「ウィン or ルーズ」ディズニープラスで独占配信中 © 2026 Disney/Pixar

ディズニー&ピクサー映画『トイ・ストーリー5』が、日本で記録的ヒットとなっている。2026年7月3日に公開されるや、週末3日間で動員164万人、興行収入24億1510万円を記録。実写作品を含む、洋画のオープニング歴代記録を更新した。

『インサイド・ヘッド2』(2024年)や『私がビーバーになる時』(2026年)でも優れた作品性を見せつけた近年、ピクサーは新たな黄金期に突入しているようだ。

今回取り上げるのは、そんなピクサーが2025年にリリースするも、日本では見落とされているた傑作「ウィン or ルーズ」。長編映画を中心に手がけてきたピクサーが挑んだ、初の長編オリジナルシリーズだ。

全8話、異なる視点で描く一週間

中学生ソフトボールチーム「ピクルス」が、トーナメントの決勝戦を迎える一週間前。コーチの娘である12歳のローリーは、お世辞にも上手な選手とはいえないが、父親に認められたい一心で懸命に努力を続けていた。

チームメイトの友人たちに支えられ、特訓を重ねてきたローリーは、失敗したくない、いいところを見せようとするほど、不安に襲われる。彼女のかくイヤな汗は、かたまりのような生き物になり、彼女にまとわりつき始めた。そして迎えた決勝戦当日、プレッシャーが最高潮に高まったローリーは。

この第1話「コーチの子」は、ひとりの少女と、彼女の不安を擬人化したキャラクターが織りなす『インサイド・ヘッド』(2015年)風の短編。全8話からなる「ウィン or ルーズ」は、各話およそ20分という短い時間で、チームに関わる人々のそれぞれに焦点を当て、決勝戦までの一週間を異なる視点から描き出す。

審判を務める教師フランクは、選手や親たちからの非難に耐えながら、よりよい人物であろうと努めているが、私生活では恋人を失った寂しさが拭えない。中心選手ロシェルは文武両道の優等生だが、家庭に経済的余裕はなく、チームへの参加費を自力で稼ごうとする。その母ヴァネッサは明るい性格だが、SNSやライブ配信にのめり込み、ロシェルの目には立派な大人に見えない。

また、チームのショートを務めるテイラーは、お調子者のユウェンと付き合い始めたばかり。テイラーの幼い弟アイラは、姉をチームと彼氏に取られたように感じ、ひとり空想の世界にひたっている。転校生のカイ、そしてローリーの父親であるコーチのダンにも、それぞれの物語がある。

現実的でシビアなストーリーをポップに描く

登場人物のほとんどが主人公であり、視点が違えば、見えている世界も違う。監督・脚本のキャリー・ホブソン&マイケル・イェーツは、ともに『トイ・ストーリー4』(2019年)に携わったとき、出来事の捉え方が反対であることに気づいたという。片方が「いい会議だった」と感じたとき、もう片方は「最悪だった」と感じる、そんな経験が本作につながった。

「ウィン or ルーズ」に登場するのは、オモチャやモンスター、クルマでもなければ、人間の感情や魂でもない。普遍的なテーマをファンタジーやおとぎ話に落とし込んできたピクサーにとって、本作はかなり現実的でシビアな内容だ。

なにしろ、物語の舞台は現代の学校や家庭。子どもたちはスマートフォンやSNSに慣れ親しんでおり、親や教師にすべてを見せることはない。大人たちも秘密や事情を抱え、本音をさらけ出せないまま、窮屈な日常生活を送っている。

不安、焦り、重圧、孤独、怒り、葛藤――。しかし本作は、そうした繊細な心理をポップかつ多彩なアニメーションで紡ぎ出す。各エピソードにはビジュアルのアイデアがたっぷりと詰め込まれており、見ているだけで楽しい作りだ。

不安は汗のキャラクターに変わり、マッチングアプリはアナログゲームのよう。子どもたちのデジタルコミュニティはクールなアバターになり、ライブ配信で「いいね」が押されるとスマホからハートが飛び出す。やんちゃで男らしい少年の心配や脆さは、ハンドメイドのような手ざわりの内面世界で動き回る。

短編製作で培われたピクサー流ストーリーテリング

長編映画の練られたストーリーテリングに定評があるピクサーは、この長編シリーズでも卓越した構成力の高さを発揮。優れた短編として成立している各エピソードが鮮やかにつながり、アニメーションのスタイルをもひとつに収斂していく。

第1話と第8話では、決勝戦のグラウンドがまるで異なる風景に見える――まさに、ピクサー流群像劇の醍醐味だ。

そもそもピクサーは、古くから短編作品を得意とするスタジオだ。『ルクソーJr.』(1986年)では表情のないランプに動きだけで感情を宿し、『ティン・トイ』(1988年)では『トイ・ストーリー』(1995年)に先がけて、オモチャの視点から人間を見つめた。

すなわちピクサーにとって、短編とは、常に独創的なストーリーテリングの実験場だったのだ。フィルムメイカーが新たな物語と表現を模索する場でもあり、『あの夏のルカ』(2021年)のエンリコ・カサローザ監督は『月と少年』(2011年)で、『私ときどきレッサーパンダ』(2022年)を手がけたドミー・シーは『Bao』(2018年)で自らのスタイルを探った。近年の短編プログラム「スパークス 奇跡の瞬間」(2019年~)もそうした実験の例外ではない。

ピクサーの過去・現在・未来

いわば「ウィン or ルーズ」は、ピクサーが長い時間をかけて培ってきた短編ストーリーテリングのノウハウを、長編シリーズの形式に発展させた作品だ。そこには単独作品としての味わいはもちろんのこと、ピクサーというスタジオの歴史さえも見て取れる。

孤独な弟アイラの想像は、落書きのような線で現実に侵食し、手描き風のアニメーションとして画面上に広がる。その手つきは、最新作『トイ・ストーリー5』における子どもたちの想像力――彼らがオモチャを使う「ごっこ遊び」の表現にも通じている。本作における短編的な実験が、早くも最新の劇場映画に活かされているかのようだ。

ここには、ピクサーの過去・現在・未来がある。アニメーション製作のノウハウとアイデア、社会を見つめる視線、そして未来の創作につながる実験。

「ウィン or ルーズ」は、配信&長編シリーズという枠組みで、スタジオの新たな局面を切り開いた意欲作だ。配信開始からは一年以上が経過しているものの、ピクサーが映画館で『トイ・ストーリー』という看板シリーズを更新している今こそ、改めて押さえておきたい。