Billboard JAPANが運営する書籍の総合チャート「Billboard JAPAN Book Charts」。本チャートは紙書籍と電子書籍、サブスクリプション、図書館での貸し出しなどを合算した総合ブックチャートだ。総合チャートに加えて文芸や漫画などのジャンル別チャート、発売年別のチャートなど全8種類のチャートが存在。月曜日から日曜日までの各種データをもとに生成されたチャートが翌週木曜日に毎週公開される。この記事では、4月9日に発表された文芸部門のチャートを解説。また、同じく4月9日に発表された本屋大賞にも触れていく。
本屋大賞受賞の『イン・ザ・メガチャーチ』に注目 現代を切り取ったような作品
今回は3月30日から4月5日までのデータを元に解説する。1位は先週の3位からランクアップし、1位に返り咲いた朝井リョウの『イン・ザ・メガチャーチ』。本作は「ファンダム経済を仕掛ける人の視点」「のめり込む人の視点」「かつてのめり込んでいた人の視点」の3視点で展開する物語。これまでに23回チャートインを果たしており、長い間注目されている作品だ。
4月9日に発表された本屋大賞では、大賞を獲得。朝井氏はこれまで、2022年に『正欲』、2025年に『生殖記』、そして2026年に『イン・ザ・メガチャーチ』と、計3回ノミネートされ、3度目の本作が大賞を受賞した。本屋大賞とは、全国の書店員が最も売りたい本を決める賞で、書店員の投票だけで選ばれることが特徴。本作にはMBTIが登場したり、オーディション番組の話題が登場したりと、まさに現代を切り取ったような作品でもある。
本屋大賞でのスピーチで朝井氏は、これまでにノミネートされた3作品には「生きる推進力」という共通のテーマがあると告白。朝井氏は「生と死が隣同士に並んでいたとして、生の方を選び取る理由やきっかけを探りたくて書いた3作」と語った。書き手の生の言葉は強い。スピーチを聞くと、朝井氏がどんな思いで小説に向き合っているかを感じることができ、他の2作品も改めて読み返したくなる。スピーチは本屋大賞の公式YouTubeで視聴することが出来る。
本屋大賞2位に選ばれた佐藤正午の『熟柿』は、本チャートでは18位にランクイン。本屋大賞3位の『PRIZEープライズー』(村山由佳著)、4位の『エピクロスの処方箋』(夏川草介著)は今週はランクインすることはなかったが、今後のランキングに浮上することが予想される。
実写映画が大ヒット中の『プロジェクト・ヘイル・メアリー』(アンディ・ウィアー著/小野田和子訳)は依然として強く、上巻が2位、下巻が6位に登場。夕木春央のミステリー小説『方舟』は、4週連続でベスト5にランクインした。『方舟』は2022年に発売された作品だが、根強い人気を誇っており、SNSでも度々注目を集めている。夕木氏は2023年に『十戒』を発売し、そして今年7月には新作『楽園』を発売。新作発売前に、過去作にも再び注目が集まるのではないだろうか。
本屋大賞2位『熟柿』 読了後、タイトルの意味が胸に響く物語
今回は本屋大賞2位の『熟柿』に注目したい。本作は『月の満ち欠け』で直木賞を受賞した佐藤氏が、9年もの歳月を費やして書き上げた長編小説。激しい雨の降る夜、眠る夫を乗せた車で老婆を撥ねたかおりは轢き逃げの罪に問われ、服役中に息子・拓を出産する。その後、ある事件を起こした彼女は、息子との接見を禁じられ、追われるように西へ西へと各地を流れてゆく。
主人公・かおりの一人称で語られる本作は、諦めと後悔と願望がどのページからも滲み出ている。まるで彼女の声が聞こえてくるようで、耳元で彼女がぽつりぽつりと話しているような感覚になった。ずっとしとしと雨が降る音が聞こえるような感覚だ。
「あのときこうしていれば」という後悔は、多かれ少なかれ生きている誰もが持つものだ。彼女が抱えた後悔は想像しようがないほどのものだけれど、彼女の人生の何年かをこの物語で一緒に過ごして、人ひとりの「人生」を改めて深く考える。本作はかおりの人生に沿って進んでいくが、他の登場人物もそれぞれの人生を生きている。そんな当たり前のことを、特に後半でじっくりと噛み締めてしまった。
読了後、改めてタイトルの『熟柿』に立ち戻ると、その言葉の意味が胸に強く響く。心にずんと響くテーマの作品ではあるが、そのぶん長い間心に残り、何度も考えてしまう物語だ。














