2026年9月17日、東京ゲームショウ2026(TGS2026)のイベントステージで、Twitchによる基調講演「When Your Audience Plays Back: The Power of Live Community Building~視聴者と一緒につくる:ライブコミュニティの力」が行われた。
本ステージに登壇したのは、Twitch CEOのダン・クランシー氏。後半にはRiot Gamesでインターナショナル・パブリッシング&eスポーツ部門責任者を務めるウェイレン・ロゼール氏が加わり、対談形式で議論が交わされた。

ショート動画やAI生成コンテンツがあふれるなか、両氏が繰り返し強調したのは「人と人とのリアルタイムなつながり」の価値だった。
「反ソーシャル化」したSNSへのアンチテーゼ
GoogleでGoogle Book Searchのエンジニアリングを率い、自身も「DJClancy」名義で配信を続けるクランシー氏はまず、Twitchを「コミュニティを中心に据えたライブ配信エンターテインメントプラットフォーム」と定義した。ゲームが原点であり中心であることは変わらないとしつつ、その土台は配信者と、配信者が視聴者とともに築くコミュニティにあるという。
そのうえで同氏は、現在のソーシャルメディアが多くの点で「反ソーシャル」になっていると指摘した。スワイプを繰り返す体験は人を孤立させ、帰属意識をもたらさない。教会の集まりやランニングクラブと同じく、現実のコミュニティは一緒に時間を過ごすことで生まれる。Twitchは「椅子を引き寄せて、しばらく腰を落ち着ける」場として設計されている、というのが同氏の主張だ。
それを裏付ける数字が、平均視聴時間72分というデータである。他のライブ配信サービスでは、1配信あたりの視聴が72秒に満たないケースも多いという。Twitchが日本のZ世代を対象に実施した調査では、若年層が利便性や時間効率よりもリアルタイムの共感や体験の共有を重視し、オンデマンドよりライブ配信を好む傾向が見られた。「Twitchでは自分らしくいられる」と答えた人は3人に2人で、他のSNSの2倍以上にのぼる。

クランシー氏はさらに、他のプラットフォームではクリエイターが「替えのきく存在」になっていると述べた。TikTokでよく見るクリエイターが2〜3週間投稿を止めても、多くの人は気づかないだろうというのだ。発見には優れるが、深い関係の構築には向かないという整理である。
「その場にいた」体験が文化を動かす
もう一つの論点は、ライブ配信が他のコンテンツ制作の「上流」にあるという考え方だ。配信中に印象的な瞬間が生まれ、「その場にいた」体験がクリップとしてネット全体へ広がる。AI生成のショート動画があふれる時代だからこそ、本物の瞬間が際立つという。音楽やスポーツなど、ゲーム以外のジャンルへの広がりにも言及があった。
事例として挙がったのが、マライア・キャリーの息子であるモロッカン氏の配信だ。配信中に母親が挨拶に顔を出し、本人は恥ずかしがったが、コミュニティは沸き、瞬く間に世界的な話題になった。クランシー氏は、拡散の理由は有名人の登場ではなく、共感できる飾らないやり取りにあったと分析した。

日本からは、”スタンミじゃぱん”氏と”トコロバ”氏の事例が紹介された。スタンミ氏はVRChat配信中にミミズのようなアバターを使うトコロバ氏と偶然出会い、交流を重ねるうちに2人は友人になった。そして現在、スタンミじゃぱん氏のYouTubeチャンネルで再生数上位4本は、いずれもトコロバ氏の配信の切り抜きだという。コミュニティはTwitchで生まれ、その影響は外へ広がっていく。
「配信映え」を前提にしたゲーム設計とマーケティング
ゲーム業界への示唆として、クランシー氏は「プレイヤーと視聴者がリアクションし、話題にできる何か」を持つゲームがTwitchで成功すると述べた。例に挙げたのは、日本のインディー開発者2人がわずか2カ月で開発し、今年6月にリリースされた『めっちゃカメレオン』だ。キャラクターに色を塗って背景へ溶け込むかくれんぼゲームで、視聴者がチャットで居場所を指摘するなど、見ることがプレイと同じくらい楽しい。設計段階から配信映えを織り込んだタイトルだという評価だ。
この傾向は数字にも表れている。Twitchが9月に公表した視聴データでは、2026年1月1日から9月1日までのゲーム関連コンテンツの総視聴時間は世界で約86億時間、日本では6億3,000万時間を突破した。国内のゲーム配信者は9万人を超え、うち約3,200人がパートナーだ。とりわけ「インディーゲーム」タグの付いた配信は総視聴時間3億4,800万時間、前年同期比51%増と伸びが大きい。

