2026年7月26日、パシフィコ横浜。

女性アイドルグループ=LOVE(イコールラブ)の、21stシングル「恋、はじめました。」の発売記念イベントが開かれました。

CDの発売日は8月26日。ちょうど1か月後です。

このイベントの参加券は、当日会場でCDを全額前金で予約した人に、先着で配られます。つまり、来場した人は、この日にCDを買っている。

ところが、この時点で曲はもちろんのこと、タイトルまでも一切発表されていませんでした。

つまり、ファンは、曲を聞かずにCDを買っているということです。

=LOVEは、タレントの指原莉乃さんがプロデュースする10人組のアイドルグループです。2017年デビュー。2026年4月発売の20thシングル「劇薬中毒」は初週36.0万枚で自己最高を更新し、同年には国立競技場で2日間13万2,000人を動員、2027年1月には東京ドーム公演を控えています。

この規模まで来ているグループなのですが、「=LOVEって何でそんなに人気なの?」と聞かれたときに、その理由を一言で説明するのが意外と難しい。

すでにネット上にある解説を読んでも、間違ってはいないけれど、=LOVEの唯一無二性がどこにあるのかがはっきりしないな、と感じていました。

そこで今回は、=LOVEはなぜここまで人気になったのかを、「どうやって知られたか」という一点に絞って考えてみたいと思います。

楽曲そのものの素晴らしさや、ライブパフォーマンスの評価については、すでに他でもたくさん語られています。

この記事で扱うのは、その手前にある「人にどう届いたか」についてです。

入口になるのは、前回の連載で書いた「バズった日がリリース日」という話です。

今のヒット曲は、発売日ではなくバズった日から本当の勝負が始まる、という内容でした。その記事で事例に挙げた=LOVEについて、今回はもう少し深く掘っていきます。

前回の記事では、この2曲を取り上げました。

「とくべチュ、して」は、CD初週売上で自己最高記録を更新したあと、いったんチャート圏外に落ち、約2か月半後にバズって、そこから35週連続でチャートインしています。

「超特急逃走中」は、同じシングルに入っていたカップリング曲が、リリースから約8か月後に単独でバズりました。

=LOVE 18thシングル「とくべチュ、して」バズタイムライン

これ、いわゆる遅れてヒットする曲とは違うと感じております。

リリース時に話題にならなかった曲が、しばらく経ってから突然拾われる。そういう現象は最近だと珍しくありません。新しい学校のリーダーズの「オトナブルー」は2020年の配信ですが、世間に広がったのは2023年です。1打席目は静かで、2打席目で当たったパターン。

ただ、=LOVEは、そうではありませんでした。

1打席目も当たっているし、2打席目も当たっている。

同じ楽曲に、時期をずらして2回以上のチャンスが回ってきている。これ、他のグループではあまり見ない現象だと思います。

そして、この現象そのものがあまり語られていない。私はここにこそ、=LOVEの本当の強さが隠れていると思っています。

なお本記事では、アイドルにあまり詳しくない方にも読んでいただけるよう、アイドル業界特有の用語には都度説明を入れていきます。

1. 【初動の秘密】ファンは、曲を知らないままCDを買っている

まず、これまでのアイドル楽曲の一般的な形を確認します。

多くのアイドルグループにとって、1つの楽曲に与えられるチャンスは基本的に1回でした。

正確に言うと、話題の山を作れるタイミングが1回しかない、ということです。

実際の流れを、冒頭で挙げた21stシングル「恋、はじめました。」で追ってみます。

① すべてが発売日に向かって収束する

  • 2026年6月16日に発売が発表され、6月25日に発売記念リリースイベントの開催が告知
  • イベントの1回目は7月26日のパシフィコ横浜、2回目は8月2日の幕張メッセ。
  • 8月3日にTBSの「CDTVライブ!ライブ!」で表題曲のタイトルが公開されて初披露、同日に新衣装・新アーティスト写真・ジャケット写真が解禁。
  • 翌8月4日から先行配信がスタート
  • 8月26日にCDが発売

日付を並べると、こうなります。

=LOVE 21stシングル「恋、はじめました。」リリースタイムライン (=LOVE公式サイトの情報をもとに作成)

発表から発売まで2か月以上あって、そのすべてが8月26日という1点に向かって収束していくのが分かります。

ここで注目したいのが、CDを買える機会がどこに置かれているかです。

抽選申込の第1次は7月1日。リリースイベントの1回目は7月26日、2回目は8月2日。どれも、表題曲が初披露された8月3日より前なんですよね。

つまりこの時点でファンは、曲も、タイトルも、ジャケット写真も分からないまま、CDを買っている。

② 特典は「入口」が7つある

=LOVEのシングルには、リリースイベント以外にも特典が用意されています。

21stシングルに用意された特典の一覧(=LOVE公式サイトの情報をもとに作成)

