「もし『FF6』や『FF8』がリメイクされたら、4部作、5部作になる可能性もある」。スクウェア・エニックスの吉田直樹氏が7月25、26日にベルリンで開催された「FINAL FANTASY XIV FAN FESTIVAL 2026」のトークパネルでそう語った。共演した浜口直樹氏が「思い出のゲームは『FF6』」と答えるたび、メディアに「リメイク決定」と誤読される現状を明かしたのを受けての発言だ。
一見ファンサービス的な軽口だが、この発言は同社が抱える構造的な課題を浮き彫りにする。なぜファンが望む名作は等しくリメイクされないのか。答えは「作りたいか否か」ではなく、限られた開発資源をどこに配分するかという経営判断にある。
「10年がかりの奇跡」という前例
浜口氏が手がけた『FF7リメイク』三部作は、2020年の第1作から2026年の完結作『REVELATION』まで、企画段階を含めれば約10年を要した。同じ開発チームが解散せずに一つのプロジェクトへ10年単位で伴走し続けること自体が「奇跡」だったと浜口氏は振り返っている。この規模の投資とチーム編成を、FF6、FF8、FF9といった他の名作それぞれに割り当てることは、現実的に不可能に近い。
実際、スクウェア・エニックス・ホールディングスは2025年3月期から2027年3月期を「再起動の3年間」と位置づけ、「量から質」への転換を掲げている。2026年3月期の連結決算は売上高2976億6100万円、営業利益547億3600万円と、前期の2428億2400万円・275億4800万円から大幅増益を果たしたが、その裏でHDゲーム事業単体の収益性の低さやポートフォリオ管理の不十分さが課題視されてきた。今後3年間の戦略投資枠は最大1000億円で、「主要IPを中心に大型タイトルを安定投入する」という方針は、裏を返せば主要IP以外への投資を絞る意味でもある。
株主総会では「リメイクやシリーズ作品中心の展開で新規IPが減り、将来の開発人材育成に不安がある」との指摘も出ている。吉田氏の発言は、こうした経営上のジレンマ——ファンの期待に応えることと、限られた資源を新規IP創出や他の主要タイトルにも配分する必要性との間の綱引き——を、現場の言葉で代弁したものと読むこともできる。
「冷遇」ではなく「再配分」
『FF7』が3部作というリソースを割り当てられたのは、原作の商業的重要性やブランド力、既存の開発体制の有無など複数の条件が重なった結果だ。仮に『FF6』『FF8』を同水準で展開しようとすれば、主力タイトルの開発リソースを削るか、新規IP創出への投資をさらに絞るかの二択を迫られる。大作RPGの開発費が数百億円規模まで膨張し続ける中、この配分問題はスクウェア・エニックスに限らず各社共通の課題であり、ファンから見れば「なぜあの名作は後回しにされるのか」という不満につながりやすい。だが企業側の視点に立てば、それは冷遇ではなく限られた経営資源の合理的な再配分にすぎない。
実際、他社のリメイク展開ペースを見ると、各社が選ぶ「型」の違いが浮かび上がる。
カプコンは自社エンジンの使い回しによって1作あたりの追加投資を抑え、高頻度でリメイクを供給できる体制を築いた。任天堂は新作開発の谷間を埋める単発リメイクと位置づけ、周年施策や実写化といったメディアミックスに接続することで投資対効果を高めている。対照的に『FF7』は原作のボリューム自体が大きく単発では収まらないため、三部作という高コスト・長期間モデルを選ばざるを得なかった。同じ「名作リメイク」というカテゴリーでも、採用するモデルは原作の規模、既存エンジンの有無、シリーズ戦略によって大きく異なる。
吉田氏の「規模がハンパじゃない」という一言は、開発現場の実感にとどまらず、IPポートフォリオ経営における選択と集中の論理を言い当てている。次のリメイクの実現可否を決めるのは、開発陣の情熱の有無ではなく、企業がどのIPに次の10年を賭けるかという事業的な選択の結果にほかならない。














