本来なら、ロサンゼルスでは現地時間10月22日の夜に舞台の幕が上がるはずだった。Cygamesは20日、『ウマ娘 プリティーダービー』初のワールドツアー「7th EVENT WORLD TOUR “THE STAGE”」のロサンゼルス公演(22・23日、ピーコックシアター)の中止を発表した。理由は、公演に必要な米国ビザを取得できなかったことだ。

同社は現地の弁護士やプロモーターと組み、半年以上前からビザ取得の準備を進めてきた。だが19日の時点でも承認は下りておらず、翌20日に中止を発表した。現地観覧と配信のチケット、JTBの公式ツアー、ライブビューイングは払い戻しの予定で、現地参加を予定していたファンへの対応は検討中としている。

報道の多くは中止の経緯や払い戻しを伝えている。だが注目したいのは、同じ劇場で同じ10月に起きていた、もう2つのビザ問題だ。

同じ劇場で2公演がビザに揺れていた

10月13日にピーコックシアターで予定されていた『メタファー:リファンタジオ』のオーケストラコンサートでは、ゲームの楽曲を歌った歌い手の本良敬典が「予期せぬビザ処理の遅れ」により、米国3公演に出演できなくなったと公式サイトで告知された。公演そのものは中止せず、残る歌い手とオーケストラで臨む方針が示された。

17日の『鳴潮』のコンサートでも、歌手のTarokikiがビザの問題で出演できなくなった。主催側は別の歌手2人に楽曲を任せ、希望者には払い戻しに応じたうえで公演を開催している。

つまり、ビザが下りない事態は『ウマ娘』だけの不運ではない。違いは、ほかの2公演が出演者を欠いたり差し替えたりして公演を続ける道を選べたのに対し、『ウマ娘』にはその選択肢がなかったことにある。

「本人」が価値のライブは代役が利かない

オーケストラ公演の主役は楽曲そのものだ。歌い手が1人欠けても、別の歌手が歌えば作品として成立する。

一方、『ウマ娘』のライブは、キャラクターを演じる声優本人がそのキャラクターとして歌い、踊ることに価値がある。ロサンゼルス公演には、トウカイテイオー役のMachicoら声優17人が出演を予定していた。どこまでの出演者が影響を受けたのかは明かされていないが、出演者がそろって日本から渡航する構成である以上、ビザという一点が止まれば公演全体が止まりやすい。日本発のキャラクターライブの最大の魅力が、そのまま弱点になったといえる。

「半年前」では読み切れない審査

背景には、米国の芸能ビザ審査の長期化がある。米公共ラジオNPRは2026年7月、芸能人向けのP査証の請願審査に平均約11カ月半、O-1査証では1年あまりかかっていると報じた。以前は2〜4カ月程度だったという。一方で、O査証の請願は公演の1年前より早くは受け付けられないとも伝えており、主催者に残された余裕はほとんどない。

1件2,965ドルの追加料金を払えば請願の審査は早められるが、その後には在外公館での面接が控える。2025年秋には対面面接が原則となり、面接の予約待ちも長引いている。早めに動いても、いつ許可が下りるかを主催者が確定させにくいのが実情だ。

ゲームは国境を越えても、人は越えにくい

『ウマ娘』は2025年6月に英語版を配信し、同年12月には奇しくも同じピーコックシアターで開かれたThe Game Awards 2025でベストモバイルゲームを受賞した。ゲームは配信ひとつで世界に届くが、ステージに立つ人の移動は各国の制度に左右される。

ツアーは当初の発表どおりなら、この後ロンドン、ソウル、横浜を巡る。日本発IPの海外ライブには、1年単位で逆算した準備に加え、渡航できない出演者が出た場合でも、日本からの配信公演への切り替えなどでファンとの約束を守れる代替案を、最初から組み込む設計が求められるだろう。