1ヶ月前の2026年6月13日(土)に行われた、Music Awards Japan(MAJ)。PREMIERE CEREMONYからGRAND CEREMONYまで、丸一日かけて全部観てきました。
全78部門のうち、アイドル(ダンス&ボーカルグループを含む)が受賞したのは18件。

会場で受賞を整理しながら、帰り道でずっと頭から離れない問いがありました。
「MAJはアイドルにとって、どういう意味を持つ賞なのだろう?」
今日はこの問いを、アイドルを推す一人のファンの目と、それを「ビジネスとしてどう見えるのか」のもう一つの目、その両方から考えてみたいと思います。
本記事では、いわゆる”アイドル”だけでなく、ダンス&ボーカルグループの文脈で評価されるグループも、広めに含めて見ていきます。
はじめに——本日から、MEDIAMIXIのオフィシャルライターになりました
本題に入る前に、少しだけ自己紹介をさせてください。
私はこのMEDIAMIXIで、本日からオフィシャルライターとして連載を持たせていただくことになりました。アイドル評論家の望月優夢(もちづき ゆうむ)と申します。
私は2023年から広告代理店でクリエイティブプランナーとして働き、「推し活」文脈の企画を複数手がけてきました。そして今年7月、活動の場を移し、現在は執筆活動のほか、そしてアイドルの企画・アドバイザリーといったお仕事をいただきながら、「アイドルをビジネスの視点で考える」ことを軸に活動しています。これまでnoteで続けてきた連載『#アイビズ』は、おかげさまで累計30万PVを超え、Xでの発信も月間で最大1,417万インプレッションに届きました。
私の軸は、三つの目です。アイドルを追いかける「ファン」の目、かつてバックダンサーやダンスで全国大会の舞台に立った「演者」の目、そして広告の現場で”人はどうやって何かを好きになるのか”を考えてきた「プランナー」の目。この三つを行き来しながら、アイドルという文化を読み解いていきます。
この連載でやりたいのは、「推し」や「アイドル文化」を、もう一歩引いた「ビジネス」の目線で読み解くこと。そのため連載名を『望月優夢のアイビズスコープ』にさせていただきました。アイドルが好きな人はもちろんですが、どちらかというとふだんアイドルにそれほど興味がない方にこそ、「ヒットってこうやって生まれるのか」「ファンを増やすって、こういうことなのか」と、ご自身の仕事や関心に引きつけて楽しんでもらえる連載にしたいと思っています。
その1本目に、MAJを選びました。理由は、読み進めるうちに分かっていただけるはずです。
そもそも、アイドルは「賞に恵まれにくい」存在だった
まず、ひとつ前提を置かせてください。当たり前のように聞こえるかもしれませんが、実はあまり共有されていない感覚だと思います。
日本のアイドルは、今これだけ大きな存在感を持っているのに、長いあいだ「賞」という制度では主役になりにくい存在でした。
CDは売れる。握手会には人が並ぶ。東京ドームはもちろん、国立競技場でも満員でライブをする。チャートの上位にも入る。SNSではバズりまくっている。なのに、いざ「その年の音楽の頂点」を選ぶ賞になると、なかなか中心に来ない。これは印象論ではなくて、実績を並べると、わりとはっきり見えてきます。
たとえば日本レコード大賞。2010年代は、アイドルが堂々の主役でした。AKB48は2011年・2012年に大賞を連覇し、乃木坂46も2017年・2018年に大賞を獲っています。ところが近年は様子が変わります。大賞は、Mrs. GREEN APPLEが2023年「ケセラセラ」、2024年「ライラック」、2025年「ダーリン」と3年連続で受賞。「その年の頂点」は、いまバンドやアーティストが占めている。一方で、新人を讃える「最優秀新人賞」では、アイドルやダンス&ボーカルグループも存在感を見せています。2023年(第65回)にはKAWAII LAB.のFRUITS ZIPPERが、2025年(第67回)にはHANAが受賞しました。
ここに、賞という制度がアイドルをどう扱ってきたかが、きれいに表れています。「これから売れていく若手」としては評価する。でも「その年の頂点」としては、近年なかなか認められなくなった。 これが、今国内で見たときのアイドルの「賞に恵まれにくさ」です。
MAJは、アイドルの「賞の恵まれにくさ」を変えにきた賞
さて、ここでMAJの話に入ります。
