2026年8月18日、渋谷・セルリアンタワー東急ホテル。筆者はこの日、MIXIが年に一度開催する全社イベント「MIXI AWARD 2026」の会場を訪れた。目的はもちろん、同イベントを取材することだ。
会場から離れた渋谷スクランブルスクエアのMIXI本社でも、36階「CollabHub」にパブリックビューイング会場、35階にはサテライト会場が設けられ、出社した社員も自宅から観ている社員も、同じ配信画面を眺めていた。

社内表彰式というのは、その会社が一年で何を大事にしたかの答え合わせのようなものである。誰が表彰されたかではなく、何が表彰に値すると判断されたか。そこに一年分の変化が出る。
そうした前提を踏まえたうえでイベントを取材していたのだが、ひとつ引っかかることがあった。新人賞からマネジメント賞、そしてチームに贈られる最上位の賞まで、ほぼすべての受賞理由にAIが出てくるのだ。しかも、語られ方が「AIを導入しました」ではない。もっと手前の、仕事の組み立て方そのものの話として出てくる。
AIが日常になった会社の内側では、何が評価されるようになるのか。確かめたかったのは、その一点だった。
なお、MIXIには「パーパス、ミッション、ミクシィ・ウェイ、バリュー」(以下、PMWV)という企業理念がある。パーパスは「豊かなコミュニケーションを広げ、世界を幸せな驚きで包む。」、ミッションは「『心もつながる』場と機会の創造。」、意思決定の軸であるミクシィ・ウェイが「ユーザーサプライズファースト」、そして日々の行動に落とし込んだバリューが「発明」「夢中」「誠実」。MIXI AWARDは、このPMWVを体現した個人とチームを称える場である。冒頭で司会進行役の一人が口にした「称賛の場であると同時に、学びの場」という一言が、この日の性格をよく表していた。

「AIと一緒に入社しました」入社1年目が社員が俯瞰した2025年
最初に発表されたVALUES賞 新人部門は、入社1年以内の社員に贈られる賞だ。2024年10月から2025年9月に入社した社員が対象で、この一年で2名が選ばれた。
1人目は、コーポレートデベロップメント本部CD戦略部の川人海遊(かわと・みゆ)さん。未経験ながらM&A案件のPM(プロジェクトマネージャー)を担い、自発的に学んで専門知識を習得。質の高いアウトプットで社内外から信頼を獲得しつつ、AI活用による業務の型化と生産性向上を推進してきた。
紹介VTRで上長が挙げたキーワードは「誠実」だった。
「1年目だとM&Aで周りに助けてもらわなければいけない場面が多々あります。その中で彼女は本当に周りに誠実に向き合っていて、『川人さんに話せば大丈夫』という信頼を得ながら案件を進められている」
そしてステージに立った川人さんが口にした一言が、社内Slackのコメント欄を早速揺らした。
「私がMIXIに惹かれて入った2025年は、AIがぐっと身近になった年でした。今思い返せば、同期と一緒にAIと入社したような気持ちでもいます」
Slackのコメント欄には「AIと入社、名言」という書き込みが並んだ。だが本当に興味深かったのは、そのあとに続いたコメントのほうだ。ほぼ毎日出社しているという川人さんは、オフィスで起きた変化をこう説明した。
「AIが仕事をしている間に、今までよりも一緒に話すことが多くなりました。『このサービスはこうするんだ』『こういうのをやったらどう?』みたいな雑談がよく聞こえるんです」
AIが仕事を代わりにやっている時間に、人間は何をしているか。手が空いた分だけ雑談が増えている、という話である。入社1年目の視点で語られたこの光景が、この日のあとの賞すべての伏線になっていた。
2人目は、デジタルエンターテインメントオペレーションズ本部『モンスターストライク』(以下、モンスト)運営部の白井寛人(しらい・ひろと)さん。ユーザー体験の向上を目指して自ら発案した「確定枠ガチャ施策」で継続率に大幅貢献し、重要IPコラボの担当に抜擢された。他チームが動かしていた施策に「僕も参加したいです」と自ら手を挙げ、開発サポートまで担ってリリースにこぎつけたエピソードも紹介されている。
「この仕事をしている以上は、自分たちが楽しみながらワクワクして取り組むことで、ユーザーの皆さんに新たな価値や体験を届けられるのではないかと思っています」

