Billboard JAPANが運営する書籍の総合チャート「Billboard JAPAN Book Charts」。本チャートは紙書籍と電子書籍、サブスクリプション、図書館での貸し出しなどを合算した総合ブックチャートだ。総合チャートに加えて文芸や漫画などのジャンル別チャート、発売年別のチャートなど全8種類のチャートが存在。月曜日から日曜日までの各種データをもとに生成されたチャートが翌週木曜日に毎週公開される。この記事では、10月23日に発表された文芸部門のチャートを解説。さらに、全8種類のチャートの中から2冊をピックアップして紹介する。
実写映画公開の『汝、星のごとく』が先週に引き続き首位
今回は10月12日から10月18日までの文芸部門のチャートを元に解説する。1位は10月9日に実写映画が公開された『汝、星のごとく』(凪良ゆう著)。前回に引き続き首位を獲得した。
本作は2023年に本屋大賞を受賞。瀬戸内の島で育った暁海と母の恋愛に振り回され転校してきた櫂の、15年にわたる愛と選択の物語だ。映画では横浜流星が櫂を、広瀬すずが暁海を演じた。3位には本作のスピンオフストーリー『星を編む』(凪良ゆう著)もランクイン。また、同じく凪良氏の作品で現代のさまざまな結婚・婚姻を描いた『多類婚姻譚』は13位にランク入りした。
10月15日に文庫版が発売された阿部暁子の『カフネ』は2位を獲得。本作は、2人の「家事代行」が出会う人びとの暮らしを整え、心を救っていく物語。誰かと一緒に食事をすることの尊さを、人が人を思う優しさを、改めて教えてくれる作品だ。2025年の本屋大賞受賞作で、文庫化を機に改めて注目が集まっている。
6位、10位には現在実写ドラマ放送中の池井戸潤の『俺たちの箱根駅伝』上下巻がチャートイン。ドラマ放送期間に長くランクインすることが予想される。
前回と比べて大きくランクアップしたのは、17位に登場した東野圭吾さんの『容疑者Xの献身』。先週の75位からランキングが上がった。本作は福山雅治主演で映画化もされた『ガリレオシリーズ』の人気作となっている。
また、辻村深月の作品も長い間人気を集めている。SNSでもたびたび話題になる『傲慢と善良』が14位に、「噂」をテーマにした長編『ファイア・ドーム』の上下巻が18位と20位にランクインした。
大ヒットシリーズの第4弾 和菓子の世界を舞台にしたお仕事ミステリー『アンと幸福』
今回は文芸部門チャートで11位の坂木司の『アンと幸福』に注目したい。本作はデパ地下の和菓子屋「みつ屋」のアルバイト店員・梅本杏子(通称:アンちゃん)を主人公にした大ヒットシリーズの第4弾。和菓子の世界を舞台にしたお仕事ミステリー小説だ。
ミステリーといっても、殺人事件など物騒な事件が起こるわけではない。アンちゃんが働く中で出会うスタッフやお客さんとのやり取りの中で生まれる”日常の謎”のミステリーとなっている。
本シリーズの魅力のひとつは、アンちゃんをはじめとした個性豊かなキャラクターたち。おしゃれなイケメンだがかわいいものに目がない乙女系男子の立花や、見た目はかわいらしいが超強気な桜井など、少々癖の強いスタッフたちが登場する。今作では新しくやってきた店長・藤代も大きな存在感を放っている。
本作は基本的にはとても優しい物語だが、働く上でのシビアな悩みや迷いも描かれている。特に藤代が賃金や雇用の話をするシーンでは、心がピリッとする感覚があった。
高校を卒業してアルバイトとして働いてきたアンちゃん。今作では自分の経験のなさを改めて実感し、さまざまな人と関わる中で「自分のしたいこと」を見つめ直していく。迷いながらも着実に前に進むアンちゃんの姿を見ていると、自分も仕事への向き合い方を振り返りたくなる。
彼女はとにかく一生懸命でまっすぐだ。終始アンちゃんの視点で描かれており、素直な心の内を知ることができるため、彼女の喜びも迷いも読者にありのまま伝わってくる。だからこそ応援したくなるし、アンちゃんの未来に夢中になってしまう。
そして忘れてはいけないのが「食」の表現の魅力。和菓子はもちろん、デパ地下で売っている洋菓子や、アンちゃんの母の手料理など、読んでいるだけでお腹がすくような食べ物が数多く登場する。その描写に触れると、自分の思い出の味までよみがえり、優しい気持ちになる。
日々の生活に疲れてしまったとき、これから何かに挑戦しようとしているとき。本作を開けば、まるで和菓子を口にしたときのように心がほぐれていく。そして読み終えたあとには、「私もがんばろう」と自然に思えるのだ。
“Hot Culture Books”14位 30万部突破の『「好き」を言語化する技術 推しの素晴らしさを語りたいのに「やばい!」しかでてこない』
2冊目のピックアップは、”Hot Culture Books”で14位の『「好き」を言語化する技術 推しの素晴らしさを語りたいのに「やばい!」しかでてこない』(三宅香帆著)。”Hot Culture Books”とは、JAPAN Book Hot 100をもとに、日本図書コードを参照にしたジャンル情報から文化・芸術関連の書籍を抽出し、順位化したチャートだ。
本書は、文芸評論家の三宅氏が長年培ってきた文章技術を「推し語り」に役立つようにまとめた1冊。「言語化」や「技術」の本と聞くと「難しい言葉で書いてあるのかも」「堅い本なのかも」と感じるかもしれないが、そんなことはまったくない。むしろやさしい言葉で、わかりやすくつづられている。「ぶっちゃけ」や「ちょっと待った!」など、話し言葉のような言葉も使用されているので、まるで三宅氏とお茶をしているような気分で肩の力を抜いて読むことができる。
自分の好きなものを語ることは、簡単なように見えて実際にやってみるととても難しい。書いてみても「どこかで見たことある感想だな」「なんだか毎回同じこと書いてるな」と悩んだ経験が私にもある。しかし「自分だけの感想」がないわけでは決してない。三宅氏は、自分の感想を言葉にする「ちょっとしたコツ」を順序立てて丁寧に説明してくれている。
そして、本書で語られているのは技術の話だけではない。「自分の言葉」が持つパワーや、感動を言語化する意味など、三宅氏の思いや考えも込められている。
特に印象的だったのは、「なんのために感動を言語化するの?」というトピックだ。「たとえ『好き』が揺らいで消失したとしても、一度『好き』を言葉にして残しておけば、その感情は自分のなかに残り続けます」という一文は、深く心に残った。好きなものが変わってしまったとしても、そのときに感じた「好き」は本物で、自分だけのものだ。このトピックを読んだときには、過去に自分が夢中になっていたアイドルや、大切にしていたものたちが懐かしく胸に浮かび、泣きそうになってしまった。
「言語化」の本でありながら、「この気持ち知ってる」と共感する部分も多くある本書。読み終えると、今の自分が抱いている「好き」という感情を、自分の言葉で残しておきたくなる。「難しそう」とあまり構えずに、気軽に手に取ってほしい1冊だ。














