オンライン対戦プラットフォームのFACEITは、新たなアンチチート機能「Human Input Detection」を2026年8月5日開始の新シーズンから導入すると発表した。
ソフトウェアの検出ではなく、プレイヤーの入力そのものを機械学習で分析し、人間には物理的に不可能な操作を検知する仕組みだ。既存の対策が突破されつつある中、eスポーツ運営各社は検知手法そのものの転換を迫られている。
入力の物理的妥当性で判定
FACEITが導入する新機能は、数百万試合分の対戦データと最上位ランカーのプレーを学習させ、リアルタイムで入力を評価する。フラグが立っても即座には処分せず、既存のアンチチートシグナルと突き合わせて確信度を高めたうえで判断する運用とした。データはゲームウィンドウ内のみを対象に暗号化し、試合終了後は保持しないとしており、プライバシー面への配慮も前面に打ち出している。
背景に膨張する「チート経済」
背景にあるのは、AIやDMA(Direct Memory Access)を用いたチートの急拡大だ。FACEITによれば、これらは2026年5月時点で全BANの4割を占めるまでに増加した。
DMAチートは外部ハードウェア経由でメモリを読み取るため、ソフトウェア上の痕跡を残しにくく、従来型の検出網をすり抜けやすい。中国のゲーム業界団体がまとめた「2025年版ゲームセキュリティ白書」は、国内の不正ビジネス市場規模を約2000億円と推計し、チート販売の対抗軸がソフトウェアからハードウェアへと広がっていると分析する。
英バーミンガム大学の調査でも、チート業者の年間総収入は1280万〜7320万ドル、月間利用者は3万〜17万4000人規模とされ、対策強化の裏には既に成熟した「チート経済」の存在がある。
Riot、EAも検知力を競う
競合の動きも活発だ。Riot Gamesは自社のカーネルレベルアンチチート「Vanguard」で、2026年5月にIOMMU(入出力メモリ管理機構)を活用し、高額なDMAチート機器を恒久的に無効化する対策を打ち出した。価格6000ドル規模の機器も対象に含めており、ハードウェア層での封じ込めを進める。
一方、EAの「Javelin Anticheat」は『バトルフィールド6』発売初週だけで36万7000件超のチートを阻止したと公表するなど、検知実績を数値で示す競争も広がっている。
焦点は精度と公平性の両立
FACEITの今回の一手は、こうした「ハードウェア対抗」路線とは異なり、入力の物理的妥当性という振る舞いのレイヤーに焦点を当てた点に特徴がある。ソフトやハードを特定できずとも、未知のチートを検知できる利点がある一方、アクセシビリティ機器や特殊な入力デバイスを誤って不審と判定するリスクも避けられない。FACEITはこの点についても、通常と異なる入力のみを根拠に処分しない設計を明言しており、精度と公平性の両立が今後の競争軸になるとみられる。
FACEITは同時に、Season 9からチート行為のBAN期間を従来の2年から5年に延長するなど処罰も強化した。検知技術の高度化と処罰の厳格化を両輪で進める姿勢は、eスポーツ市場の公正性を競技体験そのものの商品価値とみなす運営各社の戦略転換を映し出している。














