米AI新興企業アンソロピックは9月10日、自社AIシステムの不正利用に関する包括的な報告書を公表。EC(電子商取引)大手アリババグループやムーンショットAI(月之暗面)を含む中国のAI研究所7社が、自社のAIモデル「Claude」の不正利用(「無断の『蒸留』」)に関与したと明らかにした。
今回名指しされた中国AI研究所は、アリババのQwen、ムーンショット、DeepSeek、ジープーAI(Z.ai)、シャオミ、センスタイム、MiniMaxの7社。中でもアリババは最大規模となる1億5,100万件のやりとりをClaudeと行った。
蒸留は、より高性能なAIモデルの出力を用いて別のモデルを学習させ、無断でその機能の一部を複製するプロセス。アンソロピックは、こうしたやり取りの一部には、個々のユーザー、大手多国籍企業、国家系組織などからの機密情報が含まれており「プライバシー関連法や各ラボ自身の利用規約に違反している可能性が高い」と指摘した。
アンソロピックによると、QwenはClaudeの出力結果を利用して自社のAIモデルの学習を支援。一方、ムーンショットは自社のAIモデル「Kimi」ユーザーのリクエストの一部を密かにClaudeに転送し、Claudeの応答結果をユーザーに表示。その結果得られたやり取りの一部を自社モデルの学習に利用していたという。Kimiが転送したリクエストの中には、人民解放軍(PLA)関係者とみられるユーザーによる成都市内の監視カメラ映像データの分析も含まれ、中国企業の内部ソースコードや認証情報といった機密情報が流出したケースもあった。DeepSeekもムーンショットと同様、ユーザーに通知することなくやり取りをClaudeに転送していたとされる。
SNSではムーンショット創業者の楊植麟氏ら幹部15人が連行されたとの噂が拡散されたが、同社は9月12日に事実無根のデマだと否定。警察に被害届を提出したと述べた。中国企業による蒸留攻撃はかねて米国政府も問題視しており、関与した企業に対する制裁の可能性を警告している。
(文:坂本 泉)
榎本編集長「アンソロピックが、中国のAI研究所7社によるClaudeの無断「蒸留」(高性能モデルの出力で自社モデルを学習させる手法)を報告書で主張した。最大とされるアリババ系は1.5億件超、ムーンショットはKimi利用者の質問を密かにClaudeへ転送し、回答を自社のものとして表示していたという。折しも、同社の幹部が唱えた「人類の安全のため、AI開発競争は減速が必要」という問題提起が世界を駆け巡った直後である。この符合は、偶然ではないのかもしれない。減速論の背景には米中の国家的な覇権競争があり、今回の報告書は「相手はルールを守っていない」という主張の裏づけとして機能する。加熱する投資競争でハイパースケーラーの見えない巨大債務が膨らむと懸念される中、競争の手綱を引く理由が一つ増えた、という読みも成り立つ。なお、SNSで流れた中国政府によるムーンショット幹部連行の噂は、同社が事実無根のデマと否定し、被害届を提出した。主張と、応酬と、情報戦。AI覇権の攻防は、複雑な段階に入っている。」














