ゲームは教育現場でどこまで受け入れられるのか。そんな問いに対するひとつの回答が、フィリピンから示された。

フィリピン教育省が推進する「MATATAGカリキュラム」において、中学4年生向けの保健体育科目の中にeスポーツを扱う単元が存在することが明らかとなり、SNS上で注目を集めている。推奨教材には『VALORANT』や『League of Legends』(LoL)をはじめ、『Minecraft』、『鉄拳』などが並ぶ。

このカリキュラムではeスポーツの概念理解だけでなく、競技タイトルを実際にプレイしながら戦略性やチームワークを学び、大会運営やコミュニティ形成、オンライン空間におけるリスペクトや公平性まで教育内容に組み込まれているという。

世界で広がる「ゲームを学びに活用する」取り組み

米国では、2023年にメリーランド大学が『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』(ゼルダの伝説 ToK)を活用した機械設計講義を開講し注目を集めた。授業では「ウルトラハンド」などの機能を活用し、設計思考や工学概念を学ぶ試みが行われている。

また、ポーランドでは2020年に『This War of Mine』が高校向け推薦教材に指定された。社会学や倫理学、歴史教育の補助教材として無償提供されており、戦争を一般市民の視点から描いた作品として、「教育制度に組み込まれた世界初のビデオゲーム教材」とも評されている。

日本でも教育版『Minecraft』の活用が広がりを見せている。2016年には渋谷区立広尾中学校が国内初の導入校となり、その後はプログラミング教育や探究学習、地域学習など教科横断型教材として活用が進んでいる。

フィリピンが踏み込んだ「ゲーム文化を教える教育」

対してフィリピンの事例は、ゲームそのものを学習対象として捉えている点に特徴がある。競技文化としてのeスポーツを理解し、チームワークやコミュニケーション、大会運営、デジタル空間における振る舞いを体系的に学ぶことを目的としているのだ。

背景には、フィリピン政府が進める教育改革が存在する。MATATAGカリキュラムでは基礎学力の向上だけでなく、批判的思考力やデジタルリテラシーの育成も重視されている。若年層の生活に深く浸透したゲーム文化を排除するのではなく、理解し、適切に活用する対象として位置付けようとする発想が見て取れる。

eスポーツ教育は新たなリテラシー教育となるのか

もっとも、この動きを無条件に歓迎する声ばかりではない。世界保健機関(WHO)はゲーム障害を国際疾病分類(ICD-11)に収載しており、長時間プレイやオンライン上のトラブルは依然として社会課題である。教育現場でゲームを扱うことが、結果としてゲームへの接触機会を増やすことにつながるのではないかとの懸念も存在する。

一方で、今回のカリキュラムは、そうしたリスクへの理解を深めることも目的のひとつとしている。ネット対戦におけるマナーや健全なプレイ習慣を学校教育の中で学ぶことは、SNSリテラシー教育にも通じる、新たなデジタル教育の形と言えるだろう。

『This War of Mine』が歴史教育の教材となり、『Minecraft』が探究学習のプラットフォームとなり、『ゼルダの伝説 ToK』が工学教育の題材となったように、ゲームはすでに教育現場へ浸透し始めている。そしてフィリピンの事例は、その流れをさらに一歩進めるものだ。

ゲームを通じて学ぶ段階から、ゲーム文化そのものを理解する段階へ。『VALORANT』や『LoL』を教室で学ぶ試みは、ゲームが新たな教養の領域へと入りつつあることを示しているのかもしれない。