アイドルのCDに「特典」が付くこと自体は、業界では一般的です。

ただ=LOVEの場合、特典ごとに必要な購入単位が違います。

個別お話し会は通常盤ですが、ツーショット撮影会は初回仕様盤の2枚セット、スリーショット撮影会は4枚セット。公式の告知には、初回仕様盤CD4枚につきスリーショット撮影会の参加権利を1枚付ける、とはっきり書かれています。

CD1枚では届かない特典が、最初から設計されているわけです。

=LOVE 21stシングル発売記念 スリーショット撮影会 開催決定!!(=LOVE公式サイト)

そしてもう一つ、CDに封入されたシリアルナンバーで応募する「スペシャルプレゼント」という枠があります。これがさらに階層になっていました。

シリアルナンバー応募の11種類と当選枠

シリアル1枚で応募できるのがサイン入りポスター。2枚で秘蔵生写真やチェキ。3枚でライブへの招待や個別撮影会。応募先は全部で11種類あります。

注目したいのは当選枠です。大阪のスペシャルライブは1,600名ですが、メンバー個別撮影会は各メンバー10名の合計100名。

公式には「抽選」と書かれていて、当選の決め方は公開されていません。ただ、1つのシリアルにつき1回応募できる仕組みなので、持っている枚数がそのまま応募口数になります。

=LOVE 21stシングル 発売記念スペシャルプレゼントのお知らせ(=LOVE公式サイト)

日程を見ると、オンライン個別お話し会は11月22日まで、スペシャルプレゼントのライブは10月28日まで組まれています。売上は8月26日の週に一度に計上されるのに、体験の提供はそこから3か月かけて行われるということです。

③ 初週売上が測っているもの

これは、CDの初週売上という指標が何を測っているのかを、はっきり示していると思います。

測っているのは楽曲の魅力ではありません。既存ファンの規模と熱量です。

誤解のないように書いておくと、これは一概に悪いこととは捉えていません。ファンに会える機会を作り、その熱量がきちんと数字になる。よくできた売り方だと思います。

ただ、この設計で作れる山は、既存ファンの内側にしか立ちません。

曲を知らない人のところには、届かないまま終わる。

だから「1曲=1打席」なんですね。

そして発売日を過ぎれば、話題は自然に落ちていきます。シングルが年に2〜4枚だとすれば、年に2〜4回しか勝負できない。

もちろん、これは「当たらなかったら終わり」という意味ではありません。

冒頭で挙げた「オトナブルー」のように、リリースから数か月、ときには数年経ってから突然火がつく曲は実際に存在します。ただ、それはいつ来るかも、来るかどうかも分かりません。だから多くの現場では、リリース時の一発に賭けるしかない、という前提で計画が組まれることになります。

④ =LOVEの強さを式にすると

ここで=LOVEの2025年を見てみます。

2025年に=LOVEがリリースしたCDシングルは、18thシングル「とくべチュ、して/恋人以上、好き未満」と、19thシングル「ラブソングに襲われる」の2枚だけです。