選考委員を代表して登壇したファウンダーの笠原さんは、「ノミネートされた方々が本当に優秀で、選考がとても難しかった」と振り返りつつ、2年目以降への期待を語った。
法務が越境した一年。AI推進のボトルネックはどこにあったか
この日、二つの賞に名前が出た人物がいる。コンプライアンス本部法務部の唐澤克弥(からさわ・かつや)さんだ。
唐澤さんはVALUES賞の受賞者5名の1人に選ばれ、さらに全社投票による大賞2名の1人にもなった。受賞理由は、業務用途に合わせた生成AIツール(GPTs)の全社展開を、法務部門の旗振り役として推進したこと。社内で作成された2,000以上のGPTsのうち、法務部門が提供したものがユニークユーザー数ランキングの上位10位中5つを占めるという結果を出している。難しい案件にも前向きに向き合う姿勢から、社内では「ミスター優しい法務」と呼ばれているという。
法務部門が社内AI活用のランキング上位を独占する。字面だけ見ると意外に響くが、その意外さの正体は、1年前の社内の空気を聞くと分かる。
選考委員としてマネジメント部門の総括に立った村瀨さんが、唐澤さんの受賞に触れた場面があった。
「1年前に、部室長を全員集めてAI技術について話し合う合宿をしたんですよ。その時に法務部門で出てきてくれたのが唐澤さんで。その時ですね、AI活用における法務的な問題について議論する機会があったんです」
AI活用を全社で進めようとしたとき、最初に詰まるのは技術ではなく組織の関所だった、ということである。そして関所側に立たされていた部門から、たった1人だけ合宿に出てきたのが唐澤さんだった。
「それが今になって、ちゃんと越境して、環境を整えてくれて、なんだったら『優しい法務』なんて言われて、一意専心で変え続けてくれた。これはすごく嬉しいことだなと思います」
当の唐澤さん本人は、大賞のスピーチでこの1年を次のように総括した。まず、これだけ自由にAIを使わせてくれる会社は多くないという環境への感謝。社内でナレッジシェアが活発だったから、事業部門に展開すべきGPTsが何かに気づけたということ。そのうえで、自分の課題としてこう続けた。

「AIを使っていると、アイデアがないと先に進まない、何も生み出せないと感じるんです。一方で法務という立場は、事業部門の方々が生み出してきたアイデアを、一言で無いものにできてしまう非常に強い立場にある。だからこそ、『これは難しいですよ』『できないですよ』という一言には、しっかり責任を持って発言するべきだと、この1年を通じて改めて感じました」
AIを使い倒した先で、アイデアを生み出す力の希少さに気づき、それを潰しうる自分の職種の権限に思い至る。AI活用の受賞スピーチとして、これはかなり異質な着地点ではないだろうか。
「開発速度2倍」人も時間も資金も全部ベットする
PMWV賞 マネジメント部門を受賞した2名のうち1人が、ソーシャルベッティング事業本部 開発室AIイノベーショングループのマネージャー、津田恭平(つだ・きょうへい)さんだ。全職種に展開可能なAI活用の「型」を生み出し、40%以上の業務効率化とリリース頻度の倍増を実現している。
数字だけ見れば典型的なAI導入の成功事例だが、津田さん本人が明かした立ち上げの経緯は、意思決定の粗さのほうが印象に残る。
昨年9月のマネージャー会議にて、「生産性の底上げを目指したAIドリブン開発環境を手に入れたい。とにかく今やらないとダメ」という提案があり、人・時間・お金・リソースを一点集中で全投資する、という決断が下された。企画職からデザイナー、QA、エンジニアまで、全職種のチームから1人以上の主力メンバーが集められる。しかも当時は複数の大型案件が並行して走っていた時期だった。

