Billboard JAPANが運営する書籍の総合チャート「Billboard JAPAN Book Charts」。本チャートは紙書籍と電子書籍、サブスクリプション、図書館での貸し出しなどを合算した総合ブックチャートだ。総合チャートに加えて文芸や漫画などのジャンル別チャート、発売年別のチャートなど全8種類のチャートが存在。月曜日から日曜日までの各種データをもとに生成されたチャートが翌週木曜日に毎週公開される。この記事では、6月25日に発表された文芸部門のチャートを解説し、その中から2冊をピックアップして紹介する。
伊坂幸太郎の殺し屋シリーズ最新作『777 トリプルセブン』が首位
今回は6月15日から6月21日までのデータを元に解説する。今週は伊坂幸太郎の「殺し屋シリーズ」の最新作『777 トリプルセブン』が1位に輝いた。「殺し屋シリーズ」とは、個性的な殺し屋たちが登場する伊坂氏の人気シリーズ作品。本作は『グラスホッパー』『マリアビートル』『AX アックス』に続く最新作となる。2位、4位には辻村深月のデビュー22周年記念作品『ファイア・ドーム』の上下巻がランクイン。3位は柚木麻子の『BUTTER』だった。河出文庫版には第7回野間出版文化賞受賞スピーチなどが新規収録されている。
第6位には東野圭吾の『魔女と過ごした七日間』が初のランクイン。7位には現在映画公開中の『黒牢城』(米澤穂信著)が続いた。8位には6月16日に文庫が発売した青崎有吾の『地雷グリコ』が登場。本作は女子高生が日常の中で風変わりなゲームに巻き込まれる本格頭脳バトル小説だ。青崎氏は本作で第24回本格ミステリ大賞、第77回日本推理作家協会賞、第37回山本周五郎賞など、数々の賞を受賞した。
9位には10月に映画公開を控える『汝、星のごとく』(凪良ゆう著)、7月より実写ドラマがスタートする『一次元の挿し木』(松下龍之介著)が引き続きランクイン。12位以下には『方舟』(夕木春央著)、『コンビニ人間』(村田沙耶香著)、『傲慢と善良』(辻村深月著)、『成瀬は天下を取りにいく』『成瀬は都を駆け抜ける』(宮島未奈著)など、長く人気の作品が今週もチャートインしている。
子どもの遊びをアレンジしたゲームで頭脳戦『地雷グリコ』
今回は第8位の『地雷グリコ』と第20位の『成瀬は都を駆け抜ける』をピックアップする。
『地雷グリコ』は、勝負事にやたらと強い女子高生・射守矢真兎(いもりや・まと)を中心にした連作短編集。彼女と友人・鉱田は、数々のゲームに巻き込まれることになる。タイトルから不穏な展開を予想する人もいるかもしれないが、命をかけるようなデスゲームではなく、日常生活の中の延長にある勝負が描かれている。
登場するゲームは「グリコ」や「ジャンケン」、「だるまさんがころんだ」など、子どもの遊びをモチーフにしたもの。ほとんどの人が遊んだことがあるであろう遊びに独自のルールを追加し、ハラハラする展開のバトルが繰り広げられる。頭脳戦を描いた小説を読み慣れていない人も、馴染みのある遊びがベースになっているため、自然に作品の世界に入ることができる。
本作はさまざまな人物の視点を交えながら進んでいく作品で、個性豊かなキャラクターたちも魅力。真兎は飄々としていて何も考えていないかのように見えて、実は先の先まで見越している。真兎が勝利する様子は清々しくかっこいい。そのギャップこそが彼女の魅力だ。鉱田はいわゆる「普通の人」ではあるが、真兎の近くにいることでぐっと存在感が増す。鉱田の視点は読者の視点と近いものがあり、彼女の視点を挟むことで読者はその場で真兎たちの戦いを見守っているような気分になれる。読者が物語に入り込む上で欠かせないキャラクターだ。
その2人だけでなく、最初に戦った生徒会のメンバー・椚や、後半に戦う他校の生徒もそれぞれ個性がある。登場人物が多い作品は名前や関係性を追うのに苦労することもあるが、本作はひとりひとりのキャラクターが立っているため、それぞれが印象に残りやすい。
前半は真兎視点が少ないこともあり、彼女が何を考えているのかがつかめない。しかし、鉱田をはじめとした周囲の人物との関係が見えてくると、真兎の輪郭も少しずつはっきりとしてくる。最後には真兎の内面に少しだけ触れることができたような気がした。ヒリヒリするような頭脳戦と、個性豊かなキャラクター。本作はその両方を味わえる1冊だ。
背中を押してくれるビタミン小説の完結作『成瀬は都を駆け抜ける』
『成瀬は都を駆け抜ける』は、成瀬あかりを中心とした青春小説『成瀬あかり』シリーズの完結作。1作目の『成瀬は天下を取りにいく』では中学生だった成瀬が、完結作では大学生となっている。7月からは1作目の『成瀬は天下を取りにいく』、2作目の『成瀬は信じた道をいく』をもとにした舞台が上演。成瀬役を女優の山下美月が演じる。
本シリーズの魅力は、なんといっても成瀬のキャラクターと彼女を取り巻く個性豊かな登場人物だ。本シリーズは、成瀬の周りの人物の視点で語られる多視点小説。シリーズを通して成瀬の視点はほぼ登場せず、「周囲から見た成瀬」を描いていることが特徴だ。だからこそ、まるで読者も成瀬の近くにいるような感覚になる。1作目から完結作まで読むと私たちも成瀬の成長や変化を感じることができ、愛おしい気持ちでいっぱいになる。
成瀬は一人でなんでもできてしまうように見え、他人の目に振り回されることなくマイペースに生きている。しかし、成瀬のマイペースさは、決して自分勝手ということではない。本シリーズの登場人物は、何かしらの悩みを抱えていることが多い。そんな彼らが成瀬と出会うことによって、少しずつ前向きに変わっていく。成瀬自身が「当たり前」だと思っていることは実は誰もが簡単にできることではない。
例えば成瀬はいつもスケールの大きなことを口にする。彼女が大切にしていることは「日頃から口に出して種をまいておくこと」。たとえ目標を達成できなかったとしても落ち込まない。
夢や目標を口にすることは、そこまで気軽にできることではない。周りに言って叶わなかったらどうしよう。そんなことが頭によぎる。SNSが普及し、世界は人の目で溢れている。そんな中で生きるのは、正直息苦しい。1作目から完結作まで、成瀬はいろいろなことにチャレンジする姿を見せてくれた。成瀬を見ていると、自分軸で生きることの大切さと軽やかさを目の当たりにしているような気持ちになる。
何かを始めたくて気合いを入れたいときや、周囲の目が気になって一歩踏み出せないとき。本シリーズは弱気になったときの背中をそっと押してくれるビタミン小説だ。














