マイクロソフトは7月24日、Xbox Insider Program参加者を対象に、「広告付きゲームストリーミング」の試験運用を開始した。対象ユーザーは、自身が所有する対応ゲームを広告付きで無料ストリーミングプレイでき、広告はゲーム開始前に表示される。ゲームプレイ中には広告を挿入せず、1回あたりのプレイ時間は1時間までという制限が設けられている。
Microsoftは今回の施策について、「より多くの人が、より手頃な価格でゲームを楽しめる環境を提供する」ことを目的に掲げている。広告についても、ゲームプレイを妨げないこと、広告であることを明確に表示すること、品質を担保することなど、ユーザー体験を重視する原則を示しており、広告をゲーム体験と両立させることを重視する姿勢だ。
「ゲーム版Netflix」と評されてきた戦略の次なる一手
今回の取り組みを理解するうえで欠かせないのが、MicrosoftがXbox事業で推進してきたサブスクリプション戦略である。
同社が手掛けるGame Passは、ゲーム業界の「Netflix」とも評されるサービスとして成長し、多数のゲームを定額料金で提供するビジネスモデルを普及させてきた。一方、ゲーム市場ではサブスクリプションサービスの競争が激化しており、各社は既存会員の維持だけでなく、新たな利用者層を取り込む施策も模索している。
そうしたなかで広告付きストリーミングは、「ゲームを購入する」「月額料金を支払って遊ぶ」という二つの選択肢に続く、新たなアクセス方法を提示する試みだ。広告を受け入れることで利用コストを抑えるという発想は、映像配信や音楽配信ではすでに一般化しており、ゲーム業界にも同様の流れが及び始めた可能性がある。
エンターテインメント業界で広がる広告モデル
この構造は、NetflixやSpotify、YouTubeなどが採用してきたビジネスモデルとも共通点が多い。
Netflixは広告付きプランを導入することで、価格を重視する利用者層を取り込み、広告事業を新たな収益源として育ててきた。Spotifyも無料プランを入口として利用者を集め、その一部を有料会員へ転換することで事業を拡大している。
もっとも、Xboxの取り組みは単純な追随ではない。NetflixやSpotifyが「広告付きの低価格プラン」を提供しているのに対し、Xboxは広告を見ることでクラウドゲーミングへアクセスできる環境を用意する点に特徴がある。広告収益を得るだけでなく、クラウドゲーミングを体験した利用者が将来的にGame Passへ加入する導線としても機能する可能性がある。
クラウドゲーミング最大の壁は収益性
今回の施策の背景には、クラウドゲーミング特有の事業構造もある。
クラウドゲーミングでは、ゲーム機やPCの代わりに事業者側が高性能GPUやサーバーを稼働させるため、利用者が増えるほど運営コストも増加する。Google Stadiaのサービス終了が示したように、クラウドゲーミング市場では利用者拡大と収益性を両立させることが長年の課題となってきた。
NVIDIAのGeForce NOWも無料プランにプレイ時間制限や待機列を設けることでコストを抑えている。Xboxの広告付きストリーミングも、「待機時間」ではなく「広告」を利用者側の負担として組み込んだ点こそ異なるものの、クラウドサービスの維持コストを新たな形で回収しようとする試みという点では共通している。
また、スマートフォンゲームでは広告を視聴することでゲーム内アイテムを獲得できる「リワード広告」が広く普及している。しかしXboxは、広告を見る対価としてゲームそのものへのアクセスを提供する点で一歩踏み込んだ。広告の価値がゲーム内報酬からゲーム体験そのものへ広がりつつあることを示す事例ともいえる。
ゲーム会社が競う相手はゲーム会社だけではない
今回の事例は限定的な取り組みではあるものの、その意味は広告付きクラウドの成否だけにとどまらない。ゲーム市場が「買い切り」「サブスクリプション」に続く第三の収益モデルを模索し始めたことを示す動きだからである。
さらに視野を広げれば、ゲーム会社が競争している相手は、もはやゲーム会社だけではない。NetflixやYouTube、Spotifyなどと同様に、ユーザーの可処分時間をどのように獲得し、広告価値へ転換するかという競争に足を踏み入れつつある。
映像配信や音楽配信が「広告付き無料モデル」、「低価格サブスクリプション」、「プレミアム課金」という多層的な収益モデルを確立してきたように、ゲーム業界も同様の方向へ進む可能性はある。Xboxの試みは、クラウドゲーミングの実証実験であると同時に、ゲーム産業がエンターテインメント市場全体の競争へ本格的に組み込まれていく転換点として注目すべき動きと言えるだろう。














