大人気ゲーム「モンスターストライク」やSNS「mixi」「家族アルバム みてね」、グループ会社によるプロスポーツチームの運営などを手がける株式会社MIXI(以下:ミクシィ)。モンストを成功させた実績が評価され、2018年6月に社長となった木村弘毅が尊敬し、旧知の仲でもあるのが株式会社ディー・エヌ・エー(以下:DeNA)の南場智子会長だ。

「Mobage」や横浜DeNAベイスターズ、ライブコミュニケーションアプリ「Pococha」のヒットに留まらず、「Pokémon Trading Card Game Pocket(通称:ポケポケ)」が2024年秋のローンチから世界累計1億5,000万以上のダウンロード(2026年4月1日時点) を記録したDeNA。両者は互いにコンテンツ・IT業界で切磋琢磨しながら、業界を牽引する立場だ。

本メディア「MEDIAMIXI」の立ち上げに際して、そんな両者の貴重な対談が実現した。2025年には共に「AI」の活用を大々的に発表したMIXIとDeNAは、コンテンツ×ITの未来にどのような視座を持っているのだろうか。

MIXIとDeNAの長い関係。お互いの印象は?

──MIXIとDeNAはどちらも渋谷に社屋を構えていて、お二人もプライベートでお食事に行かれるような仲なんですよね。

木村:MIXIが上場する時は南場さんに推薦もしてもらったんです。この間「ご飯行こう」と連絡をいただいて、行きましたね。

南場:木村さんと話せて楽しかったですよ。

──この「MEDIAMIXI」の立ち上げ自体がMIXIの新しいチャレンジかと思いますが、どういった経緯で立ち上げられたのでしょうか。

木村:率直に言うと、MIXIは発信力が弱いと思っていて。モンストのYouTubeのチャンネル登録者数は155万人いますし、それぞれのサービスは人気なんですけど、コーポレートとしてはまだまだ弱い。色んなことをしっかりと発信したいけれど、自社が主語では見ている方が面白くないのでそれは避けたい。だから「IT×エンタメ」の新しいメディアを立ち上げる形で、いろんな方に興味を持ってもらえる情報を発信しながら、言いたいことも伝えていく形をとりました。


木村弘毅(きむら こうき)
MIXI株式会社代表取締役社長。電気設備会社、携帯コンテンツ会社等を経て、2008年株式会社ミクシィ(現 株式会社MIXI)に入社。ゲーム事業部にて「サンシャイン牧場」など多くのコミュニケーションゲームの運用コンサルティングを担当。その後「モンスターストライク」プロジェクトを立ち上げ、2018年6月より代表取締役社長に就任。


南場:いいですね。MIXIさんは素晴らしいサービスをたくさん出しています。実際のところ、会社が知られても一銭も稼げないので、サービスをちゃんとやってらっしゃる上で、会社自体もちゃんと際立たせていきたいという試みは素晴らしいと思います。

MIXIさんはプロダクトづくりの達人だと思うんですよ。だから、ものづくりの哲学や、新しいプロダクトが生まれやすい組織作りについて発信していただきたいです。それにAIがコパイロット(※1)からオートパイロット(※2)の時代に変化してくると、AIで本当にいろんな作り物ができる時代じゃないですか。そんな今、コミュニケーションを大切にされているMIXIさんが「心もつながる」コンテンツをどのように作っていかれるのか、知りたいですね。

※1:AIを活用して人間の業務(操縦)をサポートする支援ツール・アシスタント。ユーザーがいることを前提に、質問やリクエストを理解して、応答したり、画像生成などができる。

※2:コパイロットに対して、人間の介入をほとんど、あるいは全く必要とせず、タスクを実行できる自律エージェントシステム。大幅な業務の効率化ができるツールとして、期待されている。

──お二人が初めて会ったのはいつですか?

