1984年以来、アダム・ジェイコブスという音楽ファンが収録した1万回を超えるコンサートの音源が現在、欧米各地のボランティアたちの協力により、体系的に整理・デジタル化され、非営利のオンラインアーカイブ「インターネット・アーカイブ」で、ストリーミングや無料ダウンロードが可能になりつつある。DIgital Music News(DMN)などが伝えた。

本来なら日の目を見ることのなかった数千ものライブ音源が世に出ることとなり、その中には、ニルヴァーナ、ザ・キュアー、ザ・ピクシーズ、ザ・リプレイスメンツ、デペッシュ・モード、ソニック・ユースなど、数々のアーティストのキャリア初期の演奏も含まれている。

ジェイコブスは、主にシカゴで活躍する新進気鋭のバンドのライブ音源を録音し続けてきた。収録されているのは主に1980年代から2000年代初頭にかけてのインディーやパンク・バンドだが、1988年のブギ・ダウン・プロダクションズのパフォーマンスなど、ヒップホップもいくつか含まれ、無名に近いアーティストによる数百ものライブ音源も収録されている。

ジェイコブスによると、録音したアーティストの大半は、自分の作品が保存されることを喜んでいるが、要望があれば喜んで録音データを削除するとしている。これまで削除を依頼してきたミュージシャンは1、2組しかいないという。

著作権弁護士のデビッド・ニマー氏は、海賊版防止法の下では、アーティストが依然としてオリジナル楽曲やライブ録音の所有権を法的に保有しているものの、ジェイコブスもインターネット・アーカイブも同プロジェクトから利益を得ていないため、訴訟が起こる可能性は低いとみている。

(文:坂本 泉)

榎本編集長「1万回以上のライブ録音が、40年の時を経てデジタルアーカイブとして公開されつつある。ニルヴァーナ、デペッシュ・モード、ソニック・ユース——キャリア初期の演奏が残っていること自体、奇跡に近い。商業録音では残らない「その夜の演奏」を一人の音楽ファンが記録し続けた行為は、音楽史の空白を埋める。

ストリーミングが普及した今、音楽は「聴ける状態で存在する」ことが前提になった。しかし1980〜2000年代のインディーやパンクの現場は、記録されなければ消えていた。このアーカイブは、デジタル化以前の「生きた音楽」の証言だ。

著作権上のグレーゾーンは残るが、アーティストの大多数が保存を歓迎し、営利目的でないという事実が訴訟リスクを低くしている。AIが音楽を大量生成し、ストリーミング詐欺が横行する時代に、人間が実際に演奏した「本物の記録」の価値はむしろ高まっている。文化の継承は、時にルールの外側で起きる。」