偵団』

イギリスの田舎町。心優しい羊飼いのジョージ(ヒュー・ジャックマン)は、愛する羊たちと穏やかな毎日を過ごしていた。変わらない日常、毎日おこなわれる読み聞かせ、ジョージのお気に入りは推理小説だ。

ところが嵐の夜に悲劇が起こり、翌朝、ジョージの死体が発見された。日々の読み聞かせから、ジョージは殺されたのだと確信した羊のリリーは、仲間のモップル、孤独なセバスチャンとともに町へ向かう。ジョージの遺言状には、町の人々に向けられた意味深な言葉と、3,000万ドルの遺産を娘に譲るというメッセージが綴られていた。

容疑者となったのは、ジョージとは離れ離れに育った娘のレベッカ、隣の牧場を営む羊飼いケイレブ、精肉店を営むハム、宿屋の女主人ベス、牧師のヒルコート。町の巡査ティムと、スクープを求める新聞記者エリオットが真相を突き止めようとするかたわら、リリーたちも力を合わせて真犯人を追いかける。愛してくれたジョージを殺した人物を必ず突き止めるのだと。

『ミニオンズ』(2015年)で知られる監督カイル・バルダにとって、本作は初の実写映画。愛くるしい羊たちのアニメーション表現を駆使しながら、独創的な世界観を作り上げた。個性たっぷりな羊たちが織りなすドタバタ捜査劇は、気楽に笑いながら観られるコミカルさだ。しかし、その奥底にはシリアスな問題が横たわる。

「春うまれ」である多数派の羊たちが、「冬うまれ」である少数派の仲間を差別するコミュニティの問題や、アウトサイダーとして生きてきた人物の悲哀。「死んだら羊は雲になる」と信じ、仲間の死を忘却してきた羊たちが直面する、最愛の飼い主の喪失。そして、たとえ都合の悪いことでも、記憶しておかなければならないことがあるという真実――。

脚本のクレイグ・メイジンは、爆笑コメディ映画『ハングオーバー』シリーズから、「チェルノブイリ」「THE LAST OF US」といった骨太のドラマシリーズまでを手がけてきた才人。ミステリーとユーモアが絶妙にブレンドされた物語から、現実の社会問題をも浮かび上がらせた。

劇場公開47日後の配信が意味すること

『ひつじ探偵団』は2026年5月8日に日米同時公開され、アメリカでは興行収入6604万ドル、全世界興行収入は累計1億3053万ドルを記録。日本でも週末ランキングの第6位に初登場し、4週連続でランクインした。

Prime Videoで配信が始まったのは、公開日から47日後の6月24日。アメリカでは配信開始後もしばらく上映が続けられており、映画館での需要は残っていた。それでもわずか47日後にストリーミング配信をスタートさせたのは、これが現在のAmazonにとってお決まりのルートだからだ。

たとえば近作の場合、『ザ・コンサルタント2』はアメリカでの劇場公開から41日後に(日本では劇場未公開)、『クライム101』は47日後に配信が始まった。2025年に報じられた通り、Amazonは自社作品の多くを約45日間劇場公開したのち、有料配信を経てPrime Videoへ送り込むのが基本方針。『ひつじ探偵団』の47日は、この基準をほぼ忠実に守ったものだ。

『ひつじ探偵団』の場合、初夏に劇場公開されたファミリー映画の話題作を、夏休みを前にしたタイミングで各家庭に届けるのは良策だっただろう。日本でもSNSでのバズが記憶に新しいなか、「早くも配信に登場」とアピールすることができた。既存の映画スタジオとは異なり、Amazonには映画の劇場公開を自社サービスに誘導するためのプロモーションとする必要もあるのだ。

異例の劇場優位『プロジェクト・ヘイル・メアリー』

この点でいえば、例外だったのは春の話題作『プロジェクト・ヘイル・メアリー』だ。ライアン・ゴズリング主演、フィル・ロード&クリストファー・ミラー監督によるSF大作で、3月20日の日米公開後、Prime Videoでの配信が始まったのは7月3日、つまり105日後だった。

この作品はアメリカでオープニング興行収入8050万ドルを記録し、Amazon MGM Studiosとしての史上最高記録を樹立。公開10週を超えるロングランとなり、北米興収は3億4405万ドルとなった。世界興収は6億8397万ドルで、日本でも15億円以上を稼ぎ出している。

特殊だったのは、Amazonがこの映画を最初から「劇場優位」で設計していたことだ。北米公開の4日前にはPrime会員だけが参加できる先行上映を、IMAXやDolby Cinema、4DX、70mmといったプレミアム環境のみで実施。配信ではなく、わざわざ劇場の客席にユーザーを送り込むことを試みている。また、Prime Videoに送る前には有料配信をおこない、その後は自社の有料チャンネルMGM+でも配信を実施した。

このようにAmazonは、『ひつじ探偵団』と『プロジェクト・ヘイル・メアリー』の両方に劇場公開とPrime Video配信を用意し、まったく異なるアプローチで臨んだ。劇場と配信がはらんでいるビジネスとしてのポテンシャルを、それぞれ別の方法で引き出そうとしたのだ。

劇場と配信の「本当に幸せな関係」とは

2026年、Amazonは、今後は毎年最低15本の映画を劇場公開するという新方針を発表した。劇場公開は作品を広く知らしめ、勢いを生み出すための「最初の重要な瞬間」であり、劇場と配信は、競合するものではなく「異なる価値を生む機会」と位置づけているという。

Netflixは2027年に、『ナルニア国物語』の新映画版で、世界規模の長期劇場公開に初めて踏み切る(IMAX上映も実施)。もっともこの試みは例外的なもので、現在は一部の話題作を劇場公開するにとどまっている。Appleも『F1/エフワン』(2025年)が世界興収6億ドル以上のヒットとなったが、劇場公開されるオリジナル作品は一部に限られているのが現状だ。

NetflixとAppleはストリーミング企業なのだから、MGMという古くからの名門スタジオを擁するAmazonとスタンスが異なるのは当然のことだ。Amazonは、かの人気シリーズ『007』の新作映画も準備中であり、いずれ、そのリリースを映画館と配信の両方で最大限に盛り上げることは間違いないだろう。

Amazon MGMは海外配給でソニー・ピクチャーズと提携しており、『ひつじ探偵団』『プロジェクト・ヘイル・メアリー』などの日本配給もソニーが担当した。次回作『銀行強盗:完全マニュアル』もソニー配給で9月4日に劇場公開予定だったが、残念ながら日本では公開中止、アメリカでは11月13日に公開延期となった。日本公開中止の理由は不明で、いずれ劇場公開されるのか、それとも配信限定となるのかはわかっていない。

今後もAmazonは多数の話題作を控えているが、劇場興行とストリーミングの両方に取り組むうえでは、作品ごとの興行力や劇場公開にかかるコスト、それらを天秤にかけた各地域の選択、そしてAmazon本社の経営的判断といった現実的問題があらわになることだろう。そのなかで、映画館と配信の本当に幸せな関係を見つけられるのか――その期待と課題は大きい。