MAJ(ミュージック・アワーズ・ジャパン)は、日本の音楽業界の主要5団体が2024年に手を組んで立ち上げた、いわば「日本版グラミー賞」です。第1回は2025年に京都、第2回は2026年に東京で開催されました。CDの売上ではなく、ストリーミングやチャートを基準にし、昔の曲や海外のヒットまで対象に含めるのが特徴です。
そして、ここがアイドルファンとして一番注目したいポイントですが、2026年時点のMAJには「ボーイズアイドルカルチャーアーティスト賞(グループ/ソロ)」「ガールズアイドルカルチャーアーティスト賞(グループ/ソロ)」「ボーイズアイドルカルチャー楽曲賞(グループ/ソロ)」「ガールズアイドルカルチャー楽曲賞(グループ/ソロ)」「 K-POP アーティスト賞」「最優秀 K-POP 楽曲賞」という、アイドル専門の部門が用意されています。もちろんこの他にもアイドルがノミネートされている賞はありますが、アイドル専門の部門がこの6つになります。
これ、考え直してみると画期的なことではないでしょうか。
そもそも「アイドル」という形式は、世界的に見るとかなり日本に固有のものです。アメリカに、日本的な意味での「アイドル」はほとんどいない。海外で名前が通るのは、BABYMETALや新しい学校のリーダーズ、XGのように「アーティスト」として越境していった方たちか、あるいはBTSやKATSEYEのような、世界的に人気を持つK-POPの文脈の方たち。
いわゆる”日本のアイドル”そのものは、海外にはまだ存在しないのです。
だから、世界の音楽賞に「アイドル」という箱が無いのは、ある意味で当然ではあると思っています。世界最高峰のグラミー賞も、アイドル部門は持っていません。2027年開催の「第69回」から、ようやくK-POPやJ-POPなどアジア発ポップスを対象とした「最優秀アジアン・ポップ・ミュージック・パフォーマンス賞」が新設されますが、世界的な人気を誇るBTSでさえ、これまで3年連続でノミネートされながら、いまだ受賞には至っていません。
その前提を踏まえると、MAJが「ボーイズアイドル」「ガールズアイドル」という部門を正面から作ったことの意味が、立体的に見えてきます。「世界のどの賞も箱を持っていない”日本ネイティブな形式”を、一級の評価対象として扱う」MAJは、それをやってのけたわけです。その上で2026年には、男性グループのM!LKが5冠を達成し、大きな話題を呼びました。
「アイドルにスポットが当たる賞がついにできた」。そう書いて終えてもいいくらい、これは前向きな出来事です。
ただ、私がこの連載の1本目でMAJを選んだ理由は、その先にあります。それを語るために、まずは「MAJがどう作られているか」を見ておく必要があります。
MAJはどう作られているのか——ラジオで明かされた設計思想
正直に言うと、会場で受賞を眺めているだけでは、「で、この賞ってどうやって決まっているの?」が、よく分かりませんでした。その答えを一番くわしく知ることができたのが、一本のラジオでした。
「サカナクション 山口一郎のオールナイトニッポン」。MAJで最大の8冠を受賞されたサカナクション。MAJの授賞式後の放送回では、MAJの基本設計に携わったオミさんをゲストに招き、MAJの投票者でもあるサカナクションの山口さんが聞き手にまわって、設計の中身を一つひとつ引き出していく、という構成でした。Xでも賛否両論話題になっていた気になるところを、リスナーの声として山口さんが拾ってそのまま質問してくださったおかげで、設計思想がとても分かりやすく見えてきた回で大変興味深かったです。
以下、オミさんが語っていた内容を整理します。MAJの選考は、ざっくりこういう流れだそうです。
- 入口はデータ:エントリー楽曲は、基本的にBillboardの定量データ(CD・ダウンロード・ラジオ・ストリーミング・MV・カラオケなど)をもとに作られる。誰かの主観で選ぶのではなく、まずデータで候補を抽出する設計。
- 決めるのは5000人以上の音楽人による投票:そこからノミネート→受賞を、実際には5000人以上の「音楽の現場にいる人たち」が投票で決める。アーティスト、作詞・作曲・編曲家、レコード会社、マネジメント、評論家、ライブ制作、海外関係者まで含む。
- 作り手の票は重い:アーティストやクリエイターの票は、通常の1票より重く扱われる(2倍)。かつ2票入れられる権利がある。実際に音楽を作っている人の評価を重視したい、という思想。
- 組織票が効かないように設計されている:レコード会社には社員数に応じた投票枠が割り振られるが、上限がある。大手であっても5000人の中ではごく一部にしかならず、会社ぐるみで自社アーティストに入れても、それだけで結果を左右できない。
