Billboard JAPANが運営する書籍の総合チャート「Billboard JAPAN Book Charts」。本チャートは紙書籍と電子書籍、サブスクリプション、図書館での貸し出しなどを合算した総合ブックチャートだ。総合チャートに加えて文芸や漫画などのジャンル別チャート、発売年別のチャートなど全8種類のチャートが存在。月曜日から日曜日までの各種データをもとに生成されたチャートが翌週木曜日に毎週公開される。この記事では、3月26日に発表された文芸部門のチャートを解説し、その中から2冊をピックアップして紹介する。

本屋大賞関連作、『プロジェクト・ヘイル・メアリー』など実写化作品がランクイン

今回は3月16日から3月22日までのデータということで「本屋大賞」ノミネート作品のランクインが目立った。「本屋大賞」とは、全国の書店員が最も売りたい本を決める賞で、書店員の投票だけで選ばれることが特徴。ノミネート作が発表されると、毎年SNSなどで大きな盛り上がりを見せている。”現場の声”がダイレクトに反映されることも魅力のひとつだ。

1位の『イン・ザ・メガチャーチ』(朝井リョウ著)、9位の『暁星』(湊かなえ著)14位の『熟柿』(佐藤正午著)、18位の『殺し屋の営業術』(野宮有(著)は2026年「本屋大賞」ノミネート作品。3位の『成瀬は天下を取りにいく』(宮島未奈著)、7位の『汝、星のごとく』(凪良ゆう著)は過去の本屋大賞受賞作品だ。本屋大賞の結果は4月9日に発表されるため、発表前にノミネート作や過去の受賞作を読んでおきたいと考えている読者が多いのではないだろうか。

また、実写化された作品や、これから実写化が控えている作品の人気も根強い。2位と6位には現在映画公開中の『プロジェクト・ヘイル・メアリー』(アンディ・ウィアー著/小野田和子訳)の上下巻がランクイン。本作は”ネタバレ厳禁”のSF作品で、公開初日の興行収入は1億6996万5100円、動員数は9万8291人という大ヒットスタートを切った。映画公開をきっかけに原作にも注目が集まっていることがうかがえる。5位の『木挽町のあだ討ち』(永井紗耶子著)も2月に映画が公開され、7位の『汝、星のごとく』は横浜流星と広瀬すずのW主演で秋に公開予定だ。

通算7週目の首位を獲得『イン・ザ・メガチャーチ』 3視点から今の時代を切り取った物語

その中でも今回は第1位の『イン・ザ・メガチャーチ』と第3位の『成瀬は天下を取りにいく』に注目したい。

『イン・ザ・メガチャーチ』は、「ファンダム経済を仕掛ける人の視点」「のめり込む人の視点」「かつてのめり込んでいた人の視点」の3視点で展開する物語。この物語の中心にあるのは、「ファンダム経済」「何かを信じること」「視野」である。特にファンダムにおいては、朝井氏の解像度の高さがこれでもかというほど発揮されている。MBTIが登場したり、オーディション番組の話題が登場したりと、まさに今の時代を切り取って閉じ込めたような作品になっている。

読者は3つの異なる視点を持ちながら物語に入り込んでいく。見る角度が違うとこんなにも見える景色が違うのかと改めて感じる作品でもあり、ところどころでゾワッという感覚にもなってしまう。特に誰かを熱狂的に応援している人や、過去にそのような経験がある人にとっては「これは私だ」と感じる部分もあり、少しえぐられるような感覚になるかもしれない。

私はそんなある種の”怖さ”を抱えながらも、のめり込んで一気読みしてしまった。それは登場人物がずっと”危うさ”を抱えていたからだ。客観的な読者視点では、その”危うさ”がよくわかる。3人の行き着く先が読んでいる間ずっと気になって仕方なかった。読後はキリキリとした感覚と共に「すごいものを読んでしまった」という感情になり、すぐに誰かと語りたくなった。

2024年本屋大賞受賞『成瀬は天下を取りにいく』 勇気をもらえる青春物語

『成瀬は天下を取りにいく』は2024年に本屋大賞を受賞した宮島未奈氏のデビュー作。我が道をいく唯一無二の主人公・成瀬あかりを中心とした青春小説で、『成瀬は信じた道をいく』『成瀬は都を駆け抜ける』の3部作となっている。

シリーズ1作目の『成瀬は天下を取りにいく』は、成瀬の生まれ育った街・滋賀県の大津市が舞台。成瀬の将来の夢は200歳まで生きることで、他人の目を気にすることなくマイペースに生きている。西武大津店が営業終了すると聞けば「この夏を西武に捧げようと思う」と言って毎日西武に通ってテレビの生中継に映ったり、「M-1グランプリ」に挑戦したり、とにかく「やってみよう」という精神が強い。そんな”成瀬あかり史”を近くで見守る幼なじみ・島崎との友情も見どころだ。

本作は、何か大きな事件が起きるわけではない。成瀬たちの日常を切り取ったもので、どちらかというとささやかな青春の物語だ。しかし、成瀬の物語を読むと「何事も恐れることなく気軽にチャレンジしてみればいいのか」と勇気をもらえる。押し付けがましさを感じず、自然にそう思えてしまうのは、目標に届かないことがあっても成瀬が落ち込まないから。成瀬は「たくさん種をまいて、ひとつでも花が咲けばいい。花が咲かなかったとしても、挑戦した経験はすべて肥やしになる」という考えを持っている。4月になり、新生活が始まる人も多いこの季節。本作は、なんとなく肩の力が入りがちなこの季節に勇気をもらえる1冊だ。