中国IT大手テンセントの株価が急落し、中国ゲーム関連銘柄にも売りが波及した。米メディアbloomberg等が報じている。第2四半期決算を前に、テンセントの主力モバイルゲーム事業に対する成長鈍化への懸念が強まり、『Honor of Kings』や『Peacekeeper Elite』など主要タイトルの売上減速が意識された。これを受け、NetEaseなど中国を代表するゲーム企業の株価も軒並み下落している。

ゲーム企業は「総合テクノロジー企業」として見られる時代へ

2010年代、ゲーム企業の企業価値は新作タイトルのヒットやユーザー数の増減に大きく左右されていた。テンセントも『Honor of Kings』や『PUBG Mobile』などの大型タイトルを武器に世界最大級のゲーム企業へと成長した経緯がある。

しかし現在のテンセントは、ゲーム事業に加え、WeChatを中心としたプラットフォーム事業、広告、フィンテック、クラウドサービス、生成AIへの投資も進める総合テクノロジー企業となっている。

その利益をどの成長領域へ振り向けるかという経営戦略自体が企業価値を左右する要素になりつつあり、市場ではゲーム事業の減速懸念に加え一部資金がAI関連銘柄へ移動したとの見方も出ている。投資家がゲーム事業単体ではなく、中長期的な成長戦略や資本配分を総合的に評価する傾向が強まっている表れといえる。

この変化はテンセントに限らない。米国ではElectronic ArtsやRobloxがAIを活用したゲーム開発やライブサービス運営を打ち出し、Microsoftもゲーム事業とAI基盤の連携を進めている。ゲーム企業は「ヒット作を生み出す会社」であると同時に、「AIやクラウドを含む技術企業」として評価される局面を迎えつつある。

成長市場から成熟市場へ移る中国ゲーム産業

こうした評価軸の変化を後押ししているのが、中国ゲーム市場の成熟だ。2010年代の中国ではスマートフォン普及を背景にゲーム市場が急拡大し、多くの企業が新規ユーザー獲得によって成長を続けてきた。しかし現在は市場規模こそ世界最大級を維持するものの、ユーザー数の伸びは鈍化し、新作だけで持続的な成長を実現するのは難しくなっている。

さらに2021年以降、中国政府は未成年者のプレイ時間規制やゲーム認可制度の厳格化を進め、ゲーム企業は成長戦略の見直しを迫られてきた。2023年末にはオンラインゲーム規制案の公表を受けてゲーム株が急落した経緯もある。

こうした経験を経て、市場では政策リスクだけでなく、企業が成熟市場でいかに収益を維持し新たな成長分野へ投資していくかが重視されるようになった。投資家の関心は「次のヒット作」だけでなく、既存IPの長期運営によるキャッシュフロー創出と、その利益をAIやクラウドなど次世代事業へどう振り向けるかという経営判断へと広がっている。

日本企業にも広がる評価軸の変化

この潮流は、何も中国市場だけにとどまらない。世界のゲーム業界では生成AIを開発支援やライブサービス運営に活用する取り組みが広がる一方、「AIをどう活用し、どこまで人間の創造性を維持するか」という方針自体が企業価値の一部として注目されている。

日本でも任天堂やバンダイナムコホールディングス、カプコンなどがAI技術の研究・活用を進めており、市場が注目するのは個別タイトルのヒットだけではなく、技術戦略から持続的な競争優位をいかに築くかという視点が重視される。

テンセント株急落は、ゲーム事業の減速懸念を映したニュースであると同時に、ゲーム企業が「ゲーム会社」という枠組みだけでは評価されなくなる現実を示唆した事例だ。AI、クラウド、データ基盤を含めた総合的な成長戦略が企業価値を左右する時代、ゲーム業界を巡る投資家の視線も転換点を迎えている。