サウジアラビアのEsports Foundation(EF)は8月18日、11月にリヤドで初開催する予定だった国別対抗のeスポーツ大会「Esports Nations Cup(ENC)」を、2027年11月へ1年延期すると発表した。地域情勢の継続的な評価と主要関係者との協議を経た判断で、開催地はリヤドのまま据え置く。
ENCは隔年開催の新設大会で、Apex Legendsやストリートファイター6、SNKの『餓狼伝説 City of the Wolves』、チェスまで16タイトルを採用。選手はクラブではなく国・地域を背負って戦う。すでに100を超える国・地域が公式パートナーとして名を連ね、10万人規模が出場枠を争う予選も各地で動き出し、日本では6月にVALORANT代表7名が発表されたばかりだった。
「移せる大会」と「移せない大会」
同じEFは約3カ月前、正反対の対応をとっている。クラブ対抗の「Esports World Cup(EWC)」2026は5月、中東情勢を受けて開催地をリヤドからパリへ移した。開催地を世界に巡回させる構想の前倒しという説明で、日程自体は動かさなかった。今回のENCはその逆で、日程を動かし、開催地を守った。
EWCは世界中のクラブが集う興行であり、会場が変わっても商品性は大きく損なわれない。だがENCは、サウジが自国を舞台に各国の代表団を迎える構図そのものが価値の中核にある。リヤドから切り離した瞬間、サウジにとっての意味が失われる。移設ではなく延期しか選べなかったのは、そのためだ。
実務上の制約も無視できない。日本の外務省はリヤド州の危険レベルを一時引き上げ、6月下旬の引き下げ後も「不要不急の渡航は止めてください」を維持する。代表団を送るのは各国の協会など公的性格を帯びた団体であり、政府の渡航基準から自由ではない。クラブが自己判断で動ける大会と、国が動かねばならない大会とでは、リスクの重みが違う。
IOCが去った後に残った空席
背景には、サウジのeスポーツ戦略がこの一年で受けた打撃がある。同国は「ビジョン2030」の一環として2030年までのゲーム産業ハブ化を掲げ、2024年からEWCを毎年開催してきた。
その総仕上げとなるはずだったのが、2024年7月に国際オリンピック委員会(IOC)が全会一致で承認した「オリンピックeスポーツゲームズ」のサウジ開催であり、12年契約まで結ばれた。ところが2025年10月、IOCは契約を解除して開催を見送る。2026年に入るとIOCのeスポーツ専門委員会も解散され、案件はコベントリー会長の執行部直轄に移された。
国際競技としての正統性をオリンピックから調達する道が当面遠のいた以上、サウジは自前で「国を背負う舞台」を用意するほかない。ENCはその役割を担う。総額4500万ドルのうち2000万ドルを各国パートナーへの育成基金に充てる設計は、単発の興行ではなく各国協会との長期関係を買う投資である。EFが延期発表と同時に基金の履行継続を明言したのは、この関係が大会本体より重いからだ。
2027年に集中する賭け
延期先の2027年11月は、本来オリンピックeスポーツゲームズが開かれるはずだった年だ。同年1月にはAFCアジアカップがサウジで開幕し、EWCもリヤド復帰の意向を示している。大型イベントが一年に集中しかねない構図は、情勢が再び動けば損失も集中することを意味する。
日本にとっては、日本eスポーツ協会が国別対抗の世界大会で代表団を編成する初の機会が1年先送りになった。選出済みの選手には空白の一年が生じ、支援に名を連ねた国内クラブも計画の組み直しを迫られるだろう。サウジの国家戦略の時計に、各国の代表制度が同期させられている。ENC延期が可視化したのは、その依存関係の深さである。














