政府は10月23日、令和8年度(2026年度)の文化勲章受章者8人を発表した。そのなかに、『スーパーマリオ』『ゼルダの伝説』シリーズの生みの親として知られる任天堂の代表取締役フェロー・宮本茂氏(73)の名前があった。
選ばれた分野は「メディア芸術(ゲーム)」。ゲーム分野からの受章は初めてだ。ほかに建築家の伊東豊雄氏や作曲家の都倉俊一氏らが名を連ね、親授式は11月3日に皇居で行われる。
文化勲章とはどんな栄誉か
文化勲章は1937年に制定された勲章で、文化の発達に際立った功績を挙げた人物に贈られる。過去には日本画家の横山大観や物理学者の湯川秀樹が受章し、昨年度は元プロ野球選手の王貞治氏らが選ばれた。
受章者は原則として、前年度までに「文化功労者」に選ばれた人のなかから決まる。宮本氏は2019年度、ゲーム業界から初めて文化功労者となっており、今回はそこからさらに一段上の栄誉に進んだかたちだ。
国がゲームを文化として扱う下地は、1990年代後半から少しずつ整えられてきた。文化庁は1997年度に「メディア芸術祭」を創設。2001年に制定された文化芸術振興基本法(2017年に文化芸術基本法へ改称)は、映画、漫画、アニメーションと並べて、コンピューターなどを使った芸術を「メディア芸術」と定め、国が振興すべき分野に位置づけた。2024年度には、故・ちばてつや氏が漫画家として初めて文化勲章を受章しており、ゲームはそれに続いたことになる。
「当たり前になった」が意味するもの
発表前日の10月22日、宮本氏は京都の任天堂本社で記者会見を開いた。ゲームと社会の関係を問われると、ゲームが文化になったとは「ゲームが当たり前になったということでしょうね」と語っている。
宮本氏によれば、ゲームを作り始めた20代半ばのころ、周りの同世代はまだそれほどゲームを遊んでいなかった。それがいまでは、親子3世代がゲームを知っている。宮本氏はこの変化を、ゲームと人々の結びつきが深まった証しと受け止めている。
もっとも、その道のりは一直線ではなかった。宮本氏は、ゲームキューブからWiiへと移る時期に、ゲームをする人としない人のあいだに、ついたてのような隔たりを感じていたと明かす。
ゲーム機の性能もプレイヤーの腕前も高まるなかで、複雑になったコントローラーが初心者を遠ざけているのではないか。そう考えた任天堂は、ニンテンドーDSやWiiで操作を一度シンプルな形に置き換えた。その後のスマートフォンの普及も、ゲームの日常化を後押ししたという。
有害視された娯楽が文化になるまで
ゲームをめぐる世間の目も、長く揺れ動いてきた。1983年のファミコン発売を機に家庭用ゲームは子どもたちに一気に広まったが、遊ぶ時間や勉強への影響を心配する声も根強かった。2000年代初めには、ゲームが脳に悪影響を与えるとする「ゲーム脳」論が話題を呼んだ。2019年にはWHO(世界保健機関)が国際疾病分類の改訂版に「ゲーム障害」を盛り込み、依存をめぐる議論はいまも続いている。
宮本氏は会見で、いずれは「ゲーム」という呼び名を超えて、「コンピューターインタラクティブ」という文化として評価されればうれしい、とも語った。ゲームが当たり前の存在になったいま、その価値をどんな言葉で語り、次の世代へ手渡していくのか。今回の受章は、その問いを社会に投げかけている。














