興行通信社が10月26日に発表した全国週末興行成績(10月23日〜25日)で、東宝配給のアニメ映画『映画ちいかわ 人魚の島のひみつ』が前週の7位から2位に浮上した。公開14週目に入っても週末3日間で興行収入2億7900万円を稼ぎ、累計は動員1265万人、興収184億円を超えた。2026年に公開された映画では、4月公開の『名探偵コナン ハイウェイの堕天使』の約137億円を大きく上回り、首位を独走している。

初動はコナンに届かず、伸びで逆転

本作は7月24日に全国447館で公開された。初日の興収は9.9億円で、2024年の『名探偵コナン 100万ドルの五稜星』の9.6億円は上回ったが、今年の『ハイウェイの堕天使』の11.3億円には届かなかった。それでも3日間の興収22億4000万円は、公開当時の歴代10位にあたる好発進だった。

差がついたのは公開後の伸び方だ。公開30日で興収100億円に達し、59日目には158.4億円と、『名探偵コナン』シリーズ最高の『100万ドルの五稜星』の158億円を超えた。9月23日時点で日本の歴代興収ランキング15位に入り、その後も順位を上げている。

Xの漫画から始まった巨大IP

『ちいかわ』は、イラストレーターのナガノ氏が2020年にX(当時はTwitter)で連載を始めた漫画だ。2021年に単行本が出版され、「日本キャラクター大賞2022」でグランプリを受賞した。2022年にはフジテレビの情報番組「めざましテレビ」内で動画工房制作の短編アニメが始まり、コラボ商品やアニメへと広がるIP(キャラクターや作品の権利)に育った。

映画が描くのは、2023年3月から11月にかけてXに投稿された長編、通称「セイレーン編」だ。投稿当時から不穏な展開が考察を呼び、SNSで連日話題になった。映画はナガノ氏が原作と脚本を担当し、TVアニメ『ウマ娘 プリティーダービー』シリーズで知られる及川啓氏が監督を務め、サイピクがアニメーション制作を担った。

観客の幅も広い。リアルサウンド映画部は公開初週の成績について、観客が若年層やファミリー層に偏らず、シニア層を除く幅広い層から支持を集めていると分析した。全国65館のIMAXでの上映も、興収を押し上げたという。毎年春に公開される『名探偵コナン』のような定期シリーズではなく、日常的にSNSで接してきたキャラクターの初めての長編映画であることが、多くの層を劇場に向かわせたとみられる。

7弾目の特典が示す「通わせる」仕組み

もう一つの原動力が入場者特典だ。本作は公開初日のチャームミニフィギュアを皮切りに、シール、プルバックカーなど、おおむね2〜3週間ごとに特典を切り替えてきた。10月24日からはナガノ氏描き下ろしのクリアカード(全4種、ランダム配布)が第7弾として配られている。特典は鑑賞1回につき1人1つで、全種類をそろえるには何度も通う必要がある。

効果は数字にも表れている。第2弾の配布で大きく伸びた翌週、新しい特典がなかったお盆の週末(8月14日〜16日)は、動員・興収とも前週比52%にとどまった。一方で、第6弾の配布が始まった10月10日を含む週末には、3週間ぶりに首位へ返り咲いた。

こうした手法には前例がある。2025年7月公開の『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』は、第17弾に加えて終映前の「フィナーレ特典」2種まで配った。週刊女性PRIMEは、特典頼みの興行を作品の人気のように見せることに疑問を抱く声もあると伝えている。

興収は延べ入場者が払った金額の合計で、同じ人が何度観ても加算される。184億円という数字は「何人が観たか」だけでなく、「どれだけ劇場に通わせたか」も含んでいる。ただし、特典だけで公開から3カ月以上も客足を保つのは難しい。作品そのものに繰り返し観たいと思わせる力があったことも、ロングランを支えた要因とみられる。