もしも現代の韓国に王室が存続していたら――。財閥令嬢と王子の架空結婚を描いた、IU&ビョン・ウソク主演のロマンティック・コメディドラマ「21世紀の大君夫人」が絶大な人気を博している。
本作は4月10日にディズニープラスで配信が始まるや、日本を含む全世界のディズニープラスにおいて、わずか5日間で「歴代最も視聴された韓国ドラマ」の記録を樹立。5月16日配信の最終話(第12話)まで、さらなる人気を獲得するとみられている話題作だ。
Netflix発の「イカゲーム」(2021年~2025年)や『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』(2025年)が社会現象的な人気を見せるなか、ディズニープラスもまた、韓国ドラマで確かな実績を築いている。ストリーミング戦国時代を牽引する2つのサービスは今、韓国をはじめとするアジアの作品群をどのように送り出しているのか――今回は個別の作品ではなく、配信業界の現在を覗き込んでみたい。
ディズニーとNetflix、アジア作品戦略の現在
かねてディズニーは、APAC(アジア太平洋)作品を「コンテンツ戦略の中心」であり、同時に「ディズニープラスにおいて重要な存在」と公言してきた。「ムービング」(2023年)や「殺し屋たちの店」(2024年)、「北極星」(2025年)、そして「21世紀の大君夫人」の好成績は、こうした方針が確かな成果をあげていることを示すものだ。
「イカゲーム」でグローバル市場における韓国ドラマのポテンシャルを実感したNetflixも、同じく単発のヒットを狙うのではなく、いまや韓国作品の巨大なライブラリを構築しつつある。
2026年の韓国作品は30本以上。ドラマシリーズは「恋の通訳、できますか?」やBLACKPINKジス主演の「マンスリー彼氏」、学園ホラー「キリゴ」、日本から永山瑛太も出演するスリラー「ROAD (WT)」などが並び、映画には巨匠監督イ・チャンドンの最新作も控える。
さらに、日本でも話題のドラマ「誰だって無価値な自分と闘っている」をはじめとする、本国ではテレビ放送を軸とする作品も配信ラインナップに取り込み、ジャンルや作風、流通経路さえ異なる作品群を次々に投入しているのだ。
Netflixは2025年7月、韓国コンテンツ視聴者の61%が、「韓国への認識が向上した」と回答したという調査結果を発表した。いまやストリーミングの韓国コンテンツはただのエンターテインメントではなく、文化のひとつであり、サービスのブランド価値を高める装置になっているといっていい。
Netflixが送り出すタイ・台湾コンテンツ
ディズニープラスが韓国作品を看板として育てるなか、先達であるNetflixは、タイや台湾を含むアジア市場にさらなる果実を求めているように見える。
タイは優れた実績を持つ供給源であり、発表によると、すでに33本のタイ作品がグローバルのトップ10にランクインした。うち17本がNetflixオリジナルで、その代表例がサスペンスドラマ「マスター・オブ・ザ・ハウス」(2024年)。タイ作品として、史上初めて非英語シリーズの世界No.1に輝いた。
学園スリラー「転校生ナノ」(2018年~2021年)も、タイでのテレビ放送を経てNetflixで爆発的ヒットとなった作品。ひとりの転校生が、学園に隠された残酷な秘密や嘘、欲望を暴いてゆくダークなストーリーで、シーズン2はNetflixオリジナルとして配信された。
2026年春には、シリーズの”新章”となる「転校生ナノ:リセット」もリリース。キャストやストーリーを一新した本作では、Netflixが引き続きグローバル配信を担当。タイ発の人気IPを再起動し、継続的に発展させようと試みた一例だ。
ちなみに『転校生ナノ』は日本版リメイクも配信中だが、こちらはNetflixではなく、FODで4月24日より独占配信されている。
かたや台湾も、ユニークなドラマをNetflixに送り込み続けている。人気ゲームのドラマ版「返校」(2020年)や、総統選挙を描く「WAVE MAKERS~選挙の人々~」(2023年)といった台湾社会を正面から描いた作品のほか、「もしも太陽を見なかったなら」(2025年)、「殺人予言配信」(2026年)、「忘れても、憶えてる」(2025年)などの大人向け作品が相次いでリリースされた。
そんななかでの異色作が、ファンタジー・アクション大作「乩身:天界の使者」だ。2026年春に配信された本作では、映画『あの頃、君を追いかけた』(2011年)や『赤い糸 輪廻のひみつ』(2023年)で知られるクー・チェンドン演じる主人公ハン・ジエが、神の使いとして霊や魔物と戦う。
コロナ禍以前から準備や撮影が進められ、膨大な時間と予算を投じられた本作は、台湾の人気小説が原作。VFXを駆使したド派手なスペクタクルが見どころだが、作品の根幹を現地の信仰や価値観が支えているところがポイント。”そこでしか生まれない”ローカルな魅力は台湾作品の強みであり、Netflixが大切にする「ローカルな物語をグローバルに」という戦略との親和性が高い。
アジア作品を主力商品に
最近、Netflixやディズニープラスのホーム画面を開いたとき、韓国やタイ、台湾から届けられた作品が以前よりも視界に入るようになったと感じる方も少なくないのではないか。これは確かにアルゴリズムの働きも大きいが、各サービスがどんな作品を積極的に送り出そうとしているかという方針と傾向が反映されたものでもある。
「21世紀の大君夫人」を春の看板作品として展開しているディズニープラスは、早くも次の話題作「ゴールドランド」の配信を4月29日よりスタートした。田舎生まれの空港職員が、密輸組織の金塊を偶然にも手に入れてしまう犯罪スリラーで、「恋するムービー」(2025年)のパク・ボヨンが新境地を開拓する。
かたやロマンティック・コメディ、かたやスリリングな犯罪劇と、まったく異なる韓国ドラマを並走させるスタイルは、多様かつクオリティの高い作品を継続的に供給、かつ週次配信も組み合わせながら、ユーザーを繰り返しプラットフォームへ誘導することが目的だ。各社がリアリティショーやライブ、スポーツといった非映画・ドラマ作品に注力し、ユーザーの接触機会を拡大しようとする動きにも重なっている。
韓国や台湾、タイなどのアジア作品は、いまや各地を紹介するだけでなく、グローバル市場での役目をそれぞれに与えられ、各プラットフォームで重要な立ち位置を担うようになった。すべてを視聴することは到底不可能なボリュームだが、その随所に多面的な世界の”今”があらわれる――それは従来の劇場公開やテレビ放送には実現しえなかった規模の、ストリーミング時代ならではの美点にちがいない。














