スポーツ中継の現場では現在、超高速の分析から視聴者のあらゆる好みに合わせた放送に至るまで、さまざまな場面でAIが導入されるようになってきている。一部の実況アナウンサーは「ボット・コスタス」(AIで自動生成されたスポーツ実況・アナウンス。有名実況アナウンサーのボブ・コスタスに由来)に取って代わられるのではないかとの懸念も抱えている。米エンタメ誌「ザ・ハリウッド・リポーター(THR)」が伝えた。
こうした中、米国の伝説的なスポーツキャスターで、CBSのNFLおよびマスターズ中継の看板アナウンサーであるジム・ナンツは、約3年前に送られてきた動画に登場する、コンピューター生成された自身の姿について「まさに私の声そのもので、本当に驚かされた」コメント。現在、AI関連のプロジェクトに自身の声を貸すことを検討しており、詳細は明かしていないが、「いわば『墓の中からの契約』のようなもの」で、生涯にわたる提携以上のものになると示唆した。
ナンツは「このAIがどこへ向かうかは誰にも分からないが、誰かが使い続けたいと思う限り、特定の試合の実況を続ける可能性がある。実に驚くべきことだ」と話す一方で、こうした取り組みには「それが適切に行われる場合にのみ」同意するとしている。
ESPNは、パーソナライズされたスポーツニュース番組「SportsCenter for You」において、同局の実在するキャスターの声に似せて調整されたAI生成の音声を使用。NBCは、故ジム・フェイガンの家族と提携し、NBA中継の一部に彼のナレーションを再現した。
(文:坂本 泉)
榎本編集長「この米国の動きは、日本の放送界にも遠からず届く問いである。米国では、CBSの看板アナが声のAI提供を「墓の中からの契約」と語り、NBCは故人の名物アナの声を遺族公認で復活させ、ESPNは実在キャスター風のAI音声で個人向け番組を量産し始めた。翻って日本のスポーツ中継は、実況アナウンサーの個性が愛される文化が特に厚い。名調子は局の看板であり、名実況は競技の記憶と分かちがたく結びついてきた。だからこそ、その声がAIで再現可能になった時の議論は、米国以上に深いものになるだろう。故人の名実況の再現は追悼か、模造か。局アナの声の権利は誰のものか。フリーアナウンサーの声の資産価値はどう守るか。幸い、日本には声優業界を中心に、声の権利を巡る議論の蓄積が既にある。スポーツ実況の世界も、その知見と繋がりながら、無断利用の被害が起きる前にルールの設計へ動けるはずだ。名調子が百年残る時代の作法を、先回りして考えたい。」














