Billboard JAPANが運営する書籍の総合チャート「Billboard JAPAN Book Charts」。本チャートは紙書籍と電子書籍、サブスクリプション、図書館での貸し出しなどを合算した総合ブックチャートだ。総合チャートに加えて文芸や漫画などのジャンル別チャート、発売年別のチャートなど全8種類のチャートが存在。月曜日から日曜日までの各種データをもとに生成されたチャートが翌週木曜日に毎週公開される。この記事では、8月27日に発表された文芸部門のチャートを解説。さらに、全8種類のチャートの中から2冊をピックアップして紹介する。
東野圭吾さんのガリレオシリーズが2作ランクイン
今回は8月17日から8月23日までの文芸部門のチャートを元に解説する。1位は東野圭吾さんの『ガリレオシリーズ』の最新長編作『永遠の記憶』。『ガリレオシリーズ』とは、ガリレオと称される天才物理学者の湯川学が、常識を超えた謎に挑むミステリーだ。5位にも同シリーズの人気作『容疑者Xの献身』がランクイン。前回の22位から大きくランクアップした。本作は第134回直木賞を受賞し、福山雅治主演で映画化された。
2位は同じく東野圭吾さんの作品で、『加賀シリーズ』の『あなたが誰かを殺した』。東野さんの作品は単体はもちろん、『ガリレオシリーズ』や『加賀シリーズ』、『ラプラスの魔女シリーズ』などのシリーズものも人気を集めている。他にも12位と18位に『白鳥とコウモリ』上下巻がチャートイン。本作は、実写映画の公開が9月4日に迫っている。東野さんの人気は根強く、今後も長きに渡りランキングに入ることが予想される。
3位には夕木春央の『方舟』、4位に朝井リョウの『イン・ザ・メガチャーチ』、6位には凪良ゆうの『汝、星のごとく』が続く。今回は初登場などもなく、ランキングがあまり動かなかった印象。安定の顔ぶれが並んでいる。
ガリレオシリーズ初の長編 根強い人気の『容疑者Xの献身』
今回は文芸部門チャートで5位を獲得した東野さんの『容疑者Xの献身』に注目したい。本作は2005年に刊行され、現在でも根強い人気を集める作品。ガリレオシリーズ第3作にして初の長編だ。
中心となる人物は、天才数学者でありながら不遇な日々を送っていた高校教師の石神。彼は隣に住む花岡靖子に密かな想いを寄せていた。靖子は夫と離婚し、一人娘の美里と共に住んでいた。
ある日、靖子の前夫・富樫が母娘の居場所を突き止めて訪ねてきた。金を無心し、暴力をふるう富樫を、靖子と美里は殺してしまう。 呆然とする二人を救うために、石神は完全犯罪を企てる。 だが皮肉にも、石神と帝都大学の同期であり、親友である物理学者の湯川学がその謎に挑むことになる。
本作は犯人が既にわかっている状況で話が進んでいく倒叙ミステリー。見どころはなんといっても石神と湯川の関係性だろう。二人は長年連絡を取っていなかったものの、お互いに好敵手と呼べる相手だった。皮肉にも事件をきっかけに再会することとなる。
愛する人のためにどうしても真実を知られたくない石神と、彼のことをよく知っているからこそ、彼の考えに気づいてしまう湯川。論理的思考の中に見え隠れする人間らしさや、湯川の苦悩がひどく切ない。何かが少しでも違っていたらと願わずにはいられなかった。
他の東野さんの作品同様に非常に読みやすい作品で、読めば読むほどに続きが気になり、長編でありながら一気に読むことができる。まさに続きが気になって夜更かししてしまう没頭小説だ。
ただのミステリーではなく、一人ひとりのキャラクターや心情がとても丁寧に描かれているため、ミステリーを苦手だと感じている人でも読みやすい作品。事件の真相が明かされるクライマックスでは、読者の中に募っていた違和感が鮮やかに回収され、思わず鳥肌が立つほどで、読後は『容疑者Xの献身』というタイトルが浮き上がってくるかのように心に残る。
本作のようなシリーズものは、読むのであれば最初から読まなくてはいけないのではないかと思いがちだが、ガリレオシリーズはそうではない。もちろん湯川やバディともいえる警察の草薙との関係性など、知っていた方がより作品を理解できる面はあるが、単体でも十分楽しめる作品だ。
“Heisei Books”6位にランクイン 不朽の名作『手紙』
2冊目のピックアップは、”Heisei Books”で6位にランクインした東野さんの『手紙』。”Heisei Books”とは、JAPAN Book Hot 100から平成に初版が発売された書籍を抽出し、順位化したチャートだ。
『手紙』は、犯罪加害者の家族を真正面から描き、映画化やドラマ化、舞台化もされた不朽の名作。発行部数270万部を突破したベストセラー作品だ。
本作の中心人物は、二人きりで生きてきた武島剛志と直貴の兄弟。剛志は弟の大学進学のための金を得ようとして空き巣に入り、強盗殺人の罪を犯してしまう。服役中の剛志から直貴のもとには、月に一度、手紙が届く。しかし、進学、恋愛、夢、就職と、直貴が幸せをつかもうとするたびに「強盗殺人犯の弟」という運命が立ちはだかるのだった。
剛志が罪を犯してしまう展開から始まる本作は、数ページ読んだだけでも心がぐっと掴まれる。ここから始まる物語が、決して幸せではないことの予感が漂っているからだ。剛志が罪を犯したとき、直貴は高校三年生。直貴は直貴なりに将来を考えており、兄によって生活が支えられていることも理解していた。重大な犯罪を犯してしまった剛志だが、その心にはいつも「直貴に幸せになってほしい」という思いがあった。だからといって罪が許されるわけでは決してなく、そのことは剛志と直貴が一番よくわかっているように感じる。
兄が服役してから、直貴はあらゆる困難に立ち向かいながらも懸命に生きていく。時には嘘をつき、今いる場所から抜け出そうとがむしゃらに努力するが、何かを掴みそうになる直前でいつも壁が立ちはだかる。弟のことを思って兄が犯した犯罪が、何よりも弟を苦しめている。直貴視点の物語ということもあり、どうしても客観的に読むことが難しく、直貴の夢が手の中からこぼれるたびに、言いようのない虚しさと苦しさが読者の胸にも広がっていく。
途中で何度も剛志が書いた手紙が登場するが、剛志は直貴を心配し続けるも、直貴がどれだけ苦しんでいるか、具体的なことを知ることはない。それは直貴が話さないからで、話せるはずもないのだが、その温度差のようなものが切なくもどかしい。
物語は終盤で一気に加速。年月が流れ、家族を持った直貴は、ついにある決意をする。ラストシーンを読み終わると、言葉にできない痛みが胸の中に広がった。人との絆とは何なのか。罪を償うことに終わりは来るのか。その問いが静かに、そして重く胸に残る作品だ。














