「9日」と「1,083日」。

近年のヒット曲2曲が、配信リリースからチャート初登場までにかかった日数です。前者は男性5人組グループ・M!LKの「好きすぎて滅!」、後者は新しい学校のリーダーズの「オトナブルー」。その差、約120倍。

先日、MEDIAMIXI with interFMのラジオで、アソビシステム代表の中川悠介さんが「バズった日がリリース日」という考え方を話していらっしゃいました。FRUITS ZIPPER、CANDY TUNE、CUTIE STREETなどを擁するアイドルレーベル「KAWAII LAB.」を運営する会社の代表です。

売れなければMVを作り直す。シングルをアルバムに再パッケージする。バズるまでSNSを投稿し続ける。そもそも「発売日が最高熱量」という前提自体を疑っている。

発売日は、いまも「勝負の日」なのだろうか。

この問いを確かめるために、近年のヒット曲7曲について、配信日・MV公開日・チャート到達日・CD発売日をすべて洗い出しました。結論から言うと、私が想像していたよりずっと構造的な話でした。

なお本記事では、アイドルグループを中心に、ダンス&ボーカルグループも広めに含めて見ていきます。新しい学校のリーダーズはアーティスト寄りの立ち位置ですが、中川さんご自身が例として挙げていたため対象に入れています。

1. 【バズった日がリリース日】ラジオとインタビューで語られていた考え方

他でも話されていないのかなと調べたところ、この言葉の出どころは、2025年10月にDIGIDAY[日本版]へ掲載された、中川さんとKDDI・三浦伊知郎さんの対談記事でした。タイトルがそのまま「バズった瞬間がリリース日」となっています。

そこで中川さんは、TikTokで「バズった日がスタート、つまりその時が本当のリリース日」だと考えている、と語っています。

この記事、アイドルの話としてよりも、マーケティングの話として読むとかなり面白いです。中川さんはこんな趣旨のことをおっしゃっています。

  • ファンと本人の熱量が掛け合わさった状態を、社内では「地熱」と呼んでいる
  • 成功の鍵は、ちょっとバズった瞬間に組織全体でどれだけ動けるか
  • どんなに美味しい餃子でも、作り手が一方的に「美味しい」と言うだけでは誰も反応しない。100人が「美味しい」と発信したあとに広告を打つから意味がある
  • マネージャーはもともとマーケターに近い存在だ

出典

餃子のたとえ、企画を考える仕事をしている人間としては、けっこう刺さりました。作り手が「これは良いものです」と言い続けても、もう誰も聞いてくれない。誰かが勝手に「良い」と言い出してから、はじめて宣伝が効く。順番が、完全に逆になっているんですよね。

ただ、ここまでは「言っていること」の話です。本当にそう動いているなら、実際の日付に出ているはずです。というわけで、調べてみました。

2. 【9日から1,083日まで】ヒット曲7曲の”日付”を全部並べる

対象にしたのは、以下の7曲です。

  • 新しい学校のリーダーズ「オトナブルー」
  • FRUITS ZIPPER「わたしの一番かわいいところ」
  • CANDY TUNE「倍倍FIGHT!」
  • CUTIE STREET「かわいいだけじゃだめですか?」
  • 超ときめき♡宣伝部「超最強」
  • M!LK「好きすぎて滅!」
  • =LOVE「とくべチュ、して」

公式発表・レーベル資料・チャート発表をもとに日付を洗い出したのが、下の表です。

【図:ヒット曲7曲の”日付”一覧表(配信日・MV公開日・チャート到達日・CD発売日・配信→バズ日数)】

まず目を引くのが、いちばん右の「配信→バズ」の欄です。

M!LKの「好きすぎて滅!」は9日。CUTIE STREETの「かわいいだけじゃだめですか?」は約1か月。一方で、新しい学校のリーダーズの「オトナブルー」は約2年11か月、CANDY TUNEの「倍倍FIGHT!」は約10か月かかっています。