枚数だけ見れば、決して多くありません。むしろ少ないなと感じました。

それなのに、=LOVEは1年を通してずっと話題になり続けている。

私は、=LOVEの強さをこう整理しました。

話題になった総量 = 打席数 × 打率

打席数は「何回チャンスが回ってきたか」、打率は「そのチャンスをファン獲得につなげられたか」です。

そして=LOVEが異常なのは、前者のほうです。打席数はさらに、こう分けられます。

打席数 = 球数(世に出した曲の数) × 打席を回す仕組み

同じ曲でも、打席を回す仕組みがあれば2回、3回とチャンスが来る。

=LOVEは、この掛け算の両方を持っています。

2. 【球数】カップリングは、表題曲の余りではない

シングルが年2枚でも、=LOVEが世に出している楽曲の数はそれだけではありません。

カップリング曲(シングルに表題曲と一緒に収録される曲)があり、配信限定シングルがあります。

2025年に世に出た=LOVEの楽曲を並べると、こうなります。

2025年にリリースされた=LOVEの楽曲

CDシングルは2枚でも、曲としては7曲。ならすと、およそ1〜2か月に1曲ペースで新しい楽曲が出ていることになります。

ただ、=LOVEが特殊なのはここからでした。

① この7曲、すべてにMVがある

この7曲、すべてにミュージックビデオがあります。

カップリングの「超特急逃走中」にも、「木漏れ日メゾフォルテ」にも、「Queens」にも、配信限定の「内緒バナシ」にも、それぞれ独立したMVが作られています。

ただ、MVがあること自体は、実は=LOVEだけの特徴ではありません。

たとえば乃木坂46も、シングルのカップリング曲にMVを制作しています。

私が注目したいのは、その中身のほうです。

② 毎回、違う人が真ん中に立つ

=LOVEのカップリング曲のセンター(中央に立つメンバー。楽曲の主役)を並べてみると、こうなっています。

  • 「超特急逃走中」は野口衣織さん。
  • 「木漏れ日メゾフォルテ」は音嶋莉沙さんと瀧脇笙古さんのダブルセンター。
  • 「Queens」は齋藤樹愛羅さんと野口衣織さん。
  • 「内緒バナシ」は大谷映美里さん。
  • 前年の「海とレモンティー」は大場花菜さん
  • 「君の第3ボタン」は齋藤樹愛羅さん。
  • 「モラトリアム」は諸橋沙夏さんです。

毎回、違う人が真ん中に立っている。

作家陣も見てみます。「超特急逃走中」の作曲はYUU for YOUさんとGiz’Moさん、「木漏れ日メゾフォルテ」は齋藤奏太さん、「Queens」は小池竜暉さんと野口大志さん、「モラトリアム」は杉山勝彦さんとoniさん。

表題曲を手がけている作家と、同じクラスの人たちが並んでいます。

つまり=LOVEのカップリングは、表題曲の余りではなく、表題曲と同じ作り方で作られている。センターが違うだけの、もう1本の主役曲になっているわけです。

③ 乃木坂46と比べると、目的が違う

ここで乃木坂46と比べると、違いがはっきりします。

乃木坂46のカップリングMVは、その多くが「アンダー曲」もしくは「期別曲」です。

アンダーとは、シングルの表題曲を歌う「選抜メンバー」に選ばれなかったメンバーのことを指します。38thシングルの「交感神経優位」、39thシングルの「不道徳な夏」、42ndシングルの「フォルテシモ」。いずれもアンダーメンバーのセンターが立っています。

つまり乃木坂46のカップリング曲は、選抜という制度の外側にいるメンバーの受け皿として機能している。制度が先にあって、楽曲がそれを支えている構造です。これは制度がある以上、極めて合理的な設計です。

一方の=LOVEには、選抜もアンダーも存在しません。だからカップリング曲は「選ばれなかった人の曲」にならない。楽曲のテーマに合う人が真ん中に立つ、というだけの話になります。

同じ「カップリング曲にMVを作る」でも、目的がまったく違うんですね。

そしてこの違いが、打席に効いてきます。

「超特急逃走中」がリリース8か月後に単独でバズれたのは、この曲が表題曲と同じ強度で作られていて、MVがあって、映像として独立していたことも重要な要素になっていたと思います。

音源だけの曲は、TikTokで使われても、そこから飛ぶ先がありません。飛ぶ先があるからこそ、バズが次の行動につながる。

3. 【打席を回す仕組み①】メンバー本人が、自分で打席を作りにいく

次に、その球をどう打席に立たせるか、という話です。

ここで、重要な役割を果たしているのは、メンバーである大谷映美里さんです。

① 「2番」を切り出すという発想

モデルプレスのインタビューで、当時の新曲「ラブソングに襲われる」をどう盛り上げていきたいかと聞かれて、大谷さんはこう答えています。

みんながたくさん踊ってくれているおかげですでにTikTokのランキングにも入っているけれど、自分にできることは投稿を続けることだ、と述べたうえで、

「まだ2番を知らない方もいると思うので、まだ知られていない部分を見つけて、ピックアップして撮影していこうと思います」

=LOVE大谷映美里、TikTok運用について語る(モデルプレス/2025年11月8日)

これ、さらっと読むと「よくあるSNS頑張ります発言」に見えるんですが、やっていることが完全に打席を増やすことにつながっています。

普通、楽曲のプロモーションは「サビ」のみになってしまうと思います。サビの15秒を切り出して、その振り付けを踊ってみた投稿をする。それでバズらなければ投稿頻度も減って、曲としての賞味期限が来る。

ところが大谷さんがやっているのは、同じ曲の、まだ使われていない別の場所を切り出して、そこで新しい打席を立てるという行為です。

1番のサビが一巡したら2番を出す。曲は同じでも、切り出す場所が変われば、それは新しいコンテンツとして機能する。

「とくべチュ、して」のリリースは2025年2月ですが、大谷さんは4月上旬に「とくべチュ2番ver.」のダンス動画を投稿していて、これが22万いいねを超えています。

