アップルは4月20日、9月1日付でハードウエアエンジニアリング担当シニアバイスプレジデントのジョン・ターナス氏がCEOとなり、ティム・クック現CEOが会長(エグゼクティブ・チェアマン)に就任すると発表。かねて次期CEO候補の筆頭とされてきたターナス氏の素顔について、各メディアが報じている。
ターナス氏(50歳)は25年前に入社し、過去5年間はiPhone、iPad、Macを支えるエンジニアリング部門を統括してきた。同氏についてクック氏は「エンジニアの頭脳とイノベーターの魂、そして誠実さと名誉をもって組織を率いる心を持っている。アップルを未来へと導くにふさわしい人物だ」と評価した。
ターナス氏は1997年にペンシルベニア大学を機械工学専攻で卒業。学生時代には大学代表の水泳選手として活躍していた経歴を持つ。卒業して4年間はバーチャルリアリティ(VR)ヘッドセットの開発企業バーチャル・リサーチでエンジニアとして勤め、2001年に設計チームのエンジニアとしてアップルに入社した。2024年の同大学工学部卒業式での祝辞では、アップル入社初日に「自分があの場所(アップル)にふさわしいのか確信が持てていなかった」と吐露する、人間味を感じる場面もあった。
今回の人事について、ブルームバーグは、単独で決断を下すよりも合意形成を重視するタイプのクック氏に対し、ターナス氏には故スティーブ・ジョブズ氏のような決断力が期待されていると分析。社内で「ハードウエアの専門家」として知られるターナス氏のマネジメントスタイルは伝統的で、明確かつ率直な判断を下すことをいとわないという。また、ターナス氏にはカリスマ性があり、アップルの熱心なファンから高く評価されているほか、クックCEOからも信頼されていると伝えている。
AP通信は、アップルがAI競争で後れを取る中、取締役会がiPhoneに代わる主力製品となり得るAI搭載デバイスの開発を目指すに当たり、ターナス氏のハードウエア分野での経歴が重要な強みとみなされた可能性を報じた。
なお、アップルはクック氏が会長として「世界中の政策決定者たちと連携する」役割を担うことになると言及。英ガーディアン紙は「同巨大企業内での巧みな政治手腕で知られている(ウォール・ストリート・ジャーナル紙)」ターナス氏だが、対外的な経験が乏しいため、米中貿易戦争におけるグローバルサプライチェーン維持を巡る交渉でも成果を出すなど「テクノロジー業界を代表する外交官(ニューヨーク・タイムズ紙)」と称されるクック氏が引き続き、アップルの対外戦略を統括することになるとの見方を示した。
ブルームバーグによると、4月21日に開かれたアップルの全社ミーティングで、クック氏は自身の健康状態が「良好」であり、今後も長期間にわたり会長職を務める予定だと発言。一方のターナス氏は「とりわけこのタイミングでこの役職に就くことができて胸が躍っている。なぜなら、われわれはまもなく再び世界を変えることになるからだ」と抱負を語った。
(文:坂本 泉)
榎本編集長「ティム・クックからジョン・ターナスへ——アップルのCEO交代が発表された。私はかつて「NEXT BIG THINGS」という本でスティーブ・ジョブズの生涯を小説化したが、ジョブズが最も執着したのがハードウェアの「手触り」だった。
その意味でターナス氏の登場は興味深い。iPhone・iPad・Macのエンジニアリングを25年統括してきた「ハードウェアの人」が、AI競争で後れを取るアップルを率いる。ブルームバーグが「ジョブズのような決断力」と表現した人物像は、合意形成型のクック氏とは対照的だ。
「まもなく再び世界を変えることになる」という就任の言葉は、ジョブズが新製品発表で使った言葉と響きが重なる。AI搭載の次世代デバイスという「iPhoneに代わる主力製品」の開発こそが、ターナス氏に課せられた最大のミッションだ。
クック氏が対外交渉を担い、ターナス氏が製品開発に集中する役割分担は、ジョブズとスカリーの逆転版とも読める。エンタメ×ITの最前線を届けるメディアとして、この人事は見続けていきたい。」














