出版界の重鎮たちから絶賛された新人作家のデビュー小説の200万ドル超の出版契約が、AIが執筆に関与した疑惑が浮上し、破談となった。著者はAIの使用を否定しており、自身の著書に対する業界の反応には人種的偏見が反映されていると主張している。英紙ガーディアンなどが7月31日伝えた。
情報筋によると、ジェリー・ファラデ氏のデビュー小説『Call Me, I’ll Hide the Body』は、米国で14社が入札に参加し、英マクミラン出版社の米レーベル「ミノタウロスブックス」が続編を含めて240万ドルで落札。他地域でも複数の巨額オファーを獲得していた。当初は2028年に出版される予定だった。
ファラデ氏の代理人は、出版社宛ての電子メールの中で、当初、原稿の執筆や編集にAIが使用されていないという著者の保証を信頼していたが「もはやそれを立証できなくなった」ため、出版を取りやめることにしたと説明。一方で「執筆の経緯がどうであれ、素晴らしい作品であることに変わりはない」としている。
出版業界では、著者、エージェント、出版社が、原稿におけるAI使用の疑いへの対処法に苦慮しており、こうしたAI使用疑惑による出版の取りやめが相次いでいる。
(文:坂本 泉)
榎本編集長「今回の破談で最も考えさせられるのは、代理人が残した一言だ。「執筆の経緯がどうであれ、素晴らしい作品であることに変わりはない」。重鎮たちが絶賛し、14社が240万ドル(約3億8,000万円)で競った物語の力は、疑惑の後も否定されていない。それでも本は消える。読者は面白さで選ぶ一方、出版契約は「どう書かれたか」への信頼で成り立つ——この二つの軸のずれが、むき出しになった形だ。
しかも今回は、使った証拠ではなく「不使用を立証できない」ことが破談の理由だった。
ここで参考になるのが、美術や写真の世界かもしれない。スケッチや撮影データが作品の真正性を支えてきたように、文章でも下書きの履歴や推敲の変遷といった「制作の足跡」が、書き手自身を守る時代になるのかもしれない。疑い合いより、証明の作法を整える方が建設的に思える。」