@equal_love_emiri

魔法少女衣装でとくべチュ2番踊ったよ〜🪄🩷💜 2番も、もっともっと流行りますように🐰💕💕🎀 #とくべチュして #イコラブ

♬ Tokubechu Shite – =LOVE

=LOVEの公式TikTokアカウントも、4月下旬に「とくべチュ2番ver.」を複数投稿し始めています。リリースから2か月後に、大谷さんの投稿の後に、同じ曲の別の場所で打席を立て直しているわけです。

@equal_love_12

#とくべチュして 2番ver.💜🤍 #イコールラブ #イコラブ #大谷映美里 (@大谷映美里 ) #佐々木舞香

♬ Tokubechu Shite – =LOVE

② 運営が強いのとは、別の話

これ、運営がSNSに強いという話とは別物だと思っています。

運営が「2番も撮りましょう」と提案するのと、メンバーが「2番も撮ろうよ」と誘うのとでは、動く速さも、出せるものの自然さも違う。

同じ現場にいて、同じ楽屋にいて、なんならメンバー発案で撮れるという状態は、なかなか真似できません。

同じインタビューで大谷さんは、もともとTikTokには疎かったけれど、トレンドを早めにつかんで、面白いものを見つけたら、まだ流行っていなくても自分が流行らせるつもりで投稿を続ける、という趣旨のことを語っています。

この「まだ流行っていないものを自分が流行らせる」という感覚を持った人が、グループの内側にいる。

これが=LOVEの2打席目を作っています。

③ 一般ユーザーの投稿を拾う速度

もう一つ、=LOVEのTikTokで徹底されているのが、一般ユーザーの動画を拾う速度です。

ファンや一般のユーザーが投稿した動画がバズると、それを即座に見つけて、特に大谷さんから自分たちのアカウントでも展開する。

「体幹チャレンジ」として「超特急逃走中」の楽曲がバズったのも、まさにこの流れでした。最初はファンの方の投稿で、そのコメント欄に「頭が動いてない、体幹が強い」というコメントが伸びていて、それをきっかけにご自身のアカウントでも投稿している。

@equal_love_emiri

超特急逃走中の体幹チャレンジ😂💙足は目一杯左右に、上半身は動かさないのがコツです❕みんなやってみてね⭐️ #超特急逃走中 #イコラブ

♬ Tyoutokkyuu Tousoutyuu – =LOVE

拾われた側としても、これ以上ない報酬だと思います。

推しが自分が撮った動画で万バズした事実、それを推しに見つけてもらえたという事実は、次の投稿への強い動機になる。

だから投稿が止まらない。投稿が止まらないから、公式が拾える素材も尽きない。

4. 【打席を回す仕組み②】Xを攻略したのは、公式ではなくファン

ここからが、私が今回一番書きたかったパートです。

TikTokは、今やどのアイドルグループも攻略しにいっている場所です。

公式アカウントを作り、切り抜きを投稿し、振り付けをバズらせようとする。

競争は激しいですが、少なくとも「公式が努力すれば戦える場所」ではあります。

一方で、X(旧Twitter)はそうではありません。

Xでは、公式アカウントの投稿はあまり伸びないんです。

伸びるのは、ご本人の投稿か、ファンの投稿です。これはアルゴリズムの問題で、Xというプラットフォームが、別のリンクが埋め込まれた「宣伝」投稿よりも、「誰かの感想」を評価するようにできている。

だから、公式がどれだけ努力してもXは攻略できない。

その結果、公式Xで恒常的に話題を作れているアイドルグループは、ほとんど存在しない認識です。

その中で、=LOVEだけが例外的にXを押さえています。

しかもそれは、公式が頑張っているからではありません。

① カメコとは何か

=LOVEをはじめとする指原さんのグループには、「カメコ」という文化があります。

カメコとは「カメラ小僧」の略で、もともとはイベントで写真を撮る人を指す言葉です。ただ、=LOVEの現場におけるカメコは、その語感からイメージされるものとはかなり違います。

=LOVEのライブでは、公演中に「カメコタイム」という撮影可能な時間が設けられていて、「カメコエリア席」という専用の席種が用意されています。

ここに座った人は、決められた時間に限ってメンバーを撮影できる。

そして撮影のルールが、かなり厳格です。

公式のアナウンスによると、

  • 使用できるのはデジタルカメラ・一眼レフカメラのみ
  • スマートフォン・タブレットでの撮影は一切禁止
  • 一脚・三脚・脚立・自撮り棒などの補助機材も一律で禁止
  • 静止画のみ。動画撮影はいかなる場合も禁止
  • 撮影タイム以外の静止画撮影も禁止
  • フラッシュ撮影も禁止
  • 撮影した写真を使ったグッズの制作・販売は禁止

