いったい、何が私たちを怒らせるのか?
2023年配信のNetflixシリーズ「BEEF/ビーフ」は、赤の他人である男女2人が、あおり運転をきっかけに激しい対立と報復合戦に突入するストーリーで、世界的に大きな話題を巻き起こしたエミー賞8冠のヒット作。待望のシーズン2では、世代や階級を超えたカップル3組が激しく衝突し、”怒れる時代”のメカニズムを解き明かしていく――。
階級と世代を超えた「衝突」
4月16日より配信の始まった「BEEF/ビーフ」シーズン2は、シーズン1から物語と登場人物を一新。完全に独立した作品となっているので、事前にシリーズを復習しておく必要はない。
舞台は南カリフォルニアのカントリークラブ。若い従業員同士のカップルであるアシュリーとオースティンは、総支配人のジョシュが職場に忘れていった財布を届けるため自宅を訪れ、ジョシュと妻リンジーが暴力すれすれの大喧嘩をしている姿を目撃する。アシュリーはとっさに喧嘩の様子をスマートフォンで撮影し、その場を逃げ出した。

その後、アシュリーは卵巣のねじれによる激痛に襲われ、手術の必要に迫られる。正社員ながら健康保険にも入っていないアシュリーは、喧嘩の映像を盾として、ジョシュとリンジーに待遇改善を求めた。また、恋人とのすれ違いを心配しているアシュリーは、なんとかオースティンもクラブの正社員になれないかと考える。
もっともそのころ、カントリークラブ自体に大きな転機が訪れていた。新たなオーナーとなったのは、政界にも強力なパイプを持つ韓国の大富豪パク会長。夫の外科医キムの不祥事が勃発するなか、オーナーと総支配人、そして従業員という3組のカップルが、想像を絶する争いに突入してゆく。

格差と搾取の連鎖
「BEEF/ビーフ」シーズン1は、見知らぬ人々同士の怒りが爆発し、お互いを罵り合い、攻撃し合う姿をコミカルかつ破壊的に描いた。しかし今回のシーズン2は、表面的には親密であるはずのカップル3組の物語。しかも、一同が対面するのは職場だから、”攻撃”もただ直接的なものにはならない。遠回しだったり陰湿だったり、時には自分が攻撃されていることさえ気づかないのだ。
クリエイターのイ・ソンジンは、シーズン1に続いて自らの実体験からストーリーを構想。高級カントリークラブを訪れた際、会員たちがベビーブーマー世代で、従業員がミレニアル~Z世代だったことに驚かされたという。しかし、いまや若い従業員がどれだけ働いても、将来的に会員になれることはおそらくない――世代格差と経済格差がともに横たわる、まさに現代社会の縮図だ。

成功者のライフスタイルを間近に見ながら、若いカップルは生活に困窮し、静かに怒りの炎を燃やす。ところが、彼らの目には「不当に利益を得ている」ように見える総支配人夫婦もまた、より上位の富裕層と付き合うため財産と心身をすり減らし、同時に、新オーナーからあっけなく契約を切られるリスクに怯えている。
資本主義と愛と欲望
シーズン2が主に焦点を当てるのは、取り返しのつかないほど溝が深くなった階級社会と、そのなかで駆動する人々の欲望だ。それらを支えるものは、まぎれもない”資本主義”であり、すなわちそれが怒りの源でもある。
たとえば総支配人のジョシュは、日々がむしゃらに働き、成功者と付き合い、しかし本人は金欠のため横領に手を染めている。妻のリンジーは今の生活に満足しておらず、自分の年齢や容貌にも苛立ちながら、複数の男性と連絡を取り合う。しょっちゅう不満を爆発させるが、夫には取り合う体力も気力もない。

韓国系アメリカ人のオースティンは、アメフト選手時代の栄光をいまだ忘れられず、将来に悩んでいる。恋人のアシュリーは正社員として忙しく働くようになる一方、オースティンとの間に子どもを望んでいる。しかし、病の治療費や体外受精のコストはかさむばかりだ。
彼らが象徴するのは、普通の生活が苦しくなり、夢を持つことさえ難しくなった時代だ。何をするにもお金がかかる――にもかかわらず、人々はよりよい生活、よりよい未来を追い求めるようにと言い聞かされている。SNSを開けば大量の情報が流れ込み、テクノロジーによって人間関係や愛情さえ制御されている。

もっとも、「この日常がいつまで続くかわからない」という不安は、まだ安定した生活を維持できている人々のものだ。より不安定な生活を強いられる人々は、「どうすれば人生がマシになるのかわからない」のである。
それでも、誰もが良い人生を送りたい。願いを叶えたい、誰かに認められたい、そして愛し愛されたい。けれども、資本主義の強固なシステムが目の前にある生活や愛情関係を圧迫する。時には愛情があるゆえに、生活や仕事の問題から目をそらせず、感情がむき出しになってしまうこともある。
そんななかで、私たちはどうすれば素直になれるのか。怒りのままに振り上げた拳を下ろすことができるのか。

現代社会の複雑さを笑う
全8話というドラマシリーズの利点は、こうした資本主義社会の問題や、こじれてしまった人間関係、あるいはメンタルヘルスの問題にとどまらず、世代間で異なる価値観、自身のルーツに基づくアイデンティティ、崩壊した医療制度、そしてアメリカと韓国の経済的関係といったテーマを重層的に織り込めるところだ。
本作はそうした複雑な社会のありようをそのまま提示しつつ、純然たるダーク・コメディでもある。さまざまなテーマが結合と分離を繰り返しながら、意表を突く展開へとなだれこむ作劇はもちろん、毒のあるユーモアや、切れ味するどい演出と編集も見どころ。マーベル映画にも起用されたジェイク・シュライアー監督の傑出した手腕も健在だ。

出演はオスカー・アイザック&キャリー・マリガンのほか、新鋭チャールズ・メルトン&ケイリー・スピーニー、そして韓国映画界の名優ユン・ヨジョン&ソン・ガンホという豪華キャスト。音楽はビリー・アイリッシュの兄としても知られるフィニアス・オコネルが手がけ、本人もカメオ出演している。
絶賛を浴びたシーズン1とは異なり、今回はやや賛否が分かれているが、だからこそ観る者はそれぞれの視点を持ち込むことができる。どの人物に共感し、どの人物に怒りを覚えるかによって、自身の価値観や生き方がそのまま映し出されることだろう。映画スターとインディペンデントな作家性の融合、アメリカとアジアを股にかけたクリエイティブも含め、じっくりと堪能してほしい。














