米Epic Gamesが、ゲームエンジン「Unreal Engine」とデジタルヒューマン制作ツール「MetaHuman」の出力物について、AI学習への利用制限を利用規約(EULA)から外す方針を示した。同社CEOのティム・スウィーニー氏が10月27日(米国時間)、自身のXへの投稿で明らかにした。数多くのゲームを支える開発基盤の提供者が、AI学習を「認めるか否か」の初期設定を書き換えようとしている。

反論の中で明かされた方針転換

発端は、米ゲームメディアKotakuが10月26日に公開した記事だ。AIで再現された『フォートナイト』のブラウザ版を著作権侵害として削除させる一方、自社ではAI活用を推し進めるEpicの姿勢を、Microsoftと並べて「二重基準」だと批判した。

スウィーニー氏はこれに対し、論点を切り分けて反論した。「フォートナイトのIPを許可や対価なしに使わせることはない」と明言しつつ、「エンジンとMetaHumanの出力物によるAI学習は現在は制限しているが、EULAからその制限を外す作業を進めている」と述べた。ただし各ゲームは開発者が選んだ条件でリリースされるため、学習を許可するか制限するかは開発者が決められるという。改定の時期や具体的な条文は、まだ示されていない。

本事例の背景には、「AIファースト」を掲げるEpic自身の急傾斜がある。開発担当エグゼクティブ・バイスプレジデントのマーカス・ワスマー氏は、Unreal Engineのコードや機能の開発にAIを使っていると認め、10年来取り除けずにいた不具合をAIツールで解消したと説明している。

「一律禁止」から「拒むなら自分で」へ

今回の変更の核心は、「規約上の初期値が入れ替わる」ことだ。これまではEpicのEULAが一律に歯止めをかけており、開発者が意思表示をしなくても、形式上は学習に使えない状態にあった。改定後は、学習を拒みたい開発者が、自作の利用条件でそれを明示する必要がある。何も定めなければ、歯止めとなるのは主に各国の著作権法になりそうだ。裏を返せば、開発者が自作をAI企業に学習データとして提供する道も開ける。

この設計には前例がある。Epic傘下のポートフォリオサイト「ArtStation」では2022年12月、AI生成画像に抗議する画像でトレンド欄が埋め尽くされた。同社が用意したのは、作品に付ければAIによる利用を拒否できる「NoAI」タグだったが、初期設定はオフだった。スウィーニー氏は当時も、AI利用を拒むかどうかは企業ではなく個々のアーティストが選ぶべきだという考えを示している。同社のアセットストア「Fab」でも、学習の可否は出品者がNoAIタグで決める仕組みだ。今回の方針は、その延長線上にあるといえるだろう。

意思表示を「守らせる仕組み」が要る

ただ、拒否の意思表示は、守られて初めて意味を持つ。Robloxでは10月、同社研究者が作ったAIエージェントが、3Dモデル共有サイト「Open3DLab」などから約145GBのデータを収集していたことが明らかになった。Open3DLab側によれば、エージェントはクローラーへの拒否指示や利用規約を無視していたという。Robloxはエージェントを停止し、データは学習に使っていないと説明している。

エンジンの規約は、それを使う膨大な数の開発者に一斉に効く。小規模なスタジオほど、自前で利用条件を整え、違反を監視する余力は乏しい。日本では著作権法30条の4により、AI学習目的の利用は、権利者の利益を不当に害する場合を除き、原則として許諾なく行えるとされる。それだけに、開発者が自ら定める規約の重みは増す。

開発者に選択の自由を渡すこと自体は、筋の通った考え方だ。残る課題は、その選択を簡単に示せて、確実に尊重される仕組みをEpicが用意できるかどうかである。