同じ「TikTokでのヒット曲」という結果に至っていながら、そこまでの時間が2桁違う。

もしヒットが「発売日にどれだけ盛り上げられたか」で決まるなら、こんなに散らばるはずがありません。発売日という同じ起点から、同じくらいの期間で勝負がついているはずです。

でも実際には、そうなっていない。

さて。ここから、もう少し細かく見ていきます。

3. 【リリース日は何回でも作れる】どの曲にも”世に出た日”が4〜5個ある

この表を作りながら、私がいちばん引っかかったのはここでした。

どの曲にも、「リリース日」が複数あるんです。

「オトナブルー」を横に読んでみてください。配信日(2020年5月1日)、MV公開日(2023年春)、「THE FIRST TAKE」音源の配信日(2023年6月16日)、アルバムへの再収録日(2023年12月13日)。少なくとも4つの”世に出た日”があります。

(「THE FIRST TAKE」は、アーティストが一発撮りでパフォーマンスする様子を公開するYouTubeチャンネルです。ここでの音源が改めて配信されることが多く、既存曲がもう一度話題になる導線になっています)

「かわいいだけじゃだめですか?」は5つ。配信日、MV公開日、CD発売日、韓国語版の配信日、韓国語版MVの公開日。最初の配信から韓国語版MVまで、1年8か月が空いています。

「倍倍FIGHT!」も5つ。ツアーでの初披露、配信、MV公開、「THE FIRST TAKE」、そして1stアルバムの表題曲としての再登場。しかもMVが公開されたのは、TikTokで1位を獲った後です。

これらを並べて、私なりにたどりついた見方がこれです。

「バズった日がリリース日」とは、発売日を捨てることではない。発売日と、本当のリリース日を、切り離すことである。

そして実装としては、こうなります。

曲は1回しか作れないけれど、リリース日は何回でも作れる。

  • MVを作り直す → 新しいリリース日をつくる
  • アルバムに再収録する → 新しいリリース日をつくる
  • シングルカットする → 新しいリリース日をつくる
  • 韓国語版を出す → 新しいリリース日をつくる
  • 「THE FIRST TAKE」で一発撮りする → 新しいリリース日をつくる

(「シングルカット」は、すでに配信やアルバムで出ていた曲を、あとから改めて単独のCDシングルとして出し直すことです)

つまり、「バズるまで待っている」のではなく、「バズるまでリリース日を刷り直している」。待っているように見えて、実際にはずっと打席に立ち続けている。

中川さんの言葉が精神論に聞こえないのは、たぶんここが理由です。

4. 【=LOVEという逆説】発売日に全部を賭けるグループが証明したこと

……と、ここまでが当初の私の結論でした。

ただ、この記事を書きながら=LOVEの「とくべチュ、して」を改めて調べていて、考えを一段組み替えることになりました。

というのも、ここまで挙げてきたグループは、KAWAII LAB.系にせよM!LKにせよ、デジタル配信が先で、CDが後という並びです。CDは、デジタルで起きた熱を回収するための器になっている。

ところが=LOVEは、まったく違います。

=LOVEは指原莉乃さんがプロデュースするアイドルグループで、2017年のデビューから20作のシングルを出し、そのすべてでオリコン週間シングルランキングTOP10入りを果たしてきた、いわばCDセールス型の代表格です。

「とくべチュ、して」を収録した18thシングルも、発売初日だけで22.5万枚を売り、それまでの自己最高「初週」売上を、たった1日で超えました。最終的な初週売上も、オリコン週間シングルランキング・Billboard JAPAN Top Singles Salesの両方でグループ史上最高を更新しています。生写真、特典、応募抽選シリアル。発売日に向けて全力で積み上げる、まさに「打ち上げ花火型」の設計です。

にもかかわらず、この曲のタイムラインを見てください。

2025年2月10日に配信が始まり、2月19日公開のBillboard JAPANストリーミング・ソング・チャートに30位で初登場。2月26日にCDが発売。ここまでは完璧な打ち上げ花火です。

