Twitchが8月12日(米国時間)、配信者のチャンネルコンテンツを親会社Amazonの生成AIモデルの学習に利用するための設定を追加した。設定名は「生成AIのトレーニング」。問題はその初期値がオンである点だ。学習を拒否したい配信者は、自ら設定画面をたどってオフにしなければならない。発表直後から配信者の反発が広がっている。

「利用開始」ではなく「拒否手段の後付け」だった

対象は配信、VOD、クリップ、ハイライト、チャット、チャンネル上のテキストと画像。用途はテキスト・音声・画像・映像を生成または合成するAmazonのモデルの学習だ。Twitchは一例として音声認識モデルの精度向上を挙げ、成果はTwitchの字幕にとどまらずAmazon全体のサービスに波及すると説明する。

だが反発の核心は設定そのものではない。米Ars Technicaによれば、TwitchのCPO(最高製品責任者)を務めるMike Minton氏は2024年の時点で、「AmazonがすでにTwitchのデータをAI学習に用いている」と認めていた。

今回追加されたのは利用の開始ではなく、拒否手段の後付けである。公式配信にてMinton氏は、オプトイン方式を採らなかった理由について、「オプトインなら誰も選ばないからだ」と率直に説明した。同席したHead of CommunityのMary Kish氏は、メールで告知しなかった理由を問われ、「全員がメールを読むわけではない」と答えている。取得済みのデータが遡って除外されるかは、現時点で明らかにされていない。

ゲームからは撤退し、配信データは手放さない

見落とせないのは、同じ8月12日にAmazon Game Studiosが『スローン・アンド・リバティ』と『LOST ARK』のパブリッシングから撤退すると発表していることだ。『New World: Aeternum』の開発終了に続く判断であり、大規模な人員削減を経たAmazonが自社パブリッシング事業を事実上たたむ流れにある。

一方でTwitchは手放さない。2014年に約9億7000万ドルで買収した当時、Twitchは広告とサブスクリプション、Prime Gamingへの導線という「メディア資産」だった。それが生成AIの時代には、長時間の音声と映像とチャットが同期した、人工的に再現しにくいマルチモーダルデータの供給源へと意味を変えている。ゲームを作る事業からは退き、ゲーム配信からデータを吸い上げる基盤は残す。同日に並んだ2つの発表は、Amazonにとってのゲーム領域の再定義を示している。

日本の配信者に残された選択肢

日本の配信者にとって事情はさらに厳しい。著作権法30条の4により、非享受目的の情報解析としてのAI学習は原則として許諾不要とされる。今回のオプトアウトは法が保障した権利ではなく、プラットフォームの裁量で与えられた設定にすぎない。

しかも、配信で最も価値の高いデータは声である。著作権法は声そのものを保護せず、2026年5月には声優の津田健次郎氏が生成AIによる声の無断模倣をめぐってTikTok運営会社を提訴し、法務省の検討会でも声の保護のあり方が議論されている。国内で声の権利が争点化するさなかに、最大級の音声アーカイブを抱える配信基盤が既定でオンの学習設定を導入した形だ。

比較対象として、YouTubeは2024年12月に第三者企業によるAI学習の許諾設定を導入しており、こちらは初期値がオフである。ただしGoogle自身による学習に同等の拒否手段はない。親会社の第一者利用は拒否できないという構造は両者に共通しており、Twitchはその論点を先に可視化させた。配信者が生むデータに誰が対価を払うのか。注目すべきテーマはそこに移る。