米大手ゲームパブリッシャーのEA(Electronic Arts)が6月15日、新たな広告事業「EA Advertising」を発表した。『EA SPORTS FC』や『Madden NFL』といったスポーツタイトルのスタジアム看板やスコアボードに広告を表示し、広告主とプレイヤーを結びつける統合型広告プラットフォームだ。月間1億2000万人以上にリーチするゲームネットワークを活かし、Red BullやVisaとの広告施策もすでに動いているという。

この発表に「ゲーム内広告がいよいよ本格化する」と感じた人もいるだろう。しかし冷静に歴史を振り返ると、ゲーム内広告は決して新しい発想ではない。

2000年代に一度「同じ波」が来ていた

Xbox 360やPlayStation 3の普及によってゲーム機のオンライン接続が一般化した2000年代半ば、ゲーム内看板をリアルタイムで差し替える「ダイナミック広告」が注目を集めた。MicrosoftはMassive Incorporatedを買収し、IGA WorldwideやDouble Fusionといった専業企業もゲーム市場に参入した。誰もが「ゲームは次の広告媒体になる」と期待した時代だ。

だがそのブームは、業界全体を変えるには至らなかった。理由はいくつかある。当時のゲーム市場はパッケージ販売が中心であり、広告収益の重要性は現在ほど高くなかった。広告主の側も効果測定の手法が確立されておらず、費用対効果を示しにくかった。そして何より、プレイヤーから「金を払って買ったゲームで広告を見たくない」という根強い反発があった。

EAが再びこの領域へ踏み込む理由

この20年でゲーム業界の構造は根本から変わった。かつての「売り切り型」から、ライブサービス型の長期運営モデルへの移行が進んだ。『EA SPORTS FC』や『Apex Legends』のようなタイトルは継続的なアップデートとイベントでプレイヤーとの接点を保ち続ける。同時に、AAAタイトルの開発費は数百億円規模にまで膨らみ、ゲーム販売や追加コンテンツだけで投資を回収することは難しくなった。サブスクリプション、マイクロトランザクション、そして広告。複数の収益源を組み合わせる必然性が、以前よりはるかに高まっている。

しかし今回の本質は、広告収益の追加にとどまらない。より重要なのは、EAが広告事業の主導権を自社で握ろうとしている点だ。

2000年代のゲーム内広告は、広告ネットワーク企業がゲーム会社から広告枠を借りて配信するモデルだった。ゲーム会社はあくまで広告在庫の提供者に過ぎず、広告ビジネスの主役ではなかった。

今回のEAはまったく異なるアプローチを取る。自社でゲームを保有し、自社でプレイヤーコミュニティを運営し、自社で広告配信基盤を整備する。広告主との接点から配信、効果測定までを自社エコシステム内で完結させることで、広告プラットフォーム事業者そのものになろうとしている。これは過去のブームとの決定的な違いだ。

最初の対象をスポーツゲームに絞ったことにも戦略的な意図がある。現実のスタジアムに広告看板が並ぶことは当然の光景であり、それをゲーム内で再現することは没入感を損なうどころかリアリティを高める。「広告をゲームに持ち込む」のではなく、「もともと広告が存在する空間をデジタルで再現する」——そのアプローチは、プレイヤーの心理的抵抗を低く保つ上でも理にかなっている。

もちろん課題もある。スポーツゲームで成立するこの手法が、ファンタジーRPGや歴史ゲームで同様に受け入れられる保証はない。プレイヤーの反応次第では、ブランド毀損のリスクにもなり得る。

それでも、EA Advertisingが示す方向性は見逃せない。かつては広告会社がゲーム市場へ参入しようとしていた。今起きているのはその逆だ。ゲーム会社自身が広告プラットフォーム事業者へと歩み寄ろうとしている。この「逆流」がどこまで広がるかは未知数だが、ゲーム業界における収益モデルの進化を示す注目すべき転換点であることは間違いない。