そして、その後いったんトップ300圏外にチャートアウトしています。

初動は取り切った。花火は上がった。終わった、はずでした。

ところが4月中旬から、TikTokで火がつきます。

しかも、サビでもイントロでもなく、楽曲の2番パートを使ったダンス動画として。4月30日公開のチャートでトップ100に返り咲き、そこから35週連続でトップ100をキープ。6月にはTikTok総再生10億回、UGC(ユーザーが自分で作って投稿した動画)は30万本を突破しました。

@equal_love_12

#とくべチュして 2番まいかちゃん振りver.🤍𓂃𓈒 𓂂𓏸 #イコールラブ #イコラブ #佐々木舞香

♬ Tokubechu Shite – =LOVE

これ、同じ1曲の中に、リリース日が2回あるんですよね。

  • 1回目のリリース日:2025年2月26日(会社が決めた発売日)
  • 2回目のリリース日:2025年4月中旬(世の中が決めた本当のリリース日)

しかも話はここで終わりません。

同じシングルに収録されていたカップリング曲「超特急逃走中」が、10月になってから”体幹チャレンジ”としてTikTokで再燃し、『MUSIC STATION』で表題曲を差し置いて披露される事態になっています。

@equal_love_emiri

猫ひとりで体幹チャレンジ🔥 イコラブ公式に載ってるいおみりver.も観てね〜🐱💜 #超特急逃走中 #イコラブ

♬ Tyoutokkyuu Tousoutyuu – =LOVE

(「カップリング曲」は、シングルのメイン曲と一緒に収録される、いわば”B面”の曲です)

つまり、1枚のシングルから、8か月かけて2回打席が回ってきた。

さらに2026年7月16日付のApple Music「トップ100:日本」では、=LOVEの楽曲が5曲同時にランクインしています。「とくべチュ、して」(22位)、「お姫様の作り方」(59位)、「劇薬中毒」(61位)、「ラブソングに襲われる」(89位)、「絶対アイドル辞めないで」(97位)。

この5曲、内訳を見ると面白いんです。17thから20thまで、4作分のシングルが同時に稼働している。いちばん古い「絶対アイドル辞めないで」は、約2年前の2024年7月の曲です。

そしてもうひとつ。59位の「お姫様の作り方」は、61位の「劇薬中毒」のカップリング曲です。カップリングが、表題曲を追い抜いている。

=LOVEはカップリング曲にもきちんとMVを作り、音楽番組でフルサイズを披露させています。8か月遅れて単独でバズった「超特急逃走中」も、もとは18thシングルのカップリングでした。つまり1枚のシングルに対して、表題曲とカップリング曲、それぞれ別の打席を用意している。

先ほど「1枚のシングルから8か月かけて2回打席が回ってきた」と書きましたが、あれは偶然ではなく、そういう設計だったわけです。

ちなみに「とくべチュ、して」は、2026年6月時点でストリーミング累計1.4億回、TikTok総再生22億回に達しています。リリースから1年4か月経っても、まだ伸び続けているわけです。

ここで、冒頭の問いに戻ります。

もっとも「発売日にすべてを賭けている」ように見えるグループが、もっともきれいに「発売日と本当のリリース日は別物だ」を証明してしまった。

5. 【2つの型】「後追いパッケージ型」と「二段構え型」

ここまでを整理すると、7曲は大きく2つの型に分けられます。

①型A:後追いパッケージ型

デジタルで配信し、バズを確認してから、CDやMVを後から用意する。

  • オトナブルー(バズ後にMV制作、「THE FIRST TAKE」音源、アルバム再収録)
  • わたしの一番かわいいところ(配信から約1年4か月半後にシングルカット)
  • 倍倍FIGHT!(TikTok1位の翌月にMV公開、その半年後にアルバム表題曲化)
  • 超最強(アルバム13曲中の1曲から、バズを受けてシングルカット)
  • かわいいだけじゃだめですか?(チャート1位の約1か月後にCD発売)
  • 好きすぎて滅!(配信から約4か月後、紅白を挟んでCD化)

このモデルにおいて、CDは「音楽を届ける手段」ではありません。デジタルで起きた熱量を物理に変換して回収する装置です。言い換えれば、CDは「バズの精算日」なんですよね。