「これだけ素晴らしいメンバーがいるのだから、成果を残せなかったとしたら、それはもうマネージャーである自分のせいだ、という認識でやらせていただきました」
津田さんはこの賞について、「個人の賞というより、チームでいただいている賞だと認識しています」と答えていた。AIイノベーショングループはビジネス職・企画職向けの勉強会も頻繁に開き、部署の外へも知識を展開している。
このマネジメント部門について、選考委員の村瀨さんが述べた総括が鋭かった。他の賞との違いについて、こう定義したのである。
「VALUES賞では『越境したことが成果につながった』という話がありましたが、マネジメントは越境させたら負けだと思っているんです。そもそも壁を作って関所を作り、決断や判断のスピードを遅くしているのはマネジメント側なので。そうしたことを含めて、『マネジメントとは決断とスピードである』と思っています」
現場が越境しなければならない状況は、そもそもマネジメント側が壁を作ったからという自己批判の形をとった定義だ。先ほど伝えた全投資の決断や法務部門の越境も、この定義の下では同じ現象ということになる。
発明は口に出したところから始まる
VALUES賞のもう1人の大賞受賞者は、デジタルエンターテインメントオペレーションズ本部『モンスト』IPクリエイション部の林僚太(はやし・りょうた)さんだった。
受賞理由は、モンストの新限定キャラクターをめぐる発表手法である。新キャラクターはモンストニュースで発表するという従来の定石にとらわれず、有名ボカロPとのタイアップ楽曲のミュージックビデオにキャラクターを先行登場させた。キャラクター制作という自分の役割の枠を越えて、プロモーション施策そのものを立案したことになる。
ただ、当人が語ったのは企画の中身ではなく、「企画をどう通したか」だった。関係部長3名を集めて提案し、承認が下りたのは3回目のフィードバックの後。そこからもトラブルが続いたという。

「自分が関わってるサービスでこういうのやってみたい、と思いつくことは他の方にもいっぱいあると思うんです。でも自分は、『とりあえず口にする・声に出して誰かに話しかける』ことを大事にしています。声に出すと実現したり、新しい何かが生まれたりするんですよね」
この「とりあえず口にする」は、VALUES賞 新人部門 の川人さんが語った「AIが仕事をしている間の雑談」と地続きになっていると言えるだろう。
VALUES賞の受賞者は5名。残る3名の取り組みも、いずれも職種の枠を越えたところで生まれている。CS本部CX部の野崎由梨(のざき・ゆり)さんは、「複雑な感情はAIでは評価できない」という常識にとらわれず、人の感情をAIで評価する独自指標を構築し、CS業務の品質評価プロセスをAI化して年間2,700時間の工数削減を実現した。ソーシャルベッティング事業本部開発室の渡辺隆春(わたなべ・たかはる)さんは、QAという職種の枠を超え、TIPSTAR事業部のタスク管理・ナレッジ共有・仕様管理をNotionでゼロから再構築し、100名以上の組織のコミュニケーション基盤を作り上げている。そしてコーポレートデベロップメント本部CD戦略部の伊藤翔哉(いとう・しょうや)さんは、後述する海外M&Aの統合プロセスを立ち上げから牽引した。

なお、このVALUES賞は全社からの推薦で候補が集まる。今年は約600名の推薦が寄せられ、事務局がすべての推薦コメントに目を通したうえで、選考会で5名が決定した。大賞2名は8月3日から5日の3日間の全社投票で決まり、投じられた票は790票。選考委員の島村さんによれば、推薦者数は昨年の1.5倍、投票数は2倍以上に増えたという。
「海外なんて夢物語」が当たり前になるまで
この日の最後に発表されたPMWV賞は、PMWVを体現している、あるいは体現にトライしている事例に贈られる、MIXI AWARDの象徴とされる賞だ。本部長・部室長からの推薦をもとに選考会が開かれ、3組が受賞した。
そのうち2組については次章で触れる。ここでは、この日いちばん長く時間が割かれた1組を追いたい。
オーストラリアを中心にスポーツベッティング事業を展開するPointsBet社のM&A、そしてPMI(統合プロセス)に取り組んだチームである。
このプロジェクトは、マネジメント部門でも評価されている。同部門を受賞したもう1人、ソーシャルベッティング事業本部 海外事業部 部長の大場大史(おおば・たいし)さんが、当社初の海外大規模M&A・PMIを主導した人物だ。紹介VTRで同僚たちが語ったのは、その報告の仕方だった。