パブリッシャーとの取り組みでは、2025年の『ELDEN RING NIGHTREIGN』発売に合わせてバンダイナムコと組み、プレイヤーの死亡回数を記録するグローバルな「デスカウンター」エモートを展開した例が挙がった。ポケモンワールドチャンピオンシップスでは、視聴やサブスクライブでポケモンのチャットバッジを集めて進化させられる施策も実施している。
クランシー氏は開発者向けの戦術を3つに整理した。参加を促す「瞬間」をつくること、コミュニティに会話の主導権を委ねること、eスポーツやイベント、報酬で発売後もファンダムを持続させることだ。
ツールとしては、視聴者にゲーム内報酬を付与できる無料のセルフサービス機能「Twitch Drops」と、配信上で装備の確認や投票ができる「Twitch Extensions」を挙げた。Dropsの実装は広がっており、「Drops有効」配信のグローバル総視聴時間は約16億時間で前年同期比46%増。2025年のキャンペーンは7,500件を超え、報酬を受け取ったユーザーは約4,000万人にのぼる。
ブランド向けには「感情の転移」という考え方を示した。Twitchユーザーの80%は好きな配信者を支援するブランドを好意的に捉え、48%は配信者の紹介を見て製品を試したことがあるという。HPのHyperXがAmazonプライムデーに実施したマイク「QuadCast」の施策では、配信者MattyB氏とのスポンサー配信で約10万人にリーチし、総視聴時間はベンチマークの2倍を達成した。
かつてないほど重要さが増したコミュニティ戦略
後半の対談で、ロゼール氏はJustin.tv時代からのTwitch視聴者だと明かしたうえで、Riot Gamesにとってコミュニティはすべての中心にあると語った。目指すのは、プレイヤーを「『リーグ・オブ・レジェンド』を遊んでいる人」から「自分は『リーグ・オブ・レジェンド』プレイヤーだ」と自認する人へ導くことだ。帰属意識を得たプレイヤーは、ゲームの共同制作者になる。だからこそRiotのパブリッシングでは「コミュニティこそが戦略だ」と位置づけているという。2012年にeスポーツ・ディレクターとして入社し、LoL Esportsのフランチャイズ化や『VALORANT』eスポーツの立ち上げを主導してきた同氏ならではの整理である。
クリエイターを、ロゼール氏は”現代のブロードキャスター”だと表現した。『VALORANT』ではコ・ストリーミングに全面的に踏み込み、eスポーツファンの半数を大きく上回る人がクリエイター経由で観戦しているという。彼らは今やライブイベントを運営し、チームを保有する存在でもある。

『VALORANT』のローンチでは、激戦のシューター市場に本物の形で参入するため、信頼する配信者の目を通して体験してもらう方針を取った。クローズドベータの参加権をTwitch Dropsで配布し、配信の視聴を唯一の入手手段とした結果、ローンチ当日に同時視聴者数170万人、総視聴時間3,400万時間超を記録した。この経験は後のコ・ストリーミングや、試合展開を予想する拡張機能「Shotcall」にもつながった。講演では、VALORANT Championsの総視聴時間が4,758万時間に達したことも示された。
長く遊ばれ続ける「フォーエバーゲーム」になる確信はあったのか。この問いにロゼール氏は、完全な自信などないとしつつ、仲間が見守るなかでクラッチを決める「VALORANTモーメント」を初めて味わったプレイヤーの反応に手応えを得たと振り返った。
AIが広がるほど「ライブのつながり」の価値は高まる
締めくくりのテーマはAIだった。ロゼール氏は、AIが今何をしてくれるかではなく、AIが人間や文明にどう作用するかを問うべきだと述べた。そして、デジタル化への反動として、人はライブでの本物のつながりをこれまで以上に求めると予測した。PCバンや地域のゲームショップ、オンラインのコミュニティがアリーナに集う流れを挙げ、「AIには人をつなぎ続ける役割を期待したい」と語った。
一方のクランシー氏も、講演とは別に設けられたラウンドテーブルでAIについて語っている。Neuro-samaのようなAI配信の事例に触れつつ、AIは基本的にクリエイターの創造性を増幅する補助ツールにとどまるとの見方を示した。デジタル空間にAI生成コンテンツが増えるほど、人は生身の人間同士の交流やリアルタイムの感情の共有をより強く求めるようになる、という認識だ。

日本市場についても、アニメやVTuberといった日本発の文化がTwitch全体へ波及している点を高く評価した。実際、「anime」タグの付いた配信は2025年に1,750万人の視聴者を集め、タグをカテゴリとして数えた場合は5番目に配信数が多い。VTuber関連コンテンツも2024年に配信時間・視聴時間ともに前年比10%増となり、世界全体で11億時間超が視聴された。アニメは「見るもの」から、リアルタイムに語り、共有する文化へと変質しつつある。
「接触」から「帰属」へ
今回の講演から見えてくるのは、プラットフォーム競争の軸の変化だ。ショート動画が「発見」を担う一方で、Twitchは「長く一緒にいること」を差別化の源泉に据えている。ゲーム会社にとっては、発売時の露出を積み上げるだけでなく、配信で語られ、視聴者が参加できる仕組みを設計段階から組み込む発想がより重要になるだろう。
プレイヤーが「遊ぶ人」から「一緒に築く人」へ変わったとき、ゲームは長く愛される存在になる。生成AIで供給量が増えるほど、人が集い同じ瞬間を共有する「場」の価値は相対的に高まっていくのかもしれない。














