ドイツで進められていた世界最大級の公開型ゲーム保存プロジェクトが停止に追い込まれた。約6万本ものゲームを収蔵し、研究者や一般利用者へ公開してきた「Internationale Computerspielesammlung(ICS)」は、公的資金の終了を受けて事業継続を断念したという。
ゲーム産業は過去数十年で巨大なエンターテインメント市場へ成長した一方、その歴史をいかに保存するかという課題には十分な答えを見いだせていない。今回のICSの頓挫は、ゲーム保存を支える仕組みの脆弱さを象徴する出来事といえるだろう。
ICSは2012年から活動を開始し、フロッピーディスクやCD、DVD、Blu-ray、カートリッジといったメディアだけでなく、パッケージ、説明書、販促資料、関連ハードウェアまで含めて保存を進めてきた。ベルリンのゲーム関連機関や大学、業界団体が協力し、世界でも例を見ない大規模な公開アーカイブとして運営されてきた経緯がある。
しかし、約150万ユーロの公的助成が2026年4月で終了し、恒久的な制度化について検討されたものの、予算規模や運営負担を踏まえ実現には至らなかった。資料そのものは各機関に残される見通しだが、共同データベースや公開インフラの維持については不透明な状況にある。
87%が正規流通外に ゲーム保存が抱える構造的課題
2023年に公表された調査では、米国で発売されたクラシックゲームの87%は現在、正規流通の外に置かれていると報告されている。研究者の間では、その保存状況はサイレント映画を下回るとの指摘も存在する。映画や文学が文化資産として制度的な保護を受けてきたのに対し、ゲームは長らく消費財として認識されてきたためだ。
さらに、ゲーム保存は著作権問題とも密接に結びついている。米国では保存されたゲームを研究目的で遠隔利用できるよう求める例外措置が繰り返し申請されてきたものの、認められていない。作品を所有していても利用環境が失われれば体験できなくなるという状況は、多くのレトロゲームが直面する課題となっている。
近年は保存活動を支えるコスト面の問題も顕在化している。民間運営の大規模ゲームアーカイブ「Myrient」も、AI需要によるストレージ価格上昇を受け、一時は閉鎖危機に直面した事例として知られる。デジタル化が進めば保存は容易になるという見方もあるが、実際には大容量データを長期的に維持するための経済的負担は決して小さくない。
公的支援だけでは守れないゲーム文化
一方で、今回の事例を過度に悲観的に捉える必要はないとの見方もある。ICSが収集した資料自体は消失するわけではなく、参加機関が保管を継続する可能性は高い。また欧州では、ゲームを文化遺産として保護すべきだという議論も拡大しつつある。
ただし、今回明らかになったのは、公的支援だけに依存した保存モデルの限界である。ライブサービス型ゲームやデジタル専売タイトルが主流となるなか、保存対象はソフトウェアだけでなくサーバーデータや運営履歴へと広がりつつある。こうした変化を考えれば、行政、研究機関、メーカー、コミュニティが役割を分担しながら支える新たな仕組みが求められるだろう。
ゲームはもはや一過性の娯楽商品ではなく、時代を映し出す文化資産でもある。ICSの終了は、一つのプロジェクトの終焉にとどまらない。「ゲーム文化を未来へ残す責任を誰が担うのか」という問いを、業界全体へ突き付ける出来事となりそうだ。