- 透明性は外部監査で担保:誰が誰に投票したかは分からない匿名設計で、システムにはデロイト トーマツが外部監査として入っている。理事や関係者であっても、投票データを自由に見たりいじったりはできない。
- 1年を7期間に分ける:1月リリースの曲は数字が積み上がりやすく、12月の曲は不利。そこで年間を7つの期間に分け、リリース時期の有利不利を減らしている。
この設計を、アイドルの文脈に置き直すと、一本の補助線が引けます。
MAJは、「動員」が効かないように作られた賞
アイドルの商業的な成功は、長いあいだ「動員」とセットで語られてきました。ファンが一斉に同じCDを積む、組織的に同じ曲を推す、そのファンダムの一斉行動でつくる数字こそが、アイドルの強さであり、同時に「実力とは別物」と見なされてしまうこともある要因でもありました。
ところがMAJは、入口をデータに、出口を投票に置き、しかも組織票が効かないように上限まで設けている。つまり、アイドルがこれまで一番得意としてきた「動員で数字を作る」というやり方が、構造的に通用しない。
だとすると、MAJでアイドルが受賞するということは、「動員の外」で認められた、ということになる。ここが、今年のアイドルの受賞を読み解く、一番のカギだと私は思っています。
だから、この2組の受賞は「納得」だった——M!LKとHANA
その目で見ると、今年とくに面白かった2組、M!LKとHANAの受賞が、ぐっと立体的に見えてきます。
複数受賞という意味では同じなのに、評価された方向が、ちょうど逆を向いているのが面白かったです。
M!LK——「1曲をどこまで広げたか」(横の広がり)
アイドルの中で受賞数が一番多かったのはM!LKで、5部門。そのうち4部門が「好きすぎて滅!」という1曲によるものでした。なかでも私が注目したいのは、ファンの「動員」のみで押し込みにくい、次の3つです。
① 最優秀バイラル楽曲賞(=SNS上で拡散された曲)
② カラオケ特別賞(=DAMとJOYSOUNDで最も歌われた曲)
③ ファミリーソング特別賞(=「みてね」で家族が選んだ曲)
ここ、よく見てほしいんですが、この3つは、いずれも「動員」で押し込みにくい場所と感じます。
バイラルは、組織化された拡散ではなく、桁違いに広がっている状態。カラオケも、ファンだけが歌っても数字になりません。サビしか知らない曲は、そもそも歌えない。一般の人が「1曲まるごと歌える」状態になって、初めて数字が出ます。ファミリーソングに至っては、家族アルバムアプリ「みてね」での投票、つまり家庭という、ファンダムとは異なる場所で選ばれた曲です。
楽曲のヒットは、通常どれか一つの指標が強く出ることが多いと思います。SNSでバズったけどカラオケでは歌われない、バズっても世代を越えない(お父さん世代は知らない)、とか。でも「好きすぎて滅!」は、SNS・カラオケ・家庭という、性質も世代もバラバラの場所で、同時に数字を出している。
これは、ファンの「好き」が、ファンの外側の「生活」にまで漏れ出した証拠です。一過性のバズではなく、生活の中に定着していくヒットの形。M!LKは、動員の外に最も広く届いたアイドルだった、ということだと思います。
HANA——「楽曲群の厚みでどれだけ揃っているか」(縦の厚み)
もう一組がHANA。HANAは3部門での受賞でした。
① 最優秀ニュー・アーティスト賞
② 最優秀ダンス&ボーカルアーティスト賞
③ 最優秀ダンス&ボーカル楽曲賞
注目したいのは、③の楽曲賞にHANAだけで5曲がノミネートされ、その中から「BLUE JEANS」が受賞したという事実です。
5曲ノミネートというのは、「当たった曲が1曲ある」という話ではありません。アルバム単位・カタログ単位で、楽曲の質が揃っていることの証明です。
M!LKが「1曲がどこまで広がったか」で勝ったとすれば、HANAは「アーティストとしてどれだけ層が厚いか」で目立った。横の広がりに対して、縦の厚み、というわけです。
しかもデビューからの時間を考えると、この「最初からカタログで勝負できる」状態は、かなり早い。デビュー1年間、ほぼ毎月のように新曲をリリースしてきた成果が、こういう形で表れたんだろうなと思いました。
1曲の横の広がりで勝ったM!LK、新人ながらすでに楽曲群の縦の厚みで勝ったHANA。性質の違う2つの「勝ち方」が並んで見えたところに、今のアイドル(ダンス&ボーカル)の面白さが出ていた気がします。
正直に言うと、ひとつ引っかかっている
ここまで読むと、「MAJ最高じゃん、アイドルも評価される時代が来たね」で終わりそうなんですが、まだ一つ引っかかっていることがあります。
