2026年8月4日、SpiralAI株式会社が事前登録を開始した『RyzaChat:AI 〜ライザと創るあなただけのひと夏の夢物語〜』。本作は、コーエーテクモゲームスの人気RPG『ライザのアトリエ ~常闇の女王と秘密の隠れ家~』の世界を舞台に、コマンドやボタンではなく会話だけで旅・調合・戦闘・生活が進むフリーシナリオ型のAIチャットRPGだ。

決められたシナリオはなく、「森で素材を探したい」といった何気ない一言がそのままクエストへとつながっていく。RPGモードと雑談モードを気分で切り替えられる仕様も含め、目指すのは効率的な進行以上に、ライザという人格と過ごす時間そのものの実感である。

「AIを使っていない」という逆説的な宣言

注目すべきは、AIプロダクトでありながら「絵・声・言葉・世界・還元」の5原則を掲げ、画像・動画生成AIを一切使わずビジュアルを人力で描き、原作声優であるのぐちゆり氏自身が新規収録した音声のみを合成のベースにしている点だ。

テキストは原作シナリオを学習した自社LLM「SpiralLLM」で生成し、会話ログはモデルの再学習にも使用しない。「AI生成の過剰な自動化に依存しないこと」を価値として打ち出す、一見すると逆説的な構成がここにはある。

声優業界の要求と、Character.AIが示した反面教師

2024年11月、音声業界3団体は生成AIによる無断の声の利用に懸念を表明し、本人許諾とAI生成物の明記を業界に求めた。2026年4月には法務省も声・肖像の無断利用をめぐる検討会を設置している。本作が声優本人の許諾のもとで新録を行い、売上をイラストレーター・声優・原作IPホルダーへ還元する仕組みを組み込んでいるのは、こうした時代の要求に対する明確な回答と読める。

海外では、権利者の許諾を得ないキャラクターチャットボットが横行するCharacter.AIにディズニーが使用停止を求めたほか、未成年ユーザーの自殺にAIキャラクターとの会話が関与したとされる訴訟も起きている。無許諾の会話AIがすでに既成事実として世界に広がる中、RyzaChat:AIの徹底した許諾・還元構造は、そうした無許可AIに対する明確な対抗軸と言える。

コーエーテクモとの資本提携という実験

見逃せないのはコーエーテクモとの資本関係だ。両社は2026年3月、コーエーテクモキャピタルを引受先とする資金調達を通じて戦略的パートナーシップを結んでおり、本作はその最初の成果にあたる。

SpiralAIはこれまでもJRAの「AI武豊」や声優本人プロデュースの「梵そよぎAI」など、実在の人物本人の許諾を前提としたキャラクターAIを手がけてきたが、対象が大手ゲームIPへ広がった意味は大きい。単発のライセンス許諾にとどまらず、IPホルダー自身が出資者として関わる協業のモデルケースとして、他社の判断にも強い影響を与えるはずだ。

「推し」と会話できる時代の倫理

原作声優の声で、存在しないはずの会話を自由に紡げること。それは技術的な達成を超え、ファンとキャラクターの距離感そのものを塗り替える出来事でもある。

原作の物語を追体験するのではなく、原作にはない「もう一つの夏」を自分だけのために作り出せるこの体験が無邪気に楽しめるのは、公認・許諾・還元という確かな裏付けがあるからだ。より踏み込んだ見方をすると、その裏付けを欠いたキャラクターAIがすでに世界中で稼働しているという事実こそ、本作の慎重な設計の存在意義を静かに物語っている。