一見すると、ずいぶん厳しいルールに見えます。スマホを禁止するということは、参加のハードルを上げているわけですから。

でも私は、このルールこそが最大の設計だと思っています。

スマホを禁止するということは、現場に出てくる写真が、一定の機材で撮られたものだけになるということです。

つまりこのルールは、制限であると同時に、SNSに流れ出る写真の品質を担保する仕組みとして機能しているわけです。

② 報酬ゼロの、記者仕事並みの熱量

私は以前、Xでカメコ文化についてこう投稿したことがあります。

=LOVEをはじめ指原さんのグループの文化である「カメコエリア」の何がすごいかというと、みなさんプロカメラマンではないんですよ。

推し活をきっかけに数十万円〜百万円以上するカメラとレンズを買って、推しを連写で撮りまくって、ベストカットを即レタッチ、即彩度の調整をして、ライブ終わりにすぐ上げる。もはや記者仕事並みの熱量です。

この投稿は23万回以上見られました。それだけ、この文化がまだ知られていないということだと思います。

これを、毎公演、何十人もの人が同時にやっている。

結果として、=LOVEはライブがあるたびに、高クオリティのライブ写真が次々に投稿され、Xに数万いいねクラスの写真が複数並ぶ状態になっています。

新曲がなくても、テレビ出演がなくても、ライブさえあれば話題が発生する。

③ 価格設定に表れている思想

ここで、今回のリサーチで確認できた事実として、面白かったことを紹介します。

=LOVEの9周年コンサート「=LOVE 9th ANNIVERSARY PREMIUM CONCERT」(2026年10月・TOYOTA ARENA TOKYO)のチケットは、こうなっています。

プレミアムチケットが29,800円。通常チケットが11,000円。そして通常チケットの中身が、一般席・女性エリア席・カメコエリア席・着席観覧席の4種類です。

カメコエリア席が一般席と同じ値段、というより、席種が価格の変数になっていないんですね。どこに座っても11,000円です。

=LOVE 9周年コンサート FC先行チケット受付開始のお知らせ(=LOVE公式サイト)

比較として、NMB48が2022年に日比谷野外音楽堂で開催した公演を見てみます。一般指定席が8,900円、女性エリア席も8,900円、車椅子専用エリアも8,900円。その中でカメコ指定席だけが11,900円でした。2024年の公演でも指定席9,790円に対してカメコ指定席13,090円で、3,300円の差がついています。

カメコ席の価格設定の比較

これはNMB48の設定が間違っているという話ではまったくなくて、むしろこちらのほうが商業的には自然な気がします。

撮影という付加価値に対して対価をいただく。ほかの席種が全部同じ値段の中でカメコ席だけ上げているということは、そこに価値があると正しく判断しているということでもあります。

ただ、=LOVEはそうしていない。同じ値段にしている。

ここに、私は運営の思想が表れていると解釈しています。

=LOVEはカメコを「特権を買う顧客」として扱っていない。「良い写真を撮って世に出してくれる存在」として、会場に配置している。

撮る人が増えれば、良い写真が世に出る確率が上がる。運営が回収しているのは、チケットの差額ではなく、そのあとにXに流れる写真そのものだと考えると、この価格設定は完全に筋が通ります。

5. 【打率】衣装は、拡散されることを前提に作られている

そして、今回一番驚いたのがここでした。

① カメコが、衣装の設計条件になっている

=LOVEの衣装を手がけているのは、AKB48の衣装を初期から担当してきたオサレカンパニーのクリエイティブディレクター、茅野しのぶさんです。

これまでに手がけた衣装は4万着以上とのこと。

CINRAのインタビューで、茅野さんはカメコエリアについてこう語っています。

自分が手がけているアイドルの中でも、特にイコノイジョイ(=LOVE、≠ME、≒JOYという3つの姉妹グループの総称)は「カメコ」文化が根付いているグループなので、写真に撮ってSNSに上げたときに映えるかどうかをすごく気にしている。カメラのレンズを通すと照明や光の入り方によって色味が変わって見えるため、メンバーカラーの衣装を作るときも、照明が当たったときのことを考えて調整するといった工夫をしている。

茅野しのぶインタビュー(CINRA/2025年8月7日)

