今年のエミー賞を席巻したのは、〈呪われた島の怪談〉だった。
Apple TVのドラマ「ウィドウズ・ベイ」は、第78回エミー賞で19部門にノミネートされ、計14部門を受賞。コメディシリーズとしては単一シーズンの最多受賞記録を更新し、作品賞・主演男優賞・助演男優賞・助演女優賞・脚本賞・監督賞の主要6部門を制覇した。
エミー賞でもっとも高い評価を受けたコメディ――そう聞いて、どんな作品を想像するだろうか?
「ウィドウズ・ベイ」は抱腹絶倒の爆笑喜劇ではなく、かなり独特なホラーコメディ。恐ろしさとイヤな空気を漂わせつつ、ときどき乾いたユーモアを差し込む、尖った作家性が冴えたジャンル作品だ。
呪われた島に、観光客がやってくる
ニューイングランド沖、およそ40マイルに浮かぶ小さな島ウィドウズ・ベイ。携帯電話はつながりにくく、Wi-Fiもない、時代から取り残されているような島だ。
なにしろ小さい島なので、島ひとつがまるごと小さな町。トム・ロフティス町長は、苦しい経済を立て直すため、なんとか観光客を呼び込もうとしている。ところが、沖合で漁船の通信が途絶え、町が霧に包まれるなど、島では不吉な現象が起こりつつあった。
「この島は呪われている」と訴える年長者をよそに、トムは観光客をつかもうと必死だ。その甲斐あって、にわかに島がにぎわいを見せはじめたころ、古い怪談が次々と現実になりはじめて。

ジャンルこそ「ホラーコメディ」だが、物語そのものはホラー/ミステリーに近く、しかも演出はそのジャンル区分にとどまらないほど多様だ。この島では、毎回異なる恐怖が観る者を待ち構えている。
世界観と物語を設定する第1話をはじめ、シリーズの序盤はオーソドックスな「怪異もの」。蘇る死者、惨殺事件が起きたホテル、海の魔女など――謎めいた恐怖がトムや住人たちに襲いかかる。
シリーズが大きく動き出す、最初の見どころは第4話だ。トムのアシスタントであるパトリシア(ケイト・オフリン)に焦点が当たるこの回は、コミカルで楽しいサイコホラーで――矛盾しているようだが、見るとその意味がわかる――島をめぐる物語も一気に展開する。
各話ごとにホラーのジャンルを変えながら、やがて島の歴史と秘密をめぐるミステリーに。風変わりな住民が暮らす閉鎖的な土地そのものが主役となる構造は、土地の名前をタイトルに冠しているという共通点を含め、どこか「ツイン・ピークス」を思わせる。

笑わせないホラーコメディ
「ウィドウズ・ベイ」の魅力は、その温度の低いトーンにある。
ホラーとしては、むやみにジャンプスケアを連発するのではなく、不穏な空気や恐怖の予兆をじっくりと見せる。かたやコメディとしては、おかしなシチュエーションやセリフであっても、それが「笑いどころ」であることをほとんど主張しない。
オフビートな笑いを忍ばせながら、ホラー/ミステリーとしての緊張感とスリルを失わない――そのバランス感覚がすれすれのラインで成立しているのは、あくまでも本作が「ストレートなドラマ」として演出されているからだ。なかでも町長トム役のマシュー・リスは、絶妙な振れ幅を見せつつ、人間としての内面を巧みに表現している。

また、舞台となる島の美術や撮影にもこだわられており、外景はマサチューセッツ州のロックポートやグロスター周辺で撮影された。海辺の町並み、古い教会や灯台、住民が集まるレストランなど、いかにも「どこかにありそう」なリアリティが世界観を支えている。
脚本・ショーランナーは「パークス・アンド・レクリエーション」のケイティ・ディポルド、監督・製作総指揮は「アトランタ」のヒロ・ムライほか。エミー賞において、ムライはアジア系監督として初めてコメディ部門の監督賞を受賞した。
唯一無二の作風を形にした仕事も、エミー賞での高評価につながった。キャスティング賞のほか、美術賞(第2話)・音楽監修賞(第4話)・音響編集賞(第5話)・音響ミキシング賞(第5話)・撮影賞(第6話)・音楽賞(第6話)を受賞している。
島の暗部を「観光」する
毎回ジャンルとスタイルを変えてゆくシリーズの作り込みと、映像や音の細部にまで忍ばされた伏線――。さまざまな怪異に接近していくうち、物語は一本の長い怪談へつながっていく。
まるで「ウィドウズ・ベイ」を観ること自体が、呪われた島の歴史をたどる、一種のダークツーリズムのようだ。「呪いなんて迷信だ」と突っぱねていた町長トムも、怪異に直面するうち、島の秘密に向き合わざるをえなくなる。主人公と観客が、ともに〈観光地〉の奥深くへ入っていくのだ。
ところで、過去の闇が現在の呪いとなって現れるという仕掛けは、どこか日本の怪談や和製ホラーにも似て馴染み深い。腰を据えてじっくりと観るのでなくとも、ぜひ気軽に楽しんでほしいシリーズだ。

今年のエミー賞では、Apple TVが「ウィドウズ・ベイ」以外にも大きな存在感を示した。全15作品で過去最多の89部門にノミネートされ、「ウィドウズ・ベイ」の14冠、「プルリブス」の6冠など計29部門を受賞。今年もっとも多くの賞を獲得したネットワークとなった。
なお、Apple TVは「ウィドウズ・ベイ」シーズン2の製作を、シーズン1最終話の配信前に決定済み。島の恐怖はまだまだ続く――もしかすると、Apple TVの快進撃も。














