アース製薬は2026年6月4日、害虫駆除スプレーのプロモーションとして、ブラウザ上で無料プレイできる恋愛シミュレーションゲーム『ごきげんラブリーデイズ』(ごきラブ)を公開した。

本作は「ゴキブリ」を攻略対象キャラクターに据えるという異色の設定を採用。4人の攻略対象すべてのキャラクターボイスに声優・梶裕貴氏を起用するという大胆なキャスティングで話題を集めた。

起動時には「ショックの強い表現が含まれています」という不穏な警告が表示されるなど、SNSでの拡散を明確に意図した仕掛けも施されており、公開初日から「CV:梶裕貴」「アース製薬」といった関連ワードで初期認知を得ることに成功した。

ゴキブリを「攻略対象」にした恋愛ゲームがアドバゲームの常識を塗り替える

本施策の核心は、「タブーの逆利用」にある。従来の衛生用品マーケティングでは、ゴキブリのような害虫はユーザーに不快感を与えないよう、シルエットや抽象化された表現で処理するのが常識だった。

しかし本作はそのタブーを真逆に転換し、最も対極に位置する「乙女ゲーム」という文脈に強引に融合させた。この「認知の不協和」こそが、現代のSNS社会において最も強力なシェアの動機となる。

ユーザーは「公式が暴走している」という文脈を楽しみ、自らがメディアとなってスクリーンショットやプレイ実況を拡散する。広告を「見せられるもの」から「参加して他者に伝えたくなるゲーム」へと昇華させた構造は、認知獲得のコストパフォーマンスとして極めて合理的な戦略といえる。

さらに、本作を単なる悪ふざけから「一流のエンターテインメント」へと引き上げたのが、梶裕貴氏の起用という投資判断だ。

ゲームシステム自体はシンプルなブラウザ型ノベルゲームでありながら、ユーザーの耳に直接届く「声」という要素に最高水準のクオリティを投じることで、「公式が狂気的な企画に全力投資している」というプレミアム感が生まれる。一流の声優が全力で演じることで作品としての説得力が増し、声優ファンという強固なコミュニティを確実に巻き込むエコシステムが形成された。

機能的価値だけで差別化が難しい市場において、製品スペックを正面から訴えるだけの広告はノイズとしてスキップされる。必要なのは、製品のメッセージを「ユーザーが楽しめるエンタメの文脈」へと翻訳することだ。

真面目な製品だからこそ、プロモーションは思い切ってエンタメに振り切る。ただし、体験のクオリティには妥協しない。本作は夏の害虫シーズン到来を前に、「ゴキブリ対策=アース製薬」という認知を、嫌悪感ではなくポジティブな感情とともに植え付けることに成功し、アドバゲーム(広告を盛り込んだゲーム)の歴史に新たな一ページを刻んだといえる。