「M&Aをすると、当初想定していない事象がいろいろ起きてきます。うまくいかないことも出てくる。それを経営やコーポレートの各部門に報告していくときに、彼は悪い情報から先に共有する『Bad News First』を貫こうという形で、ネガティブなところをしっかり報告したうえで、その後のチャレンジにコミットしていた」
別の同僚は「正直に言うと厳しい人です。でも必要な厳しさで、ちゃんと愛がある厳しさ」と続け、「一見ドライに見えるけれど、ちゃんと温かい人」と評した。買収の当事者は、良い報せを届けたいし悪い報せは隠したいという力学の中にいる。それでも悪いニュースから出すことで、関係者全員が最大のリスクを共有できた、というのが同僚たちの見立てだった。
登壇した大場さんは、賞の名前をもじった即興の「PMWV作文」で会場を沸かせている。「PointsBetのP、MIXIのM、WorldのW、ValueのV。PointsBetを起点に、MIXIのバリューを世界へ届けようとしています」。そして最後は、社内向けの求人のような呼びかけで締めた。
「オーストラリア、カナダ、インド、日本でチャレンジしています。一緒にやってもらえる仲間を常に探しています。少しでも興味があればDMをください。33階に我々のチームはいます」

案件そのものは、およそ順風満帆ではなかった。紹介VTRでは、2024年5月頃にプロジェクトが始まったこと、MIXIにとって初の海外TOBだったこと、そして明確な対抗買収者が現れて以降は買収合戦になったことが語られている。議決権が伸びず、過半数に届くかどうかのぎりぎりの戦いを強いられたという。
そして、統合初日であるDay1にチームが大切にしたのは、MIXIのやり方を持ち込むことでも、PointsBetのやり方に合わせることでもなかった。
「言語や文化、仕事の進め方や意思決定の考え方が違うからこそ、まずはしっかりお互いを知り、それぞれの背景を理解することが必要でした。制度や仕組みを統合する前に、まず人と人との距離を縮める。違いを乗り越えるのではなく、違いを活かして一つのチームになる。それが私たちにとって第一歩だったと思います」
法務、税務、会計、ガバナンス、レポーティング、権限設計。部門の垣根を越えて複雑な論点を一つずつ整理していった過程は、前述の伊藤さんの手によってAIを活用したプレイブックとして仕組み化され、今後のM&Aのための資産として残されている。
全従業員によるリアルタイム投票の結果、大賞に選ばれたのはこのPointsBet M&A・PMIだった。代表してマイクを取った荒木さんは、受賞をこう受け止めている。

「何か一つ大きな成果を成し遂げた賞というよりも、一歩また新しいリスクを取って、そのリスクを取り続けて次に繋げていこうとする。そういった挑戦に対する賞だと理解させていただいています」
そのうえで、「M&AとPMIは鶏と卵の関係にある」と説明した。PMIができる体制や人員がなければM&Aは成功しないが、M&AをやってみなければPMIの経験値は貯まらない。だからどちらを先にやるかといえば、M&Aでリスクを一歩踏み出すしかない。2019年に木村弘毅社長が就任して以降積み重ねてきた国内M&Aの経験が、そのまま今回の海外案件の土台になったという整理である。
そして、この受賞の価値をこう位置づけた。
「おそらく多くの皆さんにとって、MIXIが海外にチャレンジするなんて夢物語だと、2年前、3年前は思っていたんじゃないかなと思いますが、今はもうそういったことは全くなく、当然海外に挑戦していく、それが当たり前の空気になっていると思っています。そういう社内の変化を一つ残せた新しい動きが、今回のM&A・PMIが一つ全社に残せた価値なんじゃないかなというふうに思っています」
案件の成否ではなく、社内の空気が変わったことを成果として挙げる。そして「1歩目に大きなリスクを取ったことの本当の価値が現れるのは、その後の2歩目、3歩目を作っていけるかどうか」だと続けた。
一年のAI活用を社外にまで開いた2組
PMWV賞を受賞した残る2組は、いずれも「発信」に関わるプロジェクトだった。
1組目は「MIXI MEETUP! AI Day 2026」。FY26におけるAI活用の集大成として、社内外に向けたナレッジシェアを行ったイベントである。全24セッションと体験展示ブースを展開し、17本部にわたる取り組みを紹介した。エンジニアリング領域にとどまらず、デザインやバックオフィスでの活用、さらに体験型のインスタレーション展示までを含む構成だ。
「全社で一年間進めてきたAI活用の取り組みを、社内外にしっかり発信したいと思ったことがきっかけです」と同プロジェクトメンバーは語る。各事業・各部門で生まれた挑戦や成果を共有することで、部門を超えた連携を生み、AI活用をより早く広げられると考えたという。