つまり、カメコという存在が、衣装というプロダクトの設計条件そのものに組み込まれているわけです。

ファンが撮る。だから、撮られることを前提に作る。この往復が制作工程のレベルで成立している衣装さんは、オサレカンパニーだけだと思います。

② 目的は「話題にされる」こと

そして、なぜここまでやるのか。その答えが、別のインタビューにありました。

モデルプレスの取材で、茅野さんは衣装作りにおいて「話題にされる」ことをすごく重要だと考えている、と語っています。

「あの動物の衣装」のように衣装に枕詞がつくようにする。賛否両論があってもいいから、ファンが思わず語りたくなる工夫や仕掛けを入れる。そして衣装が話題になることでファンが増え、その歓声がメンバーの自信につながっていく。最終的にはお茶の間で話題にしてもらいたい。

茅野しのぶインタビュー(モデルプレス/2026年8月6日)

可愛い衣装を作ること自体が目的ではないんですね。語られる衣装を作ることが目的で、可愛さはそのための手段です。

ここまで来ると、=LOVEの衣装は「MVや現場を彩るもの」ではなく、それ自体が打席を作る装置として設計されているのだと分かります。

カメコが撮る。撮られた写真が語られる。語られるとファンが増える。だからレンズ越しの見え方まで計算する。全部つながっています。

6. 性質の違う打席を、2つ持っている

ここまで、TikTokとXという2つの拡散メディアを見てきました。

そしてどちらの打率も上げている一つの例として、衣装があるというわけです。

ここで整理しておきたいのが、この2つは、バズの性質がまったく違うということです。

TikTokで回っているのは「曲」の打席です。

特定の楽曲、特定のフレーズ、特定の振り付けが単位になっている。だから曲のトレンドが過ぎてしまうと終わってしまう。逆に言えば、同じ曲の別の場所を切り出せば延命できる。大谷さんがやっているのは、まさにこれです。

Xで回っているのは「人」の打席です。

一枚の写真が単位になっている。曲は関係ありません。だから飽きるという概念がほぼない。そして何より、ライブがあるたびに新しい素材が供給されます。先週の写真に飽きても、今週のライブで新しい写真が出てくる。

この2つを両方持っていることが、=LOVEの本当の強さだと私は思っています。

曲のバズが落ち着いても、人のバズが回っている。人の写真で興味を持った人が、曲を聴きに行く。曲で知った人が現場に行って、そこで誰か一人に目を止める。曲と人が、お互いに客を送り合っている状態です。

そしてもう一つ、面白い現象が起きています。

=LOVEのメンバーの写真は、アイドル文脈の外側でバズるようになっています。

具体的には、美容アカウントです。

「イコラブの◯◯ちゃんの肌が綺麗すぎる」「このメイクが可愛すぎる」といった文脈で、=LOVEの写真が引用され、そこから使用コスメの話に展開していく。

これはもう、=LOVEのプロモーションではありません。美容というまったく別のジャンルの中で、=LOVEが美容垢界隈のミームとして機能している状態です。

ここが効いてくる理由は、=LOVEのファン構成にあると考えています。

=LOVEは女性アイドルグループとしては異例なほど女性ファンの比率が高いグループです。

女性ファンにとって、=LOVEのメンバーは「応援する対象」であると同時に、「こうなりたい」という自己投影の対象でもある。

だから、=LOVEの話題は自然にメイクやファッションの話題に接続していく。アイドルの話をしていたつもりが、いつのまにかコスメの話になっている。

そしてこの動きは、いま実際に事業として回収されはじめています。2026年7月、=LOVEは指原さんプロデュースのコスメブランド「Ririmew」のブランドミューズに就任しました。

大谷映美里さんは、同ブランドのプロダクトプロデューサーとして、2026年4月にハイライトとアイライナー、7月にアイシャドウパレットの新色を世に出しています。

ファンが撮った写真が美容文脈に流れ込み、その文脈でグループがコスメブランドの顔になり、メンバー本人が商品開発をする。

7. 【打率】引っかかった人が、イコラブ沼に落ちるまで

ただ、打席がいくら回っても、そこで打てなければ意味がありません。

「バズったのにファンが増えなかった」という現象は、アイドルに限らずあらゆるジャンルで起きています。リーチは取れたのに、その先に何もつながらない。これは打席の問題ではなく、打率の問題です。

