1998年公開の『劇場版ポケットモンスター ミュウツーの逆襲』が、約30年の時を経て再び劇場に帰ってくる。舞台はシネコンではなく、兵庫県神戸市の旧校舎「ふたば学舎」の講堂だ。8月11日、公開当時と同じ35mmフィルムでの上映会が開催される。

上映作品は『ミュウツーの逆襲』と同時上映の『ピカチュウのなつやすみ』。企画したのは映画イベント団体「CINEMA HIROMA」で、「学校で映画」プロジェクトの第2弾にあたる。2025年には同会場で『学校の怪談』公開30周年の35mmフィルム上映会を開催しており、今回はその延長線上にある。廃校を再利用したふたば学舎という会場自体が、映画館とは異なる公共空間ならではの体験を狙った選択だ。

デジタル移行で「希少化」したフィルム上映

背景には映画業界の環境変化がある。2010年代以降、国内の映画館ではデジタルシネマへの移行が急速に進み、35mm上映に対応する劇場は大きく減少した。結果としてフィルム上映自体が希少な文化体験となり、上映形式そのものに価値が見いだされるようになった。配信やBlu-rayでの視聴自体は容易だが、公開当時に近い上映環境を体験できる機会は限られる。今回の企画は、その希少性を前面に打ち出したものといえる。

この動きは『ポケットモンスター』に限らない。近年は映画を文化資産として再評価する動きが広がり、特集上映やフィルム上映、爆音上映、応援上映など、鑑賞環境そのものに新たな価値を付加するイベントが各地で開催されている。神保町シアターでの歴代短編特集のように、長寿IPを新たな文脈で再提示する取り組みも増えている。海外でも英国映画協会(BFI)などが、映画文化の保存活動としてオリジナルフィルム上映を継続している。デジタル配信が当たり前の時代だからこそ、「その場でしか味わえない体験」がコンテンツの競争力になりつつある。

「学校」という場所が呼び覚ます記憶

会場選びにも意味がある。学校は多くの人にとって子ども時代を象徴する場所であり、『ポケットモンスター』も1990年代後半から2000年代初頭を代表するコンテンツだ。講堂で映画を観るという体験は、作品の記憶と学校という空間の記憶を重ね合わせ、当時の夏休みの思い出を呼び起こす演出として機能する。

イベントにはIPの世代継承という側面もある。『ミュウツーの逆襲』を劇場で観た子どもたちは現在では親世代となり、その子どもたちもまた『ポケットモンスター』に親しんでいる。今回の上映会も、親子が同じ作品を共有する場をつくることで、IPの価値を次世代へ継承する役割を担う。

地域振興とIPビジネスの新モデル

地域活性化の観点からも注目される。地域施設をコンテンツIPの舞台にすることで、ファンが地域を訪れるきっかけが生まれる。古民家や歴史的建造物を会場とした上映会・文化イベントは全国的に増えており、IPと地域資源を組み合わせる手法は地域振興の新たなモデルとしても広がっている。

これまでコンテンツ市場では「新作を生み出すこと」が価値創出の中心だった。しかし市場が成熟し、配信によって作品へのアクセスが容易になった今、企業が競うのは作品そのものではなく、作品を媒介にどのような体験を設計できるかへと変化しつつある。レトロゲームの実機体験会やレコード鑑賞会など、アナログ体験の価値を見直す動きも、この潮流を裏付けている。

神戸で開催される今回の上映会は、単なる懐かしの映画イベントではない。希少な35mmフィルム、学校という公共空間、世代を超えて共有される長寿IPという3つの要素を組み合わせ、「作品を売る」のではなく「体験を売る」という現代のコンテンツビジネスを象徴する事例となっている。IPの価値を持続的に高めるには、新作を投入し続けるだけでなく、過去の作品に新たな文脈と体験価値を与え続けることが重要になる。