「5000人の音楽関係者は、本当に「アイドルを理解して」投票しているんだろうか?」という疑問です。
念のため書いておくと、これはMAJや関係者をディスりたいわけでも、誰かの受賞にケチをつけたいわけでもありません。MAJの設計は本当によくできていると思っています。
ただ、現地に行った一人のアイドルファンとして、肌で感じてしまったことがありました。
レッドカーペットを取材するメディアの方々を見ていても、どのグループがどのアイドルなのか、すぐには結びつかない場面が、少なくありませんでした。これは無理もないことだと思います。今のアイドルシーンは層が厚く、普段から追っていないと、外からはグループの違いが見えにくい。
そして、これは音楽業界のなかでも同じだと思うのですが、他社のアイドルや、まだメジャーデビューしていないアイドルまで含めて深く知っている人は、当然そう多くありません。
これは誰のせいでもなく、人は自分の専門の外まではなかなか追いきれない、という、ごく自然な話です。かくいう私自身も、アイドルについては幅広く追って理解しているつもりですが、ほかのジャンルの機微となると、まだまだ勉強中の身です。
ここで、M!LK・HANAとは別の角度から見たいのが、いわゆる「カルチャー系」の部門です。楽曲単体のチャート数字というより、「現象としてのアイドルそのもの」を評価するこうした賞は、評価する側にこそ一番”アイドルへの解像度”が求められる領域だと思います。
そのとき投じられた一票が、「このグループの何が新しく、何が他と違うのか」まで踏まえた評価なのか、それとも「一番よく名前を聞いたから」なのか。はたまた、「あまり詳しくないから」で投票を控えていなかったか。知名度の先行と、理解にもとづく評価は、似て非なるものです。ここは、まだ見えにくい部分だと感じています。
アイドルの理解度への課題は「伸びしろ」だ
と、ここまで引っかかりを書いておいてなんですが。私はこれを、ネガティブな話だとは思っていないです。むしろ逆で、ものすごく大きな伸びしろだと思っています。
ファンは、推しの違いが秒で分かる。同じ系統のグループが10組並んでも、立ち位置も、強みも、文脈も、ちゃんと区別できる。一方で、世間的には、まだそれが読めない。
「ファンの解像度」と「業界・世間の解像度」のあいだに、大きなギャップがある。
MAJがやっているのは、アイドルを評価する舞台を、業界の総意として用意したこと。これは本当に大きい。でも、その舞台の上で起きていることの「意味」を翻訳して、客席に届ける仕事は、まだ誰のものでもなく、空いています。
そして、ここにアイドルを語る評論家や書き手の仕事があると思うのです。
「このグループは、他のアイドルと何が違うのか」そういう、ファンにはとっくに自明かもしれないけども外からは見えにくい違いを、きちんと言葉にして、ファンの外の人にも届くように翻訳していく。
それができれば、「近いビジュアルが並んで区別がつかない」状態は、少しずつ「それぞれの面白さが分かる」状態に変わっていくはずです。
MAJでアイドルが評価されたこと自体が嬉しい、で終わるのではなく、その評価を、業界と世間が”ちゃんと読める”ようにしていくこと。この連載でこれからやっていきたいのは、そこだなと、今年のMAJを観て、あらためて思いました。
おわりに
今年のMAJを、「アイドル」というトピックに絞って、ファンとビジネス、両方の目で振り返ってみました。
整理すると、MAJは「動員が効かない設計」によって、アイドルを”実力”で測れる初めての舞台を作ってくれた。M!LKは横の広がりで、HANAは縦の厚みで、その舞台でちゃんと爪痕を残された。一方で、その評価を支える業界や業界外の「アイドル解像度」には、まだ伸びしろがある。そしてそのギャップこそ、私のような書き手が立つべき場所なんじゃないか——というのが、今日の結論です。
MAJは、まだ2回目の、若い賞です。だからこそ、これから毎年、この賞がどう育っていくのか、そしてアイドルがそこでどう評価されていくのかを、定点観測として追いかけていきたいと思っています。
この連載では、これから「アイドル」と「ビジネス」が交わる場所を、いろんな角度から掘っていきます。
本日は「MAJをアイドル視点で見る」という切り口と、この記事を書く意義のような話をしたので、あまりビジネス的ではなかったと思いますが、今後、「へえ、そんな見方があるのか」と思ってもらえるような話を持ってくるので、よかったらまた読みに来てください。
それでは、また次回。