ここで、=LOVEの打率が高い理由を、初めて=LOVEを知った人が辿る順番で考えてみます。

① 最初に触れるのは、15秒の音か、一枚の写真

TikTokのタイムラインに流れてきた15秒。あるいはXで見かけた一枚の写真。ここで人が受け取れる情報量は本当にわずかです。

② 飛んだ先に、必ず映像がある

そして、飛んだ先に必ずMVがあります。

TikTokで「超特急逃走中」を知った人が検索すると、ちゃんとMVが出てくる。音源だけだったら、そこで体験は終わっていました。

バズっている音源としては知っているけれど、それが誰のどんなグループで、バズったパート以外はどんな曲なのか全く知らない状態に陥ってしまうからです。

全曲MVという方針は、コストとしては重いですが、バズが着地する場所を全曲分用意しているということでもあります。

そして何といっても、指原さんの書く歌詞の素晴らしさ。歌詞の秀逸さについて語り出したらキリがないですし、他でもたくさん語られていることですので今回は割愛しますが、「女性目線の超言語化された歌詞」と「アイドルやファンの目線の歌詞も書ける」ことが両立しているのは、これまでなかった視点であり、素晴らしさにつながっていると思います。

③ 世界観が担保されている

その素晴らしい歌詞の世界観を表現するMV。映像の質が安定して高い。

ここまで映像についてあまり触れていませんでしたが、イコノイジョイのビデオプロデューサーが三池智之さんということで、どの監督になっても映像の質が表題と比べてチープなことが一切ない。

普通、カップリング曲のMVって、表題曲よりは当たり前にチープに見えてしまうと思うんです。なのに全くシングル表題曲に引けを取らない作品に仕上がっているのは、三池さんのお力が大きいと思っています。そもそもこの肩書き自体、他のアイドルではあまり聞きません。

結果として、「TikTokで見たときは可愛いと思ったけど、ちゃんと見たらそうでもなかった」という失望が起きにくい構造になっています。

④ 誰か一人に目が留まる

そして、ここが=LOVEの強いところだと思うのですが、ただ可愛いで終わらない。

気になる入口が、可愛いだけではないんです。

=LOVEは近年、表題曲のセンターを佐々木舞香さん、野口衣織さんが担い、カップリング曲では大場花菜さん、大谷映美里さん、諸橋沙夏さん、齋藤樹愛羅さんなど、それぞれ異なるメンバーがセンターに立っています。楽曲のテーマに合わせて、そのテーマを最も体現できるメンバーが前に出る。

一般に、人数の多いアイドルグループは「数人は顔と名前が一致するけれど、あとは正直わからない」という状態になりがちです。

しかし=LOVEは、デビューから9年をかけて、そこを個性の粒立ちで解消してきたように見えます

実際に、メンバーそれぞれの外での仕事を並べてみると、見事に散らばっているんですよね。

佐々木舞香さんは正統派女優です。

2025年4月、TBSの日曜劇場「キャスター」(主演・阿部寛さん)に出演。同じ月からBSフジ「Trailblazers〜次なる日本の革新者たち〜」のナビゲーターも務めています。個人的には、マクドナルドのテレビCMに堺雅人さんと並びで起用されていることもとても印象的でした。WebCMもかなり話題になりましたね。

アイドルの外に出るときに「=LOVEの顔」として圧倒的に強い露出が担える人だと感じます。ご本人はもともと声優志望だったそうなので、今後はやりたい方向の露出も増えていくかもしれません。

大谷映美里さんは美容とファッション。2022年にアパレルブランド「Rosé Muse」を立ち上げました。しかも完売が当たり前なほど、ブランドとしても絶大な人気です。アイドル出身でアパレルブランドを成功させた小嶋陽菜さん(元AKB48)に続く存在になりつつある気がしています。指原さんプロデュースのコスメブランドRirimewではプロダクトプロデューサーを務めています。

野口衣織さんは声優。2018年の「走り続けてよかったって。」で初主演を務め、その後も「シャインポスト」「魔王様、リトライ!R」「齢5000年の草食ドラゴン」などに出演。2027年1月放送予定の新作アニメでもメインキャストに名を連ねています。直近では映画「おそ松さん 人類クズ化計画!!!!!?」にも出演しました。ライブでも、楽曲ごとに声の幅を生かした表現をされています。

髙松瞳さんはバラエティです。フジテレビ「芸能人が本気で考えた!ドッキリGP」あたりをきっかけに、表情豊かなリアクションが大きく話題になっている印象。2026年6月にはTBS「それSnow Manにやらせて下さい」にも出ています。その一方で、スタイルの良さやビジュアルの強さで美容アカウント界隈でも話題になり、美容系の露出も増えている印象です。面白くて美人という、女子が好きなギャップ要素が盛りだくさんな気がします。

