Netflix映画『ウォレスとグルミット 仕返しなんてコワくない!』独占配信中

伝統と革新の交差点で、「ウォレスとグルミット」が選んだのはNetflix進出だった。

連載第2回でご紹介するのは、映画『ウォレスとグルミット 仕返しなんてコワくない!』(2025年)。第1回の「アドレセンス」に続いてイギリスの作品を選んだのは偶然――だったはずが、奇しくもこの2作品には、アメリカ以外の国がNetflixというプラットフォームに期待するものが明確にうかがえる。

「ウォレスとグルミット」約20年ぶりの長編映画

『ウォレスとグルミット 仕返しなんてコワくない!』は、アードマン・アニメーションズによる人気ストップモーション・アニメーション「ウォレスとグルミット」シリーズの映画版。約20年ぶりの新作長編かつ、短編の人気作『ウォレスとグルミット ペンギンに気をつけろ!』(1993年)の32年越しの続編だ。

物語は、発明家ウォレスと相棒グルミットが、ペンギンの泥棒フェザーズ・マッグロウを捕らえた直後から始まる。たまった請求書の支払いに追われるウォレスは、事態を打開するべく”お手伝いロボット”のノーボットを開発。その驚くべき能力に感嘆するが、なんでもたやすくこなすノーボットを前に、グルミットは自分の立場を失ってしまった。

ウォレスがノーボットを発明したことを知った獄中のマッグロウは、ウォレスとグルミットへの復讐を計画。ノーボットをハッキングして再プログラムすると、自らをコピーさせて”ノーボット集団”を創り出した。思わぬことに驚くウォレスだが、ノーボットを貸し出して家事の手伝いをするビジネスをはじめる。

町の人々は新たなテクノロジーの登場に喜ぶが、ノーボットは家々で盗みを働いていた。やがて、発明者のウォレスがその首謀者として疑われるようになり……

ストップモーション vs AIの脅威

90年代の短編時代から、「ウォレスとグルミット」シリーズはコメディをベースとしつつ、アクションやサスペンス、ラブストーリーといったジャンルを融合させてきた。よく練られた脚本とユーモアに、大人が楽しめるパロディやオマージュ、そしてすさまじい手間暇と予算を要するハイクオリティなストップモーション・アニメーション――その高い完成度ゆえ、「ウォレスとグルミット」は知名度に対して寡作のシリーズだった。

その魅力をふたたび蘇らせた本作は、おなじみの作風やトーン、ストップモーションであることを忘れさせるほどのスペクタクルが健在。さらに、スピード感あふれる現代の映像文化――ショート動画やSNSの目まぐるしさ――に慣れた子どもたちをも飽きさせない、より賑やかでハイテンポな作品となった。

また、ストーリーからも明らかなように、この映画は「テクノロジーの暴走」というイシューを軸に据えた”AIホラー”。近年、ハリウッドのスタジオもAI暴走の恐怖を描いた『M3GAN/ミーガン』(2023年)などのホラー映画を積極的に開発しているが、劇中ではウォレスも「AI」という言葉を口にする。ジャンル融合の伝統も活かし、怖いところはちゃんとゾッとさせる、まぎれもなく今の世相を映した「ウォレスとグルミット」だ。

そもそも、クリエイターによる手仕事を感じるクレイアニメのストップモーションは、AIの”生成的”な創造とは真逆のもの。粘土の造形物を動かすからこその質感や造形の美しさ、重量感といったクラフトの魅力が、この映画でAIの恐怖を描くことの必然性をより強く感じさせる。

いわゆる懐かしさや温かさ、ノスタルジーに頼るのではなく、あくまで「新作を作る意味」を追求した本作は、まさに伝統と革新のクロスポイントだ。

「アドレセンス」『KPOPガールズ!』との共通点

アードマン・アニメーションズは、早くからこの新作を母国イギリスのBBCだけでなく、『ことりのロビン』(2021年)や『チキンラン: ナゲット大作戦』(2023年)でも協働してきたNetflixで世界配信することを決定。ローカルとグローバルの二層展開で作品を届ける戦略に出た。

さすがはイギリスの国民的キャラクターとあって、2024年12月25日のBBC放送後、28日間の累計視聴数は2160万回に到達。ホリデーシーズンのイベントとして存在感を発揮したのち、Netflixで2025年1月3日からグローバル配信がスタートした。英国アカデミー賞では最優秀アニメーション映画賞と子ども・ファミリー映画賞を受賞、アカデミー賞の長編アニメーション部門にもノミネートされるなど、作品としても高い評価を得ている。

ローカルのカルチャーを反映した作品を全世界に届け、賞レースでも成果を出す。これは「アドレセンス」との共通点であり、アニメーション映画という観点では『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』(2025年)のブレイクにもつながるステップだったように思える。

かたや老若男女から長年愛されるキャラクター、かたやK-POPカルチャーやファンダム文化――映画に搭載されたものやヒットのありかたは大きく異なるが、ここにはNetflixの試行錯誤とノウハウの蓄積、”作品の受け皿”であるプラットフォームとしての幅と厚みがある。