3万2000年以上前に描かれた壁画を3Dカメラで収めた、ヴェルナー・ヘルツォーク監督の3Dドキュメンタリー『忘れられた夢の洞窟』(2010)の6Kリマスター版が4月15日、米国のIMAX劇場で公開となった。リマスタリングチームを率いた、3Dプロデューサーのジェームズ・スチュワート氏は、今作でAIを一切使用していないと明かしている。IT系メディア「The Verge」が伝えた。

ヘルツォーク監督はかねて3D映画をあまり好んでおらず、今回の6Kリマスタリングにも直接関与しなかった(同氏は「デジタル技術や実際の作業については、私には理解できない」と認めている)。一方で、自身の映画をIMAXで初めて観たことは「非常に深い体験だった」としている。

同氏はAIについて、製薬・医学・数学の分野における驚異的な可能性を認める一方、AIが生成した映画については否定的で「洗練されていて作りは良いが、詩の魂を宿しておらず、完全に死んでいる」と評価した。

「『忘れられた夢の洞窟』を見ると、そこには深い畏敬の念、驚きと神秘が感じられる。そして、そこには映画製作者の魂だけではない、3万2000年前にこれらの壁画を描いた人類の不思議な魂が宿っており、AIにはこれを作り出すことはできない」

(文:坂本 泉)

榎本編集長「AIを使わず、監督も関与せず——それでも「非常に深い体験」が生まれた。ヘルツォーク監督の3Dドキュメンタリー『忘れられた夢の洞窟』の6Kリマスター版が、IMAX劇場で公開された。テクノロジーが3万2,000年前の壁画を現代の観客に届ける一方、その壁画を描いた人間の「魂」はAIには再現できないという逆説がある。

スフィアがEDMに映画品質のビジュアルを融合させ、プロジェクト・ヘイル・メアリーが最新VFXで宇宙を描く時代に、3万年前の手跡がIMAXスクリーンに映し出される体験は異質だ。

ヘルツォークが「洗練されているが完全に死んでいる」と評したAI映画への批判は、映像技術の進化が「何を失ったか」という問いでもある。AIが製薬や数学で人間を超える可能性を認めながら、芸術における「畏敬と神秘」はAIの射程外だという立場は、エンタメ産業がAI活用を加速させる今、最も根本的な問いを突きつけているかもしれない。」