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配信プラットフォームは、知られざる名作・話題作の「宝の山」だ。

アメリカで最も注目される映画スタジオ・A24が手がけた、Apple Original Films『エタニティ』も、2026年2月よりApple TVで配信されている一作。北米では2025年11月に2300以上の映画館で公開されて高い評価を受けたが、日本では劇場公開が見送られていた。

「観たいものが多すぎる」と冠した本連載は、膨大なラインナップのなかで見落とされてしまった名品を掘り出していくこともひとつの役目(のはず)。今回は、このファンタジックで哲学的なロマンティック・コメディをご紹介しよう。

なにしろこの映画、主な登場人物は全員死んでいるのである。

〈永遠〉をめぐる三角関係

年老いたラリー&ジョーン・カトラー夫妻は、家族の性別発表パーティーに招かれた。ふたりは65年間連れ添ってきたが、妻のジョーンは末期がんを患っており死期も遠くない。ところがパーティーの最中、ラリーがひょんなことから命を落としてしまう。

列車の中で目覚めたラリーは、自分が一番幸せだったころの若い姿に戻っていた。死後、人々は「ジャンクション」と呼ばれる巨大な中継地点に送られ、そこで自分が〈永遠〉に暮らす世界を決めなければならないのだ。

いったい妻はいつやってくるのか――そう考えていたラリーだったが、ジョーンの到着は思いのほか早かった。

ところが、ジョーンはそこで最初の夫・ルークと再会する。ふたりは若き日に愛し合って結婚したが、ルークは戦争のため出征し、戦死を遂げたのだ。ルークはジョーンと再会するため、67年ものあいだ「ジャンクション」で彼女がやってくるのを待ち続けていた。

長い人生をともに歩んできたラリーか、叶わなかった恋の相手であるルークか。ジョーンは、死後の〈永遠〉をどちらの相手と過ごすかを選ばなければならない。

ジョーン役は『アベンジャーズ』シリーズのエリザベス・オルセン。彼女をめぐって争うラリー役を『トップガン マーヴェリック』(2022年)のマイルズ・テラー、ルーク役を『ファンタスティック・ビースト』シリーズのカラム・ターナーが演じている。

ロマンティック・コメディは演じる役者が重要だが、本作の3人は相性ばつぐんで、軽やかなユーモアのなかに、愛と人生の葛藤とほろ苦さをもたらしている。ジョーンとラリー、ルークそれぞれの組み合わせはもちろん、男ふたりのタイプの違いや、対立のさじ加減も絶妙だ。

ユーモラスに哲学する

死後に訪れる〈永遠〉をめぐるロマンティック・コメディ。よく練られたファンタジックな設定と、空想的でしゃれた「死後の世界」を具現化した美術のなか、本作はシニカルかつユーモラスに人生最後の決断を描いている。

本当に死後があるとしたら、私たちは誰と、どんな世界を生きていきたいと考えるのか? 「ジャンクション」で選択肢として提示されるのは、「ビーチの世界」や「山の世界」、「医療の世界」、「あるがままの世界」、さらには「男性のいない世界」などさまざまだ。

死んで間もないラリーやジョーンをサポートするのは、彼らの選択を手助けする「あの世コーディネーター」たち。彼らは自分の担当するクライアントを精一杯応援しているが、お役所のようにドライでシステマチックな側面もある。

商品のように与えられる〈永遠〉の選択肢と、同じように選択肢として現れるふたりのパートナー。そして、やけに世俗的な「あの世コーディネーター」たち――。本作で描かれる死後の世界はあまりにも現世そっくりだが、バカバカしくもあり、どこか作りごとのように見える。

けれども、それらはすべて現実なのだと受け入れることからしか、「人生最後の決断」は始まらない。〈永遠〉とはなにか、愛することは何か、幸福とは何か。ほかの誰かの幸せではなく、自分自身の幸せを追求するとは――。

ひねりの効いた設定のなか、意外にも哲学的な思索が繰り広げられるが、それらはロマンティック・コメディというジャンルが昔から描き続けてきたものでもある。軽い笑いのなかに、「誰と、どのように生きるのか」という人生と恋愛の機微を織り込んだ本作は、ある意味ではこれ以上ないほど王道のラブストーリーだ。

ロマンティック・コメディ、いまどこに?

この配信時評連載で、ロマンティック・コメディを取り上げることにはもうひとつ理由がある。かつて多くの作品が劇場公開されていたロマンティック・コメディは、ストリーミング時代を迎えるとともに、映画館からほとんど姿を消してしまったジャンルだからだ。

カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の調査によると、2025年に主要ストリーミングサービスが配信した英語のオリジナル映画89本のうち、最多ジャンルは「コメディ」の31.5%。全28本のうち、じつに18本がロマンティック・コメディだった。

また、2025年の主要劇場公開作品109本をジャンル別に見ると、最多は「ホラー」の20.2%だが、「コメディ」は14.7%にとどまっている。

コロナ禍のために観客が映画館を離れ、配信プラットフォームの存在感が増したあと、映画館で公開されるのは大作アクションやファミリー映画などが中心となり、コメディとラブストーリーの数は大きく減った。その両者をかけ合わせたロマンティック・コメディは、ほとんど否応なく配信の世界に軸足を移さざるをえなかったのである。

この『エタニティ』は、アメリカでは大規模な劇場公開が行われた貴重な一作だった。しかし、日本ではApple TVのラインナップにさらりと加えられ、あまり多くの映画ファンに届いていないように見える。これだけ細部まで作り込まれ、実力確かな俳優陣を起用してもなお劇場公開が叶わなかったところに、ロマンティック・コメディの現在地がある。

しかし、劇場公開の機会が減ったことと、作品としての強度のあいだに一切関係はない。本作も一見すると小品だが、ユニークな設定と演出が観る者の想像力をかきたて、普遍的な問いへと思考を誘ってくれる一作だ。ぜひ気軽に楽しんでほしい。