だからCDを先に出す理由がない。バズの規模を見てから、形態数も生産量も決められる。在庫リスクを負う判断を、需要が見えたあとに後ろ倒しできているわけで、これは経営としてかなり合理的な気がしています。

②型B:二段構え型

発売日には全力で打ち上げる。そのうえで、二発目を待つ。

  • とくべチュ、して(CD初動で自己最高 → 圏外 → 2か月半後にバズ → 35週連続チャートイン)
  • 超特急逃走中(同じシングルのカップリング曲が、8か月後に単独でバズ)

こちらは、CDセールスもファンダム消費も一切放棄していません。打ち上げ花火はちゃんと打ち上げたうえで、その後にもう一発あるという設計です。

そして、ここが重要なのですが、この2つの考え方は、優劣ではありません。

型Aだけを見ていると、「これからはデジタル先行だ、CDは後追いだ」という単純な結論になりがちです。実際、私も途中までそう書こうとしていました。

でも=LOVEが示しているのは、そうではない。

捨てるべきなのは「発売日」ではなく、「打ち上げたら終わり」という前提のほうだった。

6. 【発売日は在庫登録日】届くタイミングを、送り手はもう決められない

ここまでの話、広告の企画を考えていた頃を思い出しながら書いていました。

というのも企画の仕事で感じたのは、「良いものを作れたかどうか」と「当たったかどうか」が、必ずしも一致しないことだったからです。

手応えのある企画が、まったく話題にならないことがある。逆に、そこまで気合を入れていなかったものが、思わぬ形で広がることもある。

①かつて、発売日に賭けられた理由

音楽ビジネスも、長いあいだ同じ形だったと思います。

  1. 発売日を決める
  2. その日に向けて宣伝を積み上げる
  3. 発売日に一気に投下する
  4. 初動が出なければ、次の曲へ

なぜこれで成立していたかというと、「いつ、どれくらい届くか」を、送り手側がお金で買えたからです。

テレビCMも、雑誌広告も、街の看板も、枠を押さえれば押さえた分だけ届く。届くタイミングも自分で決められる。だから「発売日に全部を集める」のが、いちばん効率のいい戦い方でした。

アイドルの場合は、これに加えて「AKB商法」と呼ばれる仕組みが効いていました。握手券や投票券などの特典をCDに封入し、ファンが同じCDを複数枚買う販売手法のことです。握手会をはじめとする特典会、最近だとツーショット撮影会やチェキなど、その先に「会える」体験があることで、発売日の売上をある程度確実に見込める。

つまりかつての発売日は、届く量も、売れる量も、事前にかなりの精度で読めた日だったわけです。

②いま、届くタイミングは決められない

ところが「曲がどこまで広がるか」については、SNSの時代になってこの前提が崩れました。いつ届くかを決めるのは、アルゴリズムとユーザーだからです。

その象徴が、「とくべチュ、して」でバズったのが2番パートだったという事実です。

レーベルが「ここを聴かせたい」と設計した場所ではなく、ユーザーが「ここが使いやすい」と判断した場所が起点になった。送り手にコントロール権がないことの、これ以上ない証明だと思います。

ただ、失ったものがある代わりに、得たものもあります。

過去に出した曲にも、何度でも順番が回ってくる。

昔なら、初動を外した曲は棚の奥にしまわれて終わりでした。いまは、しまったつもりの曲が、半年後にユーザーの手で引っ張り出されることがある。

③「打ち上げる」と「置いておく」を両方やる

正しい答えは、たぶん「発売日に賭けるのをやめよう」ではありません。両方やる、です。

  1. 発売日には、これまで通り全力で打ち上げる
  2. と同時に、出した曲を「いつ火がついてもいい状態」で置いておく
  3. ライブでの反応、コメント、投稿数の変化を、ずっと見ておく
  4. 火がついた瞬間に、組織全体で一気に酸素を送る

