ポップでカラフル、ハイスピードな中国発SF映画の最新形が、なんとNetflixにある。
映画『銀河は夢の中に』は、今年(2026年)の春節に公開された超大作。『カイジ 動物世界』(2018年)などの人気監督ハン・イエンが手がけ、主演に「流星花園 2018」や「蒼蘭訣~エターナル・ラブ~」などのワン・ホーディーと、f(x)のビクトリアとして日本でも親しまれたソン・チエンを迎えた、現代映像作品のイマジネーションをぎゅっと凝縮した一本だ。
近年の中国SFといえば、日本では『三体』や『流転の地球』といった「ハードSF」がよく知られているが、本作は同じく人類文明や科学技術の未来を、宇宙規模の大スケールで描きながらも、まったく別の方向に猛スピードで突き進んでいく。
Netflixオリジナル作品ではないものの、Netflixが中国大陸を除く全世界での独占配信権を獲得した話題作。中国映画界が放つ最新のエンターテインメントを、「ストリーミング時代」ならではのありかたで楽しむことにしよう。
宇宙船から夢の世界へダイブ!
舞台は2058年。宇宙開発は着々と進み、いまや人類は星間船を「宇宙のバス」として扱えるようになっていた。数十年以上におよぶ冬眠をともなう長期航行だが、肉体の老化は克服され、脳の損傷も、乗組員のそれぞれが望む世界を体験できる仮想夢システム「吉夢LM」によって回避することができるのだ。
ところがある日、宇宙船「萌芽(メンヤ)号」の技術者であるシュウ・テンビャオは、システム点検のために冬眠から目覚めると、船にかつてない異常が起きていることに気づく。テンビャオは船長のリー・スーモンを叩き起こし、なんとか事態に対処しようとするが、さらなる異常が相次いで起こるのだった。
危機回避のカギを握る乗組員を目覚めさせるため、テンビャオとスーモンは、乗組員たちが「吉夢LM」の中で見ている夢にダイブしなければならない。軽口を叩き、いつも出たとこ勝負のテンビャオと、規律と任務を重んじるスーモン。性格も立場も異なるふたりは、「宇宙」と「夢」、ふたつの世界で共闘することに……。

サイバーパンク、ノワール、水墨画――カラフルな「夢」の世界
クールな色彩の「宇宙」空間と、カラフルで目まぐるしい「夢」の世界を往復しながら展開するSFファンタジー。監督のハン・イエンは、画面上の情報量を爆発的に増やす「極繁主義」のもと、主人公たちが飛び込む「夢」のひとつひとつで映像のスタイルを変化させた。
たとえばネオンに染まったサイバーパンク都市、やくざ者たちが入り乱れる黒社会、激しい戦いが行われている戦場、アニメーションで描かれる水墨画の世界。テンビャオとスーモンは、乗組員が見る「夢」のキャラクターにランダムで割り当てられるため、飛び込むごとに役柄や衣裳、髪型、使える能力がすべて一新される。

彼らのミッションは、そんな「夢」の世界を生きている乗組員を目覚めさせ、現実世界に引き戻すこと。もしも制限時間切れとなったり、うっかり命を落としたりすれば、自分たちだけが目を覚ますことになる。
「夢」のステージに何度も挑むゲーム的コンセプトや、新たな世界と展開をほんの数分ごとに次々と提示するスピード感たっぷりの映像感覚は、いわゆるハードSFの重厚さとはまるで異なる。とりわけ前半は、現実世界の「宇宙」でも危機が頻発し、とんでもない速度と情報量で映画が転がりつづけるのだ。

「説教ゼロ、メロドラマゼロ、悩みゼロ」
「説教ゼロ、メロドラマゼロ、悩みゼロ」。
これは劇場公開時の宣伝フレーズだが、とにかく観客を飽きさせまいとするサービス精神の旺盛さがあり、小さなモニターでも一目瞭然の情報量とアクションは、映画館の大スクリーンで観たらさぞ圧倒されたであろう作り込み。なるほどこれも春節映画(正月映画)の賑やかさかと思わせる。
本編およそ3400カットのうち、VFXが使用されたカットは3200以上。「夢」の世界は40以上におよび、8000枚を超えるコンセプトデザインが制作された。VFX制作には730日(約2年!)を費やしており、作業量の増大ゆえ、実は公開日も当初の予定から大幅に延期されていた。

ハリウッドの超大作さながらのスケールや、目まぐるしい速度で畳み掛けられる「夢」のシークエンスには、過去の名作映画を思わせるところもある。『2001年宇宙の旅』(1968年)や、『スター・ウォーズ』シリーズ、『インセプション』(2010年)、そして往年の香港映画――さらにはアニメーションやゲームなどの引用もある。
とりわけ『ブレードランナー』(1982年)や『マトリックス』(1999年)、『ジョン・ウィック』シリーズへの目配せは、そもそもハリウッドがアジアの文化や映画を自在に解釈していたものが、先祖返りのように中華圏に戻った印象もある。しかも、こうしたオマージュや既視感がそれだけで終わらないのも憎いところで、終盤には思わぬ仕掛けによってすべてに意味が与えられるのだ。
騒がしさのスキマに見える「人間観」
監督のハン・イエンは、『人生って、素晴らしい/Viva La Vida』(2024年)などの「生命3部作」をはじめ、これまで難病や重病を扱ったシリアスな人間ドラマを手がけてきた人物。本作のような超高速のSFエンターテインメントは大きな作風の変化だ。
もっとも、今回のコンセプトを構想したきっかけは、過去の創作を通じて数々の人生や老い、死を目にしてきたことで、「重病を患った人々も、夢を見ることができれば人生はさほど苦痛ではないのではないか」と考えたこと。そうした人間に対するまなざしは、騒がしい映像のスキマにはっきりとうかがえる。
地球での生活に嫌気が差し、宇宙に希望を抱いた者。現実を憎み、夢に閉じこもることを願った人物。「悩みゼロ」を謳った本作ながら、現実から逃れるために「宇宙」と「夢」を選んだ人々の、選択の背景に横たわる孤独と悲しみがじわりとにじむ。

映画の英題は『Per Aspera Ad Astra』。ラテン語で「苦難を越えて星々へ」を意味する言葉であり、別の星を目指して長い航海を続ける人々を指すものだが――もちろん、そこにはまた別の意味が込められてもいる。
リッチな映像には並々ならぬエネルギーとこだわりが詰め込まれ、物語には独自の視点がきちんとある一作だ。残念ながら日本では劇場公開されなかったが、こうした最新型の中国発ブロックバスター映画を公開からさほど間をあけずに観られるのも配信時代の強み。なるべく大画面で、なるべく部屋を暗くして、めくるめく世界にダイブしてほしい。