南場:2019年かしら。MIXIが千葉ジェッツの経営権を取得して本格的にスポーツビジネスに参入される時に、笠原さん(MIXI創業者)とお話しに来てくださった時が初めてだよね。

木村:そうだと思います。

南場:笠原さんが連れてこられるだけあって、しっかりした方という印象でした。

木村:僕は南場さんにお会いして、言葉選ばずに言うと「チャキチャキの母ちゃん!」みたいな感じで意外でした(笑)。予想以上でしたね。


南場智子(なんば ともこ)
株式会社ディー・エヌ・エー代表取締役会長。1986年、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。1990年、ハーバード・ビジネス・スクールにてMBAを取得し、1996年、マッキンゼーでパートナー(役員)に就任。1999年に株式会社ディー・エヌ・エーを設立し、現在は代表取締役会長を務める。2015年より横浜DeNAベイスターズオーナー。著書に『不格好経営』。


──南場会長はご自身の著書『不格好経営』の中で、MIXIの当時の社長、笠原さんとのエピソードを書かれていますよね。会社同士とても長いお付き合いになるかと思いますが、印象の変化はありますか?

南場:MIXIさんは社長が変わっていっても、ずっとプロダクト作りにこだわって、それを一番楽しんでいらっしゃる会社だという印象は変わらないですね。

笠原さんとは何度も創業者同士会っているんですけど、彼はものづくりに没入するのと同時に、冷静に数字も捉えているんですよね。例えばFacebookとmixiがソーシャルビジネスの競合となっている時に、すごく淡々と都合の悪いファクトも直視してたんです。そういう冷静さを私は笠原さんから学びましたし、今のMIXIさんにもその要素があると思います。

木村:そうですね。本当にものづくりが好きな人ばかりが集まっているんです。笠原が僕を次の社長に決めてくれたのも、ものづくりで成果を出したことが大きいと思います。

一方で悩みもあって、社内はクリエイターが多いので、「みんなでこの新規ビジネスをやるぞ」と言っても、なかなか全員が同じ方向を向くってことがないんですよね。どちらかというと「みんなでこれをやらない?」と提案して、少しずつ調整していく社風なんです。

それぞれの社風。MIXIは「優しい」、DeNAは「貪欲」

南場:その優しさが、プロダクトにも出てるよね。優しいってすごい価値だと思うんですよ。

──その優しさは、具体的にどういうところに感じられていますか?

南場:「みてね」とかね。やっぱり優しさが滲み出てるよね。

※二児の父でもある笠原健治が発案し、2015年に誕生した家族アルバムアプリ。サービス開始から10年が経った2026年1月年時点で国内の子育て世帯の半数が使用しており、世界中で2,900万人が利用している。

木村:実際に「みてね」のチームは、全く毒気がないんですよ。善人しかいなくて。

南場:わかる。

──チームによって結構キャラクターは違いますか?

木村:全然違うかもしれないです。チームによっては、もっとコテコテにやってるところもあります。

南場:うちも「右向け右」ってことはないので、そこは一緒です。やっぱり社員は「組織が人を使う」より、「人が組織を使う」という考えを持ってますね。それぞれがオーナーシップを持っているので、頑固。ほんわかしているというよりは、貪欲です。

木村:鼻息荒い部分は羨ましいです。

南場:でも、チームの多様性って大事だよね。いろんなチームがあっていいんじゃないですか?

木村:そういう風に思えるようにします(笑)。

南場:こうじゃなきゃいけないってなると、窮屈になっちゃうよね。個性が力ですから、特にこの業界は。

AIに本格参入の両者が実感している「コスト削減」の良い影響

──MIXIはモンスト、DeNAはポケポケなど、ソーシャルゲームが事業の核となっている両社ですが、国内のスマホ所有率は2025年時点で98%に達していると言われています(※)。この状況を受けて、スマホゲームの市場は、今後どのようになっていくと考えられていますか。

※モバイル社会研究所調べ。15~79歳の男女を対象にしたアンケートで、携帯電話所有者のスマートフォン比率が2025年には98%となっていた。

木村:今までと同じ方法で作っている以上は、なかなか利用者は増えないと思ってます。動画のように受け身で楽しめるコンテンツが増えてきている中で、ゲームのようにインタラクションを求めるコンテンツは、多少面倒くさい。なので、例えばAIがナビゲートしてくれて難しい部分をやってくれるとか、やりやすくなるようなイノベーションがない限りは、簡単には伸びないんじゃないかな。

