ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)は、PlayStation®5向けの新世代ワイヤレスファイトスティック『FlexStrike』を発表した。市場の潮流が「レバーレスコントローラー」(レバーレス)へと傾斜する中、SIEあえて王道のレバー型アケコンを再定義した背景には、未開拓のライト層を巻き込むエコシステム拡大と、次世代の対戦環境を見据えたインフラ構築という大局観が存在している。

近年の格闘ゲーム市場、特に『ストリートファイター6』の大ヒット以降、ゲームコミュニティの勢力図は激変している。従来のアケコン(アーケードスティック)に代わり、Razerの「Kitsune」やVictrixの「Pro FS-12」といった大手メーカーの公式ライセンス品、さらには1万〜2万円台の低価格・薄型・多ボタン(16ボタン等)構成のレバーレスが台頭している。キーボードやスマートフォンでの操作に慣れ親しんだ若年層を中心に、物理的な入力速度と正確性、そして携帯性と静音性の面から圧倒的な支持を集めている現状だ。

このような「レバーレス一辺倒」とも言える市場トレンドに対し、ソニーが投入する『FlexStrike』は、従来のレバー型アケコンの構造的弱点をテクノロジーによって克服し、幅広いユーザー層のUXを一新することを目指して作られた。

ソニーが『FlexStrike』で証明する逆張り製品戦略

先述の通り、現在の市場トレンドは「入力効率の最大化」を求めるレバーレスに傾倒しているが、これは裏を返せば、専用デバイスの導入を考えているユーザー層にとって、格ゲー特有のレバー操作の楽しさや直感的なゲーム体験という情緒的価値を切り捨てることにも繋がっていた。

ソニーはこの構造的課題に対し、「扱いやすさの向上」と「インフラのワイヤレス化」という2つのアプローチで回答を示している。

まず特筆すべきは、約1.6kgという軽量化とカジュアルデザインへの刷新による「ユーザーペルソナの再定義」である。プロ志向のヘビーユーザーが求める「膝置き時の安定性(3kg以上の重量)」という常識を捨て、あえて軽量化へ舵を切ったことは、自宅の限られたスペースやカジュアルな姿勢で遊びたい新規層・ライト層の心理的・物理的ハードルを劇的に下げる。

また、工具不要の3種ゲート交換システムは、コマンド入力の難易度というソフト側の障壁をハード側から解決する試みであり、キャラクターやプレイヤーの習熟度に応じたミドルウェア的な柔軟性を提供している。

さらに、実ビジネスの視点から最も破壊力を持つのが、独自技術「PlayStation Link」による「オフライン対戦環境のワイヤレス化」である。従来のeスポーツ大会やコミュニティイベントにおいて、ワイヤレス接続は電波干渉や遅延問題から、使用が禁止される場面が多かった。しかし、ソニーはプラットフォーマーの強みを活かし、ハードと周辺機器の垂直統合によって「超低遅延かつ2台同時のローカル無線接続」というブレイクスルーを達成した。

専用キャリーケースを標準付属させ、ユーザー自身がコミュニティ(カジュアル大会等)へ手軽にハードを持ち運ぶ行動をデザインしたことは、オフラインイベントの設営における無数の配線トラブルや機材の重量問題を解消し、eスポーツを草の根レベルから支えるインフラ戦略そのものと言えるだろう。