2026年5月16日(現地時間)、米ロサンゼルス近郊・パサデナで、日本人アーティストのみによる過去最大級の海外フェス「Zipangu(ジパング)」が開催された。Ado、新しい学校のリーダーズ、ちゃんみな、HANA、MAN WITH A MISSION、千葉雄喜、10-FEET――ジャンルを横断する7組が並び、約2万人を集めた。主催は、Adoのマネジメントを手がける株式会社クラウドナイン。同社は十数億円規模のリスクを一社で背負い、この”賭け”に出た。
代表取締役社長・千木良卓也氏は、その手応えを「まだ成功とは思っていない」と冷静に語る。それでも「日本人の誰も踏み出せなかった一歩を踏み出せた」と言い切る、その真意とは。Musicmanで展開したロングインタビューのハイライトをお届けする。
「まだ成功じゃない」――一社で十数億円の”賭け”
なぜ、一社でこれほどのリスクを取れたのか。千木良氏は当初から巨額の赤字を覚悟していたという。それでも動いたのは、条件の揃う会社が他になく、待っていては手遅れになるという危機感からだった。
「ビッグなアーティストを出せる」「海外の大手プロモーターと会話ができる」「大きな会場を借りられる」「お金のリスクを背負える」――この4つを揃えられるところが、何年かは出てこないと思うんです。でも、その何年かを待っていたら、音楽業界の状況自体が変わってしまう。だから、うちがやらなくちゃなと。
「matsuri」の悔しさから、自分たちで
そもそもの原点は、前年の「matsuri ’25」にあった。Ado、YOASOBI、新しい学校のリーダーズという”日本代表”級の3組のステージを目の当たりにして、ある思いを募らせたという。
当日その3組のアーティストのパフォーマンスの素晴らしさを見て、もっと多くの人に見てもらいたいって思いました。
なぜクラウドナインだけができたのか
巨額のリスクを取れた背景には、日本と海外で異なる”興行”の構造がある。日本ではアーティストが会場費を払い、チケット代がアーティストに入る。だが海外の多くは、その逆だ。
ところが欧米の多くは、チケット代が会場に入って、会場からアーティストにフィーを払う。固定額だったり、一定以上はパーセンテージだったり。つまり、チケットが売れないと会場側も困るし、売れればアーティスト以外に会場も得をする。だから会場は、とにかく人を集められる人に貸したいんですよ。そうなると、これまで全く海外の実績のない日本のアーティストは貸りるのが難しいんです。
その壁を越えられたのは、Adoが積み上げてきた数字があったからだ。
Adoは日本人のソロアーティストとして、おそらく累計動員は最高でしたし、興行の世界ランキングで94位に入ったこともある。100位以内に入った日本人のソロアーティストを、私はそれまで見たことがなかったんです。
日本が世界で勝てなかった「3つの理由」
坂本九から宇多田ヒカルまで、日本の音楽は幾度も世界に挑んできた。それでも”みんなが思うレベル”に届かなかった理由を、千木良氏は3つ挙げる。
1つは、日本のスターが必ずしも海外思考ではないので、いざ海外思考のアーティストが現れた時に慣れてなくて対応出来ないことが多い。
2つ目は、国によってそもそもの権利構造が違ってしまっている場合がある。
3つ目は、これは私の超個人的な感覚ですけど、「気後れ」だと思うんです。島国だから、外国人慣れしていない。
アニメに頼らない、「100%の音楽」で戦う
Netflixを通じて世界に広がるアニメ。その主題歌に乗る形で日本の音楽も――という道に、千木良氏は与しない。短期的なメリットは認めつつ、アニメと音楽は同じタイミングでは伸びない、と見る。
もしアニメが世界のトップエンタメになったとしたら、その時、日本のアニメは日本の音楽を使わないと思うんです。今だったらブルーノ・マーズや、ビリー・アイリッシュに歌わせる。つまり、アニメと音楽は同じタイミングでは上がっていかない。
続けることに意味がある――Zipanguの未来
Zipanguを一度きりの興行で終わらせるつもりはない。千木良氏が描くのは、ロサンゼルスに根付かせながら、需要のある国を巡っていく構想だ。
来年もロスでやりたい。あの地域に「Zipangu」というフェスを根付かせて、当たり前のものにしていきたいんです。それと同時に、日本ブーム・アジアブームが起きている別の国――メキシコ、フランス、イタリアなどでもやれたらと思っていて、いずれは年2本体制にしたい。
音楽は、世界を一番早く縮める
千木良氏がZipanguに込めるのは、目先の興行を超えた射程だ。最後に、音楽というビジネスの本質をこう語った。
音楽って、世界を一番早く縮めるんですよ。遠方とビジネスをやる時の難しさの一つは「質量」なんです。モノを運ぶのは大変で、その質量が距離になってしまう。でも、音楽は質量がない。シンプルに空気の振動ですから。
本記事は、Musicmanで公開中のロングインタビューのハイライトです。クラウドナイン設立の経緯、社名に込めた哲学、そして倒産・無職からマネージャーへと転じた千木良氏自身の物語まで――語り尽くした全文は、以下からご覧いただけます。