ただ新しいテクノロジーによって、変わる部分もあると思うんですよ。これまではエンジニアの取り合い、クリエイターの取り合いで、製造コストがうなぎ登りに上がっていました。だけどAIで開発速度が上がって、コストも下がってきているので、より新しいことにトライしやすくなると思うんですよね。開発費が大きいと、どうしてもどこかで見たことがあるようなものをコピーしたり、他社の実績があるゲームを参考に作るようになる。でもAIの登場によって、新しい遊び方も発明されてくると思うので、結構、未来は明るいんじゃないかと思っています。

南場:全く同感。完全に、私が思っていることを仰いました。

──新しいテクノロジーという点では、注目されているものはありますか。

木村:ゲームではないですけど、音楽生成系のSuno AI(※)はすごいですね。今までは高価な機材とか、作曲できる能力とか、お金や技能がないと音楽は作れなかったのを、民主化していると思う。

※Suno AI:AI音楽生成プラットフォーム。2023年のサービス開始以降急速に成長し、累計1億人超が利用して楽曲を制作している。

──ハードルはすごく下がっていますよね。

木村:音楽に限らず、ゲームのような他の領域のエンターテインメントも、もっと作り手側、楽しむ側双方にとってハードルを下げるようなテクノロジーが出てくると思います。

──それが木村さんがMIXIのサイトでも仰っていた「AIで”遊びの再発明”を加速させる」ということなんですね。DeNAが2025年2月に「AIオールイン」(※)戦略を発表されて1年ほどが経ちましたが、南場さんはこの1年でどのようなことを実感されていますか。

※2025年2月5日に開催されたAIイベント「DeNA×AI Day」で南場会長は、AIを活用した効率化により現業の人員を半分に減らし、残る半分を新規事業に充てるという目標を発表して大きな話題となった。

南場:「2025年はAIが能動的に動き始める、AIエージェントの年だ」と言ってたら、まさにその通りになりましたね。エージェント同士で売買したりするようになりますので、プロダクトの売り方も変わってくるし、買い方も変わってくると思うんですよ。

マルチモーダルの凄まじい進化も、ゲームには非常に影響がありますね。まさに面白みが広がっているところだと思います。あとはやはり、フィジカルAI(※)が始まることですね。

※カメラなどで現実を理解して自律的に作動するAI。

──マルチモーダルAIについて、詳しく教えてください。

南場:「マルチなモーダル」、つまり音声や会話、画像、動画などの情報を一気に処理するAIですね。その精度が上がっていますし、音声に関して言うと、日本語はまだまだですけど、英語は既にAIか人間か、判別が難しいと思います。業者さんからの電話も、人間かAIかわからないレベルで、本当にすごいですね。AIの実用化の範囲が、急速に広がると思います。

マルチモーダルAIは、瞬時のクリエイトができるんです。それは例えば、顧客個人の好みに一番フィットしたゲームの展開に、リアルタイムで変えられるということ。つまりカスタマイゼーションを極めることもできるし、それを自在にエンジニアリングできるんです。

AIが普及した未来。人気に拍車がかかるのは「スポーツ」

──コンテンツの表現の幅も広がっていきそうですね。MIXIはそういったAIの進化をどのように捉えていますか?