苦労したのは、中身よりも運営だった。MIXIグループ全体を巻き込んだオフィス開催のイベントとしては過去最大級の規模になったため、セキュリティ設計、各種制限事項、ゾーニング、収容人数の限界の算出に手間がかかった。社食を無料化するにあたってのルール決めや食数の調整もあった。それでも「普段は昼時以外は閑散としていた社食エリアを終日賑やかにできたのは個人的にすごく良かった」という。
結果として、アンケートの満足度は90%以上。MIXIのオフィスで開催したイベントとしては最多の参加者を記録した。社外からは「AI活用の具体事例が自分の業務にも活かせそう」「MIXIではAIが現場に浸透していると感じた」といった声が寄せられ、広報と連携した発信は取材依頼にもつながっている。ステージで代表がまず口にしたのは、「各本部の皆さんが積み重ねてきたAIの挑戦や成果があってのMeetupなので、全社で手に入れた賞だと思っています」という言葉だった。
そして2組目が、総合オウンドメディアプロジェクト「MEDIAMIXI・MIXIのサブチャンネル」。本記事を掲載しているメディアそのものである。受賞理由は、業界の著名人を迎えた動画対談企画やラジオ番組など多岐にわたるコンテンツを通じて、社内で生まれる挑戦や想いを社内外へ届けてきたこと。構想が生まれたのは昨年の夏で、ホワイトボードに書かれた「動画・テキスト・ラジオ」という3つのメディアの原型がその出発点だったという。

「正直、その時は夢のような話で、半信半疑な気持ちで聞いていました」と振り返ったMEIDIA MIXI・MIXIのサブチャンネル運営メンバー。続く壇上での代表コメントは、大場さんに続く形での「PMWV作文」だった。P=パッション、M=メディアMIXI、W=ワールドワイド、V=ビクトリー。「勝負に勝つのはすごく大事だと思っているので、勝ちにはこだわって、登録者数10万人を絶対達成したい」
表彰式そのものが参加型のプロダクトだった
ここまで受賞の中身を追ってきたが、この日いちばん「MIXIらしさ」が出ていたのは、実は表彰式の作りのほうかもしれない。
まずはオープニング映像。冒頭に流れた映像の一部には、実際の会場をスキャンして3D化した素材が使われている。会場にいる人間が見覚えのある景色を見る、という仕掛けだ。
そしてパブリックビューイング会場には、応援用のペンライトが人数分用意されていた。参加者が一斉に振ると、その動きに合わせて配信映像に特別な演出が走る。さらに拍手をすると、音量を検知して配信画面と授賞式会場のスクリーンに拍手の絵文字が飛び交う。オンライン視聴者はSlackチャンネル「#mixiaward2026」からコメントで参加でき、コメント数が増えると追加で特別な絵文字が飛び出す。

授賞式会場のカメラは7台。受賞者の寄り、司会の2ショット、賞のタイトルテロップを乗せる引きの固定、観客を抜くカメラ、クレーン、そして「エモい画」を担当する1台まで、役割が分けられていた。会場にいる人も、オフィスで観ている人も、自宅から観ている人も、同じ画面を一緒に作っていく。社内表彰式に対して過剰とも言える作り込みだが、この過剰さ自体が「ユーザーサプライズファースト」という意思決定の軸を、社員に向けて実演していることになる。
その思想がもっとも露骨に出たのが、今年から加わった新しい賞だった。
例年ならパブリックビューイング会場との中継に移る時間帯で、司会進行役が「今年のMIXI AWARDは一味違います」と切り出す。大々的に掲げられたのは、「最初で最後!? MIXI AWARD 2026 シークレット賞」という文言だった。日頃のちょっとした貢献やアワードへの熱量を体現している”一番◯◯な人”を、運営本部が勝手に称えてしまうという本日限定の特別賞だ。対象は全社員。会場にいる人も、配信を見ている人も、受賞の可能性がある。

