パリ11区、19世紀の鋳造所を改装したデジタルアート美術館、アトリエ・デ・リュミエール。ゴッホのイマーシブ展で世界的に知られるこの場所をJapan Expo Paris 2026へ行く前に訪れると、その日のプログラムは偶然にも「星の王子さま、イマーシブ・オデッセイ(Le Petit Prince, l’Odyssée immersive)」だった。結論から言えば、この偶然は当たりだった。猛暑のパリで、ここは子連れの楽園になっていた。

(取材・文:MEDIAMIXI編集長 榎本幹朗 7/8 パリ アトリエ・デ・リュミエールにて)

砂嵐とともに、物語がはじまる

場内は撮影OK。高さ10メートルの壁と床のすべてがスクリーンになる約3,300平方メートルの空間に、砂嵐が吹き荒れ、飛行機が砂漠に不時着するところから約50分の旅がはじまる。サン=テグジュペリ財団(Succession Antoine de Saint-Exupéry)公認のもと、作者自身の手による、あの水彩画がそのまま巨大化して動き出すのだ。

フランスの週末情報誌カルネ・ド・ウィークエンドは2025年の初演時、原作の各章がテキストと原画の水彩への忠実さに細心の注意を払って再構成され、砂漠から小惑星B612、王子が巡る惑星の数々まで、芸術と哲学と子供時代が交差する視覚と音の旅になっていると評した(20255月)。実際、うぬぼれ男の惑星も、点灯夫の惑星も、キツネとの出会いも、原作の順番どおりに訪れる。原作を読んだことがあれば、次の場面が来るたびに小さく声が出る。

子どもたちが、星と一緒に踊り出す

この展示の最良の観客は、間違いなく子どもたちだ。床いっぱいに星や花が舞うと、幼稚園くらいの子どもたちがそれを追いかけてくるくる回り、踊り、走り出す。パリのレビューサイトには「子どもが走り回っている」と苦情めいた投稿もあったが(Tripadvisor2025年)、筆者の感想は逆だ。それが少しも邪魔にならないくらい、この空間はのどかで、むしろ映像と子どもたちが一体になった光景こそがこの展示のハイライトだった。座り込んで眺める老夫婦も、寝転がる若者もいる。鑑賞マナーの緊張感から解放された美術館なのだ。

パリの情報サイト、ソルティラパリも2026年夏の再演にあたって、ややノスタルジックなトーンにもかかわらず展示はとても愉快で、音楽と絵の組み合わせが思いがけないコミカルな効果を生んでいると家族向けの魅力を評価している(Sortiraparis2026年)。一方で、レビューには「没入というには空間が小さい」という辛口の声(ロフィシエル・デ・スペクタクル読者評、20257月)もあれば、「とても詩的な没入。美しい体験」(同、20256月)という声もある。要は、これは巨大アトラクションではなく、絵本の中に入る体験なのだ。その意味で空間のスケール感は原作にちょうどいい。

ゴッホと日本絵画も、最後に少しだけ

「ゴッホが見たかったのに」という人も、がっかりする必要はない。本編の後には、この美術館の名を世界に知らしめたゴッホの映像や、日本の絵画を使ったイマーシブ映像がダイジェストで上映され、アトリエ・デ・リュミエールの「本業」も味わうことができる。壁一面のひまわりと糸杉は、写真で見る何倍も濃い。

猛暑のパリで、ここは避暑地だった

そして特筆すべきは環境だ。連日の猛暑のフランスで、場内はエアコンがしっかり効いている。この日も幼稚園の団体や小さな子連れのファミリーが大勢「涼みに」来ていた。トイレは清潔で、場内にはお菓子やジュースが買える売店もある。50分間、涼しい暗闇で寝転がって絵本の中を漂う——夏のフランスで子連れの行き先に迷ったら、ここを強くおすすめする。

料金は大人19.50ユーロから(取材当時のオンライン前売り価格。窓口より1ユーロ安い)。物価高のパリで、この内容と冷房でこの値段は正直安い。観劇や美術館通いが日常に根付いた街の価格設定だと感じた。夏のパリで、星の王子さまは子どもたちと一緒に踊っていた。大切なものは、目に見える。ここでは。

アクセス(20267月取材時点)

  • 会場:アトリエ・デ・リュミエール(Atelier des Lumières
  • 住所:38 Rue Saint-Maur, 75011 Paris
  • 最寄り:メトロ3号線「Rue Saint-Maur(リュ・サン=モール)」駅から徒歩約4分。9号線「Saint-Ambroise」、23号線「Père Lachaise」からも徒歩圏
  • バス:46566169系統「Voltaire – Léon Blum」ほか
  • 「星の王子さま、イマーシブ・オデッセイ」上映:20267月上旬〜913日の水曜・日曜、10時〜19時(最終入場18時)。所要約50
  • 料金:大人19.50ユーロ〜(オンライン前売り、取材当時)。子ども料金・家族割引は公式サイト(atelier-lumieres.com)で要確認
  • ダイジェストの正式なプログラム名(Culturespacesの「court programme」枠)は当日の掲示・チケットでご確認ください。ゴッホ展は2019年、日本関連は「夢見た日本」(2019年の短編)などが該当します。今夏のこの美術館のメイン展示はルネサンスの巨匠たち(ミケランジェロ、ダ・ヴィンチ、ラファエロ)で、「星の王子さま」は水曜・日曜のみの上映です。