Billboard JAPANが運営する書籍の総合チャート「Billboard JAPAN Book Charts」。本チャートは紙書籍と電子書籍、サブスクリプション、図書館での貸し出しなどを合算した総合ブックチャートだ。総合チャートに加えて文芸や漫画などのジャンル別チャート、発売年別のチャートなど全8種類のチャートが存在。月曜日から日曜日までの各種データをもとに生成されたチャートが翌週木曜日に毎週公開される。この記事では、4月23日に発表された文芸部門のチャートを解説し、その中から2冊をピックアップして紹介する。
10月映画公開の『汝、星のごとく』が2位に浮上
今回は4月13日から4月19日までのデータを元に解説する。先週に引き続き、本屋大賞を受賞した朝井リョウの『イン・ザ・メガチャーチ』が1位という結果に。本作は漫画等も含めた全体のランキングでも1位に輝いた。全体ランキングでは漫画が上位にランクインすることが多く、今回も2位〜5位まですべて漫画となっている。
ここで注目したいのは2位の『汝、星のごとく』(凪良ゆう著)だ。本作は今まで25回チャートインしており、根強い人気があるが、今週は前回の9位から大きくランクアップ。10月には横浜流星と広瀬すずで映画化されることが決定しており、4月13日にティザービジュアルと予告映像が解禁となった。このティザービジュアルは、横浜と広瀬が至近距離で見つめ合い、笑顔を浮かべている美しいカット。中央には「この恋は、あまりに苦しい。」という文言があり、幸せそうなカットと裏腹に切ない文章となっている。
このティザービジュアルが公開されると、SNSでも話題になり、作品への期待の声が寄せられた。原作者の凪良氏も「なんて一枚だ。素晴らしすぎて言葉が出ない」と自身のSNSでコメントしている。10月の公開に向けて、そして公開後、原作にもさらに注目が集まることが予想される。
また、今回は先週ランク外だった辻村深月の『傲慢と善良』、塩田武士の『存在のすべてを』、阿部暁子の『カフネ』がランクイン。『存在のすべてを』は4月7日に文庫化され、2027年に西島秀俊と広瀬すずで映画化が決定している。
約10年前の作品が長期間ランクイン 村田沙耶香『コンビニ人間』
さて、今回は7位の『コンビニ人間』(村田沙耶香著)、10位の『BUTTER』(柚木麻子著)に注目したい。両作とも発売したのはかなり前だが、長い間注目されている作品だ。
『コンビニ人間』が発売されたのは、今から約10年前の2016年。本作は第155回芥川賞を受賞し、世界累計300万部を突破している。主人公は36歳未婚、彼氏なし、コンビニバイト歴18年目の古倉恵子。彼女は「普通」の感覚がわからず、同じコンビニで働く人など、身近にいる誰かのことを少しずつ真似しながら生きている。
彼女のことは「生きづらさを感じている人」というような単純な言葉では語れない。もちろん彼女は世間の物差しで計られることや自分のことを想像されることで多少の窮屈さは感じているとは思うが、「いろんなことがどうでもいい」という言葉からもあるように、特に大きなことと捉えている感覚もない。「自分」というものがないため、誰かを模倣して生きている様子は、村田氏の2025年の小説『世界99』を彷彿とさせる。『世界99』の主人公も性格のない人間で、コミュニティごとにふさわしい人格を作りあげることが特技だった。
内容自体はなかなか衝撃的なものだが、文章全体はどこか淡々とした印象で書かれている。恵子の一人称で進むため、恵子が淡々と、機能的に生きているのだということがわかる。本作には「今の『私』を形成しているのはほとんど私のそばにいる人たちだ」という言葉がある。人間は多かれ少なかれ近くにいる人からの影響を受けるものだと思うが、本作で描かれるのは「あなたと出会えたから私は変われた」というような温かい変化ではない。生きていくための非常に機能的な変化だ。
村田氏の作品は、時にゾッとするような場面があるが、その中に軽やかさとユーモアがある。最後に恵子がした選択も、どこか清々しい。読み終わった後は、そもそも「普通」や「常識」とはなんなのか、わからなくなる。自分の生きている世界が少し歪んでいくような感覚にも陥る。恵子は、多くの人にとって共感しにくいキャラクターかもしれない。しかし、「わからない」という感情に出会えるからこそ、物語はおもしろく、私たちの想像力を豊かにしてくれる。
「食」と「人間」の描写があまりにも濃厚 柚木麻子『BUTTER』
『BUTTER』は2017年に発売された長編小説。本作は世界累計150万部を突破する世界的ベストセラーとなっている。主人公は週刊誌記者の町田里佳。男たちの財産を奪い、殺害した容疑で逮捕された梶井真奈子との面会を取り付ける。里佳は梶井との面会を続けるうちに、内面も外見も徐々に変貌していく。
最初は梶井の言葉でぐらぐら揺らいでいく里佳のことが心配になりつつ、読者の自分たちでさえも梶井の言葉に飲まれていくような感覚がある。梶井は、決して若くも美しくもない容姿をしており、世間から容姿のことを揶揄されていたが、自分の欲望に忠実に生きていた。
里佳は、自分の抱えているトラウマのこともあり、そんな梶井の言動に振り回されていき、周りからも「変わった」と言われるようになる。後半では、里佳の親友や周りにいる人物の影響も受けて、里佳は次第に「自分の味」を見つけていく。特に里佳と親友が梶井の家族や梶井の通っていた料理教室に近づき、梶井の過去や心情に近づいていく展開は、ハラハラしてページを捲る手が止まらなくなる。強烈で何を考えているかわからない梶井のことを、私たちもどんどん知りたくなるのだ。
そして本作の魅力を語る上で外せないのは「食」の描写だ。梶井が里佳に教える料理はとても魅力的で、本書を読んでいる間はずっと「食」に取り憑かれているようだった。ごくり、と喉が鳴ってしまいそうな描写に脳が痺れるような感覚になった。物語に何度も登場するこの「食」の描写こそが、梶井の「欲への忠実さ」がよくわかる場面である。
また、ルッキズムについて描いている点にも注目したい。細身だった里佳は、梶井と話すようになってからよく食べるようになり、体重を増やしていく。里佳の身長からすると適正体重であるはずなのに、周りからの目が驚くほど変わるのだ。本作の発売から約9年経った今でも、ルッキズムの呪いのようなものは、いまだに世間から消えていないように感じる。そのことに改めて気づき、胸の中にモヤモヤしたものが広がった。
事件を追っていくというあらすじから、ミステリーのように思えるかもしれないが、本作は人生と友情を描いた作品だと感じる。読み終えてみると、フルコースを食べた後のような満腹感が押し寄せる。食の描写も人間の描写もあまりにも濃密な本作。この本のタイトルはまさしく「BUTTER」しかないだろう、と思えるような濃厚な読書体験が出来る。














