株式会社カプコンは、2026年5月1〜3日に東京ビッグサイトで開催された格闘ゲーム大会「EVO Japan 2026 presented by レバテック」にて、『ストリートファイター6(以下、スト6)』部門の登録者数が「単一タイトルの格闘ゲーム大会として世界最多の参加者数」に達し、ギネス世界記録™に認定されたと発表した。
今回の「EVO Japan 2026」は3日間の総来場者数が過去最多の約34,000人を記録し、世界71の国・地域から延べ9,717人がエントリーする空前の規模となった。その中核を担った『スト6』部門には、従来の最高記録(米国EVOの7,083人)を塗り替える7,168人が参加し、正式にギネス世界記録™に認定された。
2023年6月に発売された『スト6』は、2026年3月末時点で全世界累計販売本数600万本を突破している。今大会では「ZETA DIVISION」所属のヤマグチ選手が優勝を果たし、グローバルなeスポーツ・エコシステムにおける本作の存在感を国内外に改めて証明する形となった。
観戦型から「全員参加型」へ。メジャースポーツの構造を反転
今回のギネス世界記録™において最も注目したいのは、「7,168人」という数字が持つ熱量の質だ。テニスの全英オープンやサッカーのワールドカップなどは、一握りのエリート選手による「観戦型エンターテインメント」であり、観客の役割は消費に限定される。しかし、EVO Japanをはじめとする格闘ゲームのオープントーナメントは、プロとアマチュアが同じプールに集い、同じルールで拳を交える「参加型エンターテインメント」の究極系と言える。
この構造は、数万人規模で一般市民が同じスタートラインに立つ「市民マラソン」によく似ている。誰しもが「自分も世界記録を構成する1ピースになれる」という当事者意識(UGC的なエンゲージメント)を持てる仕組みだからこそ、これほどまでに巨大なコミュニティの駆動力が生まれたのだろう。
「モダン操作」というユーザー・エクスペリエンス(UX)の技術革新
格闘ゲーム産業は長年、複雑なコマンド入力を前提とした「高すぎる参入障壁」という構造的課題を抱えていた。これに対するカプコンの回答が、今作で導入された「モダン操作」だ。
ボタン一つで必殺技を発動できるこのシステムは、言ってみればマニュアル車しかなかった世界にオートマ車を投入したようなゲームチェンジであった。これにより、IP(知的財産)に名前だけは馴染みがあった休眠層や新規層の心理的ハードルを劇的に下げ、プラットフォームの垣根を越えた爆発的なユーザー拡大、ひいては今回のギネス記録へと直結させたのである。
製品ライフサイクルの「成熟期」における再定義
『ストリートファイター』は、1990年代の『ストII』ブームから35年以上の歴史を持つ老舗のレガシープロダクトだ。成熟期や衰退期を迎えるはずの長期IPが、なぜ令和の今、過去最大の全盛期を迎えることができたのか。ここには、日々のビジネスシーンにも応用できる重要なヒントが隠されている。
カプコンが実践したのは、単なる機能向上に留まらない、「コア体験のアクセシビリティ(親しみやすさ)の再設計」だ。古参ユーザーを満足させる奥深さを残しつつ、新規ユーザーの参入障壁をテクノロジーで鮮やかに解決してみせた。この「間口は広く、奥は深く」を徹底したUX戦略は、私たちがITツールやWebサービスを開発する際や、伝統的なモノづくり企業のDXを推進する上でも、ブレイクスルーの鍵になるに違いない。
インバウンドの可能性と「交流の場」への期待
世界71の国・地域からプレイヤーが集結したという事実は、日本のゲームコミュニティそのものが、言葉の壁を越えた強力なインバウンド資源になり得る可能性を物語っている。
また、今回のギネス記録を支えた膨大な参加者の中には、かつて少年時代に熱中したビジネスパーソン層の「復帰」も少なくないと指摘されている。共通のルールのもとでフラットに対戦できる格闘ゲームの特性を活かし、将来的にはゴルフやサウナのような、利害関係のない新たな異業種交流の場やサードプレイスとして機能していくかもしれない。eスポーツという枠組みを超え、新たなマーケティングプラットフォームとして格闘ゲームの経済圏がどこまで外側に拡張していくのか、今後の動向が注目される。