贈られた賞は合計4つ。過去1年間で誰よりもオフィスに出社し、かつ打刻忘れがゼロだった社員に贈る「出社率No.1&打刻忘れゼロ賞」(同率1位が6名いた)。開場した瞬間に最初に会場へ入った社員を称える「Collab Hub 一番乗り賞」。オープニング直後の運営アナウンスに続いて”光の速さ”でコメントを打ち込んだ社員に贈る「Slackコメント 一番乗り賞」。そして、VALUES賞の全社投票で最も投票率の高かった本部に贈られる「投票率No.1本部賞」。受賞したソーシャルキャピタル本部には、MCが自らマイクを持って会場を歩き回り、本部長のもとへ直接届けるという演出がとられた。
賞品は全賞共通で高級焼肉弁当。投票率No.1本部賞にいたっては本部の全員分である。
一番乗り賞を受賞した社員が中継で理由を問われ、「受賞された皆さんを全力でお祝いしたいからです」と即答して会場が沸く場面もあった。称賛の対象を成果だけでなく、「日々の積み重ね」や「イベントへの熱量」にまで広げる。成果を出した人だけを表彰する場では、成果を出していない大多数は観客になる。その構造を崩しにいったのがこの賞だと言える。
参加設計は、大賞の決め方にも及んでいる。PMWV賞の大賞は、3組のスピーチが進む7分ほどの間に行われる全社リアルタイム投票で決まった。Slackチャンネルに投票フォームのリンクが投稿され、社員は手元のスマホから「最もPMWVを体現していると感じたチーム」に一票を投じる。興味深いのは、その集計の見せ方だ。票の動きは会場の大画面には映されず、参加者それぞれの手元でだけ動いていた。受賞者のスピーチへの集中を切らさないための設計である。
社内表彰式の投票システムに、そこまでの設計思想を入れる会社はそう多くない。だがこの日の受賞理由を一通り聞いた後では、それが自然に見えてくる。
なぜすべての賞でAIの話になったのか
最後に登壇したMIXI代表取締役社長の木村弘毅さんは「みんなカンペを見すぎ。それが気になって中身が全く入ってこなかった」と笑いを誘った。

そのうえで、PointsBetのM&Aについて、競合が現れて最終日の最終日まで結果がわからなかった舞台裏を明かし、こう述べている。
「ビジネスは本当に一期一会で、全ての皆さんのアクションというのは、当たり前に未来が決まっているものはないと思っているんですね。その中で1ミリでも成功に近づくために、みんなで誠実に頑張る。そして新しい驚きを発明していく。夢中になってそこに突き進んでいく。そのことが必要なんじゃないかなと思っています」
そして、来年への予告のような一言で締めくくった。
「今年度はAIを使った新しいプロダクトが、どんどん世に出てくる年になると思っています。なので来年のこのアワードは、ニュープロダクトたちで競い合っているんじゃないかなと思っています」

冒頭の問いに戻る。なぜ、この日のすべての賞にAIが出てきたのか。
答えは一つではなかった。1年目の社員がAIを同期のように受け入れ、雑談の時間が増えた。法務が越境して関所を開き、事業部門の速度を上げた。マネージャーが人も時間も金も一点に賭けて、開発速度を倍にした。キャラクター制作の担当者が役割の枠を越えて発表手法を発明した。CSの品質評価に感情の指標を作った。そして海外M&Aで得た知見が、AIを使ったプレイブックとして次の案件に手渡された。
AIそのものが評価されたというよりも、AIが日常になったことで職種を越えて動くコストが下がり、その越境が成果になった人たちが表彰されている。村瀨さんが言った「マネジメントは越境させたら負け」という定義の裏返しでもある。壁を崩す作業が、この一年でようやく現場の側から可能になった、ということだ。
もう一つ、この日に生まれた小さな現象を記しておきたい。大場さんが即興で始めた「PMWV作文」——賞の名前を自分たちの言葉で読み替える遊びは、次にマイクを持った受賞者へ、そのまた次へと連鎖していった。台本のどこにも書かれていない、完全にその場で発生したものである。終盤には「今の気持ちをPMWVで表すと言いたいんですけど、次の人にプレッシャーになるのでやめておきます」と断る受賞者まで現れ、会場が笑った。

理念というものは、たいていは額縁の中で静止しているものだ。それが2時間のうちに、社員たちの手で勝手に崩され、遊ばれ、言い換えられていく。この突発的に生じた連鎖が、この会社の一年をよく説明しているように見えた。