木村:我々はソーシャル、「家族や友達」はすごく重要なテーマだと思っているので、例えば大作映画や大作ゲームのような作品の登場人物を、ユーザーの友達だけで再構成して追体験できるとか、今まではできなかったカスタマイズ性を高めるというのは面白いテーマだと思っています。どうすればより親近感が湧くものに転換できるか、ということですね。

やっぱり AI が発達したとしても、誰とも会わずに一生を過ごすのは難しいことだと思うんです。だからコミュニケーションは追求し続けなくてはいけない。色々なテクノロジーが進化しても、MIXIが「コミュニケーションの価値を追い続ける」ということは変わらないと思っています。

その一方で、AI が自然に喋れるようになった時に、人間が依存していくような世界は存在すると思うんですよね。

──話し相手としてのAIへの依存は既に議題となっています。

木村:AIは自分の望むことを言ってくれるから、厳しいことを言う人間よりも、AIに惹かれるのは当然だと思うんです。それでAIに人間が依存する未来はあるとは思うんですけど、一旦そういうことが起こった後で、揺り戻しは来ると思います。なので、人間同士のコミュニケーションを追求していきたい気持ちは変わらないです。

南場:私もそう思います。人間が感動したり、心を動かされたりするのは、人間の営みによるところが一番大きいと思うんですよね。

多くの人間は、機械に感情を揺さぶられることに対して抵抗感があります。SNSで動物の動画を見ていても「これは作られた動物かも」と思うと興味を失います。本物に対する渇きは、逆にどんどん強くなっていくと思うんですよね。そう考えると、スポーツですよ、最後は。

──MIXIは千葉ジェッツやFC東京、DeNAは横浜DeNAベイスターズと、両社ともリアルエンタメの領域、特にスポーツを大切にされている理由が改めて腑に落ちました。

木村:スポーツは今後、さらに価値が上がってきますよね。

南場:もちろんですよ!だってSNSの「作り物かもしれない感」で騒いだ心に比べて、私のベイスターズ愛もブレイブサンダース愛も、微動だにせずですから。

木村:そうですよね。本当にリアルなものの価値は逆に上がっていくと思ってるんですよ。作られたものではない美しさに心惹かれる気持ちが、正直な人間の性だと思います。

南場:作り物でも、創作者のクリエイティビティに対するリスペクトを昔は持っていました。今はAIの進化もあり、それも以前より少し目立たなくなっています。一方で、スポーツは正真正銘、作り物じゃないんです。シナリオなきドラマが展開されて、両方が死ぬほど勝ちたいと思っても、片方しか勝てない。そこにはドラマが生まれます。だから素晴らしい。スポーツチームを持っているって、私たちは非常に恵まれていますね。

木村:そう思います。

IT×エンタメの未来。日本のコンテンツが世界で稼ぐために

──国内のコンテンツ産業の海外売上は、2023年に約5.8兆円と自動車産業に次ぐ基幹産業と位置付けられました。「モンスト」や「ポケポケ」それぞれ海外でも大成功を収めていますが、様々な新しいビジネスモデルも生まれている中で、これから日本のコンテンツを世界に届けていくために、どうすれば良いのでしょうか。

木村:実際、海外のどこに行っても、日本のコンテンツのファンの方に会うんですよね。これだけインターネットが発達したことで、日本のコンテンツに触れている方が一層増えている。日本のコンテンツ自体の影響力がそもそもすごく大きいことを感じています。

あとはそれをしっかりとマネタイゼーションして、成長を高めていく装置があれば、それだけで日本のコンテンツは伸びると思います。

──経済産業省が2025年6月に出している「エンタメ・クリエイティブ産業戦略」には、海外のバリューチェーンやファン層自体が、「海外展開プラットフォーム」として機能していくということが提示されています。

木村:モンストがそういったプラットフォームとして機能していくと考えています。モンストのグローバル版「STRIKE WORLD」は、インドで2月にソフトローンチしました。モンストを通して、日本のコンテンツに接触する方を増やしていけたらと考えています。

南場:日本はIP創出の力もそうですけど、オリジネーションの力が強いと思うんですよね。それは他国がそんなに簡単に追いつけない文化の蓄積によるものです。だからそこはすごく自信を持っていいと思う。世界中のトップIPは、ほとんど日本のIPなんですよ。

一方で、稼ぐ仕組みは海外のものに依存していますね。それはもったいないし、今後、ものづくりの途中経過がさらにDX化されていく中で、相対的にオリジネーションのバリューは高まるんだから、その分作家さんやクリエイターに、しっかりとリターンがあるような仕組みを作っていくべきだと思います。