大場花菜さんは絵です。ウォーカープラスでの4コマエッセイ連載「はなコミ!〜となりにアイドル〜」は2022年9月から2026年3月まで全71回続き、2026年8月にKADOKAWAから書籍化されました。

瀧脇笙古さんはスポーツ。マラソンやテニスを日常的に楽しむアクティブさを買われて、2026年8月にスポーツライフスタイルブランド「FILA」の26FWシーズンのスタイリングパートナーに就任しました。TBSの「SASUKE」にも挑戦しています。

山本杏奈さんは地元・広島のスポーツです。2025年4月から、Leminoの海外サッカー情報番組「Lemino Football」のMCを務めています。さらに2025年9月には、マツダスタジアムでの広島東洋カープ対阪神タイガース戦で始球式を務めました。本人が長年公言していた夢で、グループ公式のYouTubeチャンネルには、その発表の瞬間から試合当日までを追った動画が上がっています。

諸橋沙夏さんは歌です。2024年9月からは自身のレギュラーバラエティ番組「=LOVE 諸橋沙夏の『スナック沙夏』」が始まり、国内最大級のアイドルフェス「TOKYO IDOL FESTIVAL」には2025年、2026年と2年連続でソロステージに立ちました。2026年のTIFでは、=LOVEとしてメインステージの大トリを務めたうえで、その前の時間帯にひとりで別ステージに立っています。

齋藤樹愛羅さんは声優と地元。「シャインポスト」に出演しているほか、2024年4月には出身地・栃木県の「とちぎ未来大使」に任命され、福田富一知事から委嘱状を受け取っています。

音嶋莉沙さんはモデルです。ファッション誌「S Cawaii!」のレギュラーモデルを2023年11月号から務めているほか、「evelyn」などファッションブランドのモデルもしています。

こうして並べてみると、演技、美容、声優、バラエティ、絵、スポーツ、歌、地元、ファッションと、ほとんど重なっていない。ジャンルが幅広すぎてすごいですよね。

ここで紹介したのは一部なので、詳しい方からしたら「もっとあるよ!」という状態かと思います。

ここで伝えたいのは、ただ人気だから仕事がある状態なわけじゃなくて、個々人の個性が仕事につながっているということです。

つまり、個性が立っていることで、さらに打席を増やしているわけです。

スポーツ番組を見ていた人が=LOVEを知る。美容好きが=LOVEを知る。入口が多いということは、外から見たときの引っかかりどころが多いということでもあります。

⑤ 結果として、イコラブ沼

15秒で引っかかり、MVで世界観と歌詞に共鳴し、気になるメンバーを誰か一人見つける。もっと曲を聴いてみようかな、お話し会に行ってみようかな、ライブに行ってみようかな。そうやって、一番最初の話に戻ってくるわけです。

このプロセスが成立しているから、=LOVEは「バズったのにファンが増えない」という状態にならない。打席が回ってきたときに、ちゃんと打てているわけです。

8. おわりに

今回は、「=LOVEはなぜここまで人気になったのか」という問いを、「なぜ同じ曲で2回バズれるのか」という切り口から考えてみました。

整理すると、こうなります。

  • =LOVEは新曲を出す回数を増やさずに、外に向けた2つ目の打席を作っている。
  • 全曲MVという方針が、カップリング曲を単独で打席に立てる商品にしている。
  • TikTokでは大谷映美里さんが、同じ曲の別の場所を切り出して2打席目を自分で作っている。
  • Xでは、カメコ文化が「人」の打席を回し続けている。価格・ルール・衣装設計まで含めて、これは運営が意図的に整えた環境である。
  • そして、打席が回ってきたときに打てるだけの土台が9年分ある。

書きながら思ったのは、打席は増やせるけれど、打率は一朝一夕には上がらない、ということでした。

=LOVEが9年かけて積み上げてきたのは、たぶん後者のほうです。

TikTokの投稿も、カメコエリアも、それを受け止める土台があってはじめて意味を持つ。ここを飛ばして仕組みだけ真似しても、たぶん同じことは起きないんだろうなと思います。

この話、アイドルに限りません。新商品を出す回数を増やせないなら、いま持っている商品に何度打席を回せるかを考える。語ってもらうのではなく、語れる環境を作る。そして語られた先に、受け止める中身があるか。どの業界でも当てはまる話だと思います。

=LOVEは、2026年8月26日に21stシングル「恋、はじめました。」をリリースし、2027年1月には東京ドームでの単独公演を控えています。この打席の設計が、ドームという規模でどう機能するのか。この連載でも引き続き定点で追いかけていきます。

それでは、また次回。