中川さんの言う「ちょっとバズった瞬間にどれだけ全体で動けるか」は、この4番目のことだと思うんです。

そして、この見方をすると「発売日」の意味も変わってきます。

発売日はゴールではなく、「在庫登録日」です。
棚に置いた日にすぎない。=LOVEのように、その日に大きな初動を作ることはできる。でも、売れ続ける日は、あとから来る

④1曲が稼ぐ期間が、長くなっている

もうひとつ、この構造で見逃せない変化があります。

かつて1曲の勝負期間は、発売から数か月でした。いまは「オトナブルー」のように3年後に本番が来る曲もあれば、「かわいいだけじゃだめですか?」のように1年8か月後に韓国語版で新しい市場を開く曲もある。=LOVEに至っては、5曲が同時に稼働している。

1曲がお金を生み続ける期間が、構造的に長くなっている。

これは「1曲にいくらまでかけていいのか」という判断そのものを変えます。数か月で回収する前提だったものが、数年かけて回収していいことになる。つまり、1曲にかけられる上限が上がるということでもあります。

7. 【これは「待てる会社」の戦略か】待機期間のコストを負担しているのは現場

ただ、この戦い方には、けっこうな体力が必要な気もしています。

「オトナブルー」の約3年、「倍倍FIGHT!」の約10か月、「超最強」の約5か月半、「とくべチュ、して」の約2か月半。この待機期間、当たり前ですがメンバーは活動しています。ライブをやり、現場を回し、次の曲を出している。

つまり、曲を寝かせられるのは、その間もキャッシュが回っている組織だけなんですよね。

=LOVEの場合、それはCDセールスとライブでした。2025年2月に始まったアリーナツアーは追加公演を含め約11.5万人を動員し、2026年6月には国立競技場(MUFGスタジアム)でスタジアムライブを開催。2027年1月には東京ドーム公演も決まっています。曲が寝ている間も、これだけの規模で現場が回っているわけです。

KAWAII LAB.の場合はリリースイベントと現場です。TikTokで8億回再生を記録したモナキというグループも、その裏側には15都府県76公演という現場の積み上げがありました。

「待つ」ことのコストは、誰かが負担している。
そしてそれはたいてい、現場です。

だから「バズった日がリリース日」を、「いいものを作って気長に待とう」という話として受け取ってしまうと、いちばん大事な部分を取りこぼすことになります。待っている間に何をやっているかが、実際にはすべてなんです。

8. 【打席は設計で増やせる】アイドル以外の仕事にも効く考え方

じゃあ、資本力のない事務所やグループにとって、この考え方は絵に描いた餅なのか。

私はそうは思っていません。ここには、けっこう明確な伸びしろがあると思っています。

というのも、「打席を増やす」ことは、必ずしも資本の問題ではなく、設計の問題だからです。

たとえばM!LKは、2026年4月から8月にかけて「モー烈モー進!リリースプロジェクト2026」として、ほぼ毎月新曲をリリースする企画を走らせています。5か月で5曲。実際に「アイドルパワー」「真・運命」「しおざきわんだーらんど」「You!Joy!Parade!」と次々に曲を出し、各曲で露出も増やしている。これは明確に打席の数を増やしにいく設計です。

とはいえ、同じことは必ずしも新曲でなくてもできる気がしています。

  • 既存曲の別バージョン(アコースティック、別言語版、Sped Up など)
  • 振付の別カット、別衣装でのダンスプラクティス動画
  • ライブ音源/映像としての再パッケージ
  • 他アーティストとのコラボレーション
  • 既存曲を使ったタイアップ、替え歌

4つ目の「他アーティストとのコラボレーション」は、=LOVEの事例が象徴的です。「とくべチュ、して」のバズの過程では、中島健人さん、宮近海斗さん(Travis Japan)、MIIHIさん(NiziU)、CANDY TUNEのメンバーといった、他グループ・他ジャンルで影響力の高い方々のダンス動画が次々と話題になりました。

これ、火がついた後に酸素を送る動きとして、非常によくできています。しかも新曲を作るより圧倒的に低コストです。

そして最後の「既存曲を使ったタイアップ、替え歌」にも、=LOVEに分かりやすい例があります。

2026年6月、日本マクドナルドの期間限定商品「VIVA!ワールドマック」のWeb CMに、=LOVEがグループとして初出演しました。ここで使われたのは新曲ではなく、2025年10月にリリースした「ラブソングに襲われる」の歌詞を商品に合わせて替えたセルフカバー(自分たちで歌い直したバージョン)です。しかもCMの映像は、その曲のMVのシーンをオマージュして作られている。

曲も、MVも、すでにあるものです。それを商品タイアップという新しい文脈に置き直すだけで、リリースから8か月経った曲にもう一度打席が回ってきている。

新曲を作らずに打席を増やすというのは、まさにこういうことなんだと思います。

つまり、「バズった日がリリース日」から学べる最も再現性の高い部分は、1つの良いクリエイティブに対して、何回打席を用意できるかを設計しておくことなんじゃないかと思うんです。

そしてこれは、音楽業界に限った話ではないですよね。商品でも、コンテンツでも、サービスでも同じです。良いものを作ったあと、それを何回世に問い直せるか。

ローンチが1回きりだと思っているから、ローンチで全部を賭けることになる。

逆に言えば、ローンチを増やせば、賭け金は分散します。ヒットを「点」ではなく「確率の運用」として捉えるというのは、たぶんそういうことなんだと思います。

おわりに

最後に、本記事の要点を整理します。

  • 「バズった日がリリース日」は、ヒットを待つ姿勢の話ではなく、発売日と本当のリリース日を切り離す段取りの話である
  • 実際、代表的なヒット曲はどれも「リリース日」を4〜5個持っている
  • KAWAII LAB.系やM!LKは後追いパッケージ型。CDは「バズの精算日」として後から出る
  • 一方=LOVEは二段構え型。発売日に初動を取り切ったうえで、2か月半後にもう一発来た。カップリング曲は8か月後に来た
  • つまり捨てるべきなのは「発売日」ではなく、「打ち上げたら終わり」という前提のほう
  • ただし、待機期間のコストは現場が負担している。「待つ」ことと「打席を増やす」ことはセットでしか成立しない

冒頭に立てた「発売日は、いまも勝負の日なのだろうか」という問いに戻ると、答えは「勝負の日ではあるが、最後の勝負の日ではない」ということになると思います。

=LOVEが「とくべチュ、して」で一度チャートアウトしてから返り咲いた、という事実。私はこれが今回いちばんの発見でした。従来の常識なら、あそこで「この曲は外した」と判断されていたはずなんです。

外したと思った曲に、もう一度打席が回ってくる。
これは送り手にとって、けっこう希望のある話だと思っています。

この「リリース日が複数ある」という現象、本当は定量的にきちんと検証したいと思っていて、今回そのためにTikTok音楽チャートのデータも集めにいきました。ただ、チャート自体が2024年8月に始まったばかりで、それ以前のバズが観測できないという構造的な壁があり、今回は事例ベースでの考察に留めています。

この連載では、こうしたヒットの構造を定点観測として追いかけていきたいと思っています。チャートのデータが十分に溜まったタイミングで、あらためて数字で検証する回もやりたいです。

それでは、また次回。

主な参照元

  • 「バズった瞬間がリリース日」。アソビシステム 中川悠介 が見据えるカルチャーとブランドの新・共創関係(DIGIDAY[日本版]、2025年10月23日)
  • MEDIA MIXI with interFM
  • 株式会社ソニー・ミュージックレーベルズ プレスリリース(PR TIMES)
  • =LOVE オフィシャルサイト
  • アソビシステム株式会社 公式ニュースリリース
  • 超ときめき♡宣伝部 オフィシャルサイト/avex公式サイト
  • M!LK オフィシャルサイト
  • Billboard JAPAN Daily News/チャート
  • ORICON NEWS/オリコン週間ランキング
  • 音楽ナタリー、THE FIRST TIMES、OTOTOY、CDJournal、タワーレコード オンライン
  • 日本マクドナルド株